創立!? 三ツ星生徒会4 そうして恋3は辿りつく (ファミ通文庫)

【創立!? 三ツ星生徒会 4.そうして恋3は辿りつく】 佐々原史緒/大場陽炎 ファミ通文庫

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調整型というと、どうしてもリーダーとして軽く見られる傾向があるように思われる。たとえば、政治家にしても、組織やグループのリーダーとしても調整型という肩書きがつくだけで、声が大きく率先して行動するタイプのリーダーと比べて、いささか指導力が一段落ちるような印象を抱いてはいないだろうか。
だが、それは現場を知らない外野からの一方的な認識と言えるのかもしれない、と自他共に調整型の生徒会長として認められ、広く支持を集めつつある向坂恵の存在感を目の当たりにすると、ふとそんな考えを巡らせてしまった。
実際、様々な意見や立場、利害関係が絡まりあう現場において、強烈な指導力による突破力は時に大きな革新の波となって旧弊を打ち砕くものかもしれないが、現実としてそれが全体の機能停止を招き、より大きな弊害を生み出すケースを挙げれば枚擧に暇がない。
皆の意見を集約し、立場を考慮し、利害の妥協点を見出して、誰もが納得し得る最適の解決方法を導き出すということは決して安易な解決法ではないのだ。むしろ、非常に困難で結果を導きだすことに多難を擁する道だとも言える。真の調整型とははいはいと人の意見を簡単に聞き入れ、耳障りの良い返事を返し、都合のいい題目を唱えるようなものではない。皆に難を割り振り、損を共有化し、恨まれながらも客観的な視点における最善を具体化し、その上で誰かにとっての致命的な損壊を回避するというものだ。
それは、ただがむしゃらに突き進めばいいものではない。俯瞰的な位置からの視野の広さを維持しながら、細心の注意を払い足元に目を凝らすという舵取りが要求される、余程の我慢強さと粘り強さと慎重さとタフネスさが要求されるやり方だ。

鳥越と葛城、二人の個性的な生徒会長の狭間で、向坂恵はずっとそのやり方を黙々と実行し続けた。嘆き愚痴り疲れ果て、何度も挫けながらも、彼は最後まで決して自分の仕事を放り出さなかった。
それがどれほど偉大なことなのか。彼の成し遂げていくことがどれほど大変なことなのか。それを堅実に実現していく彼がどれほどの人物なのか、一緒に仕事をしている生徒会の皆が気づかないはずがない。鳥越たちも、葛城女史たちも、とても優秀な人たちであるからこそ、恵本人が自覚している以上に、彼を高く評価し、一目置くようになっていく。
そして、その理解は幾度もの学校行事と、それら行事が頓挫しかねない危機を乗り越えていくことで、一般生徒にまで広がっていく。この巻においてもうすぐ始まろうとしている総生徒会選挙で、向坂恵はもう鳥越と葛城、二人の偉大なる生徒会長のオマケでも、名前だけの居るだけ生徒会長でもなく、星イチ出身生徒のみならず広く支持を得られ、三高校合併後の統一生徒会を任されるに足ると誰しもに認められるほどの評価を得るに至っていた。
よくぞ、あの意志薄弱でヘタレた男の子がここまで来たものだ。あとがきで作者も述べているけれど、向坂恵は作者がこれまで手がけてきた作品の主人公の中でもとびっきり、ダメな子だったように思う。なんだかんだと、作者の書く主人公はバイタリティにあふれていて、弱音や愚痴を吐きながらヒーヒー泣き言わめきまくる子は多かったものの、喚きながらも土壇場になるとガァーーーっとものすごい勢いで目の前の障害をバッタバッタと片付けていくような子たちだったのだ。それに比べてこの子と来たら、イジケる拗ねる自虐に甘える、と本当によわっちくちっぽけでツマラナイ、なんの取り柄もないお子様だった。

そんな子が、ここまで成長したのだ。なんかもう、感慨深くて仕方ない。
面白いことに、恵は結局最後まで才能が開花したり、能力が覚醒したり、という事はなかったんですよね。目覚しくやり手になった、という風情はどこにも見当たらない。ただ、堅実にみんなの意見を聞き、投げ出さないで、地味に黙々とやるべき事を投げ出さずに最後までやり遂げ続けただけ。でも、それこそが本当に立派だった。
どうしようもないと投げ出しても仕方ない、これはできないと諦めても仕方のない事件が起こっても、ラノベの主人公としては滅多と見ない、マジフラレ、本気の失恋を喰らって精神的にボロボロになるという、辛い辛い目に合ったにも関わらず、ピーピー泣きじゃくりながら、グチャグチャに凹みながらも、最後まで歩き抜いたこの子は、本当に偉かった。

心の底から褒めてあげたい主人公である。


しかし、見事に途中からヒラリとメインヒロイン入れ替わったなあ。最初から四月さんは脈薄そうではあったものの、当初は確かに恵は一途に彼女にアプローチしようと粘ってたもんなあ。
実のところ、もうちょっと水穂さまの方と恋愛イベントあるかとも思ってたのですが、意外にも最後まで親愛関係で終わってしまいましたね。
水穂さま、あれだけ俗っぽいにも関わらず、不思議と神様としての立場でキャラクターが立脚していて、ひとりの女の子の顔は本当に最後の最後の一瞬まで見せなかったもんなあ。あの最後の行為にしても、異性への愛情というよりも、心の底からの親愛、という感じだったし。
でも、とても美しいラストでした。
あの、駄神と呼ばれるにふさわしい身も蓋もない俗っぽさは、本当に大好きなキャラだったんですけどね(苦笑
ネトゲもできず、Amazonも配達してくれない神の庭でこの人がやっていけるのか、かなり絶望的にも思えるのですがw