ミスマルカ興国物語 VI (角川スニーカー文庫)

【ミスマルカ興国物語 6】 林トモアキ/ともぞ 角川スニーカー文庫

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ぐーーーっ!? 

ちょっとここからはネタバレ必定の文章になるので、無駄かもしれないが格納しておきます。




ま、まさかまさかの【お・り・が・み】のあの人の再登場。子孫などではなく、その人当人がそのまま登場しなさるのは、セリアーナ以来だろうか。しかし、セリアーナは魔人だから生きているのは当然として、あの人は人間だったはずなのに。
やっぱり、一度死んでドクターに改造されたからなのか!? フランケンシュタインなのか!?
ただ、容姿の方は成長しているみたいなんですよね。【お・り・が・み】では、確かに少女だったのが、こちらではどうも成熟した女性となっているみたいだし。改造されたから人間ではなくなったのか、それともあれ以降に人間でなくなるような事件があったのか。
性格の方はもう一切あの頃から成長していないんですよね。これがまた恐ろしい。あの「死ぬのは悲しいこと」と「殺すのは楽しい」という矛盾した思想をなんの矛盾もなく内包している壊れた魂はかつてのまま。ドクターが望んだ死への恐怖は未だ彼女の中には芽生えていないらしい。何百年経っても変わらないその変容のなさは、やはり人間と言うよりも神に近しい在り方だわなあ。
でも、壊れっぷりには変化はないものの、やり方はムチャクチャとはいえ、ジェスを弟子として育ててたり、かつて聖魔王がどんな気持ちで聖魔杯を作ったかも知らず、我欲むき出しで奪い合う姿に怒りを見せたり、と確かに変わっている部分も見受けられるんですよね。なんか、感慨深い。
思えば、ドクターが身を呈して殺す快楽のみしか知らなかった彼女に「死ぬことは悲しいこと」を教えたからこそ、ジェスが彼女に助けられ、強くなったというのは因果だよなあ。

しかし、この明らかにチートクラスの人をどんな風に扱うのか、物語の中でどういう役割を果たさせるのかと思ったら、もうやってくれたとしか言い様がない。
クライマックスの麻雀勝負で彼女が見せた気概には、正直スカッとした。ある意味、ここで彼女が果たしたのは【お・り・が・み】や【戦闘城塞マスラヲ】の読者が抱く気持ちの代弁者としての役割なんじゃないだろうか。あの作品で鈴蘭たちが成し遂げたことを知っていたら、ここの連中がやらかしている争いというのは、少なからずフラストレーションたまるもんなあ。
だからこそ、あそこで場の勝利をもぎ取ったのが、かつてのクラリカを彷彿とさせる正しき信仰心を見せたエミットであったのはものすごく納得。いやあ、クラリカに比べりゃ、エミットはずいぶんと真人間様で、ちょっと気恥ずかしくなるくらいまともなんですけどね。……いや、あれでまともとか真人間って、クラリカどんだけヤバかったんだ、と冷や汗モノなんですけど。


次回で第一部が幕、ということで物語は佳境に差し掛かっているわけだけど、ようやくここに来て主人公たるマヒロにまつわるモヤモヤがスッキリ晴れた気がするなあ。
今までの彼ってあんまり好きじゃなかったんですよね。世の中ナメているというか、斜に構えて眇め見ているというか、なんか拗ねて捨鉢になっているというか。自分を含めてこの世の何にも価値を見出していない人物に見えていた。その目的である暴力を伴わない平和の獲得、というのも崇高な言葉とは裏腹にひどく薄汚いもののように感じていたわけです。
でも、幾多の事件を乗り越えていくうちに、マヒロは世界の有様というものを自分の目で見て、自分の肌で感じ、人とのつながりを思い知ってしまった。自惚れていた自分の才覚をせせら笑われるような、てひどい敗北も知った。空虚だった中身が段々埋められてきた中で、今回、ようやく彼の真の目的が父親への復讐だと知れ、父王がかつて何をやらかしたのかという過去が明らかになると同時に、父王の真意もまた、マヒロへと伝わることで、彼を濁らせていたわだかまりの大半が解けたことで、ようやくマヒロは主人公らしい目的と展望を持てた気がするんですよね。
おかげで、何か気持ちよく彼の蛇としての言動を見る事が出来るようになった気がします。
その意味でも、ようやくこっから始まった気がするなあ。

一方で当面の敵である帝国の内情もここで大まかに明らかに。皇帝、生粋の善人なのか。一番厄介な類の人種だな。なまじ能力が高かったのと、娘たちや部下が優秀だったおかげで、小国が帝国として世界の半分を握るほどに大きくなってしまったわけだ。ただし、本来の目的と現実をすり合わせることには、半ば失敗しかけており、同時に錯誤がつづいている、と。

こうなってくると、西から現れる魔王が何者か、というのが気になるんだよなあ。
気になるといえば、神殿協会の預言者が、相も変わらず彼女で合ったのはある意味想定内なんだけど、その傍らにあの聖騎士長が侍ってるとは思わなかった。いやそうか、そういえばあのおっさん、ハーフだったっけ。なら、無くはないのか。
でも、そうなると気になるのがゼルピム共和国で国防長官を努めるセリアーナなんだよなあ。おっさんとセリアの関係を考えると、セリアが共和国で国政の中枢にいるというのが非常に気に掛かる。元々セリアには共和国の要人という顔以外にも、裏の顔もあるわけだし。
あともう一つ。預言者、まだ堕ちたまんまみたいだけれど、先史文明が崩壊している今、既にクルト・ゲーデルの不確定性定理もハイゼンベルグの不確定性原理も失われているんじゃないだろうか。となると、彼女の力、戻ってる?