ガンパレード・マーチ 逆襲の刻(とき)―津軽強襲 (電撃ゲーム文庫)

【ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 津軽強襲】 榊涼介/きむらじゅんこ  電撃ゲーム文庫

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年末に突如勃発した主戦派によるクーデターは鎮圧され、首都・東京は静かな正月を迎えていた。しかし、5121小隊に初めて人間相手の戦闘を強いた内乱は、隊員たちの心に大きな負荷をかけた。そのストレスに壬生屋は再入院、滝川は過食に、さらには原の言動さえも怪しくなり始めていた。危うい状態の中、正月3日に北の大地から凶報が届く。津軽半島に幻獣上陸。予想だにしていなかった襲来に、民間人はもとより半島沿岸部の守備隊、警備隊までもが逃げることができず、殺戮の海にのみ込まれていった……


山川中将の活躍がもう八面六臂の域にまで達していて、凄いのなんの。会津閥の先鋭として芝村閥と対立し、大原首相派と距離を置いていた頃は、海千山千の寝業師としての並外れた政治屋ぶりに振り回され、頭を抱えさせられたものだけど、いざ味方になるとここまで頼もしい人材になるとは。芝村も政治はやるとはいえ、この一派は俗人離れした処があるので、剛腕かつ鋭利なやり方で表に裏に力攻めすることには長けているんだけど、ある種の搦め手、人間関係や政治情勢のバランスを手管にした絶妙の駆け引きの類は、どうも得手としてる風情じゃなかったんですよね。そこに、会津閥にも顔がきく軍内政治の名手である山川中将が加わったんだから、まさに足りないところに手が届く状況。さらに、今回手きが攻めてきたのは会津閥の本拠とも言うべき東北地方。山川中将の手練がなかったら、まともに軍を送って態勢を立て直すこともできなかったんじゃないだろうか。
いやあこの人、戦争は下手だったけど、政治は本当に抜群に上手いわ。自分でも言ってるけど、ただの政治好きな軍人と違って、好きな上に上手いと来た。そりゃあ、これほどの凄腕だったなら、味方じゃないときは厄介だったのも当然か。あの九州侵攻戦での大失態にも関わらず、政治的ダメージを殆ど負わなかったという不思議さも、今回の働きを見てたら大納得。今回のクーデターで、息子とともに単身戒厳令下の東京を駆け回り、軟禁された首相を助け出して脱出するという大立ち回りや、義父である官房長官の西王によう精神操作によるクーデター参加などの事態を経たことで、山川中将の意識もだいぶ変わったみたいだし、以前にあったある種の硬直した思考がほどけて、組織や派閥の益に目線を囚われない広い視野を取り戻したみたいだし、本当に頼もしい。これで、ちゃっかり適度に私利私欲は維持し、自分の政治好きを肯定しているところも、逆にしたたかさが失せてないと言うことで頼もしいんですよね。
こう言っちゃなんですけど、あの悲惨なクーデターの中で、最大の戦果はこの山川中将の取り込みだったんじゃないでしょうか。
クーデターのあと、立て続けに休戦状態にあるはずの幻獣が津軽に上陸したことで、穏健派の立場はかなり悪化したようですし、山川中将がいなかったら軍内の会津閥の空気はどうなっていたことか。幻獣側の内実については、本当に軍や政府の一部しか知らない状態で、津軽に攻めイってきた勢力と、カーミラが掌握している九州の勢力はまったく別の<国>とすら言っていい違いがあることを、国民は知らないんですからね。そりゃあ、休戦を支持する勢力は立場悪くなりますよ。
幸い、憲兵、警察という治安維持組織は大原首相の元にまとまり、西王に受けた精神操作を解除してまわったおかげで、カーミラに対する認識も完全に味方というものになって、一本化されているのは大きいですけど。

それにしても、先のクーデターの影響は悪すぎるなあ。軍内、もうボロボロじゃないか。軍の中核を為す中堅士官も相当ごっそり抜けたみたいだし。まだ、クーデターに参加した士官の多くは戦闘経験の無い者が多かったようだから助かってるけど(経験がないからこそ、現実をみないクーデターに参加したわけだが)。ただ、本来ならじっくり立て直しを図るはずが、早々に津軽に幻獣軍が強襲上陸。ただでさえ、経済が破綻寸前で、故にこそカーミラと結んで大博打を打って敵の首魁を討ち、和平にこぎつけたというのに、さらに戦争は続き、挙句、人造石油の供給地である北海道との連絡線を切断され、座していても早晩日本は干上がってしまうという……地味だけど、これ、これまでで一番追い詰められた状況かもしれない。
本来なら、日本みたいな長い海岸線に囲まれた国は、制海権がなかったら、どこからでも上陸されて、防衛のしようが無いもんなあ。
そもそも東北では、まともな軍は先の九州上陸戦のためにごっそり抜き取られているから、残っているのは兵備も訓練もろくに出来ていない警備部隊ばかり。援軍を送るにも、クーデターのおかげで予備部隊はボロボロ。ここで、大阪第四師団が出てくるのは笑ったけど。ほんとに、陸軍中枢からの大阪第四師団への扱いはひどかったんだなあ(苦笑
またも負けたか第八連隊、それでは勲章九連隊などと言われて、最弱呼ばわりされてたのは史実でも同じなのですけど、実際はかなり精強な部隊で、戦果もかなりあげています。
ここでも、ユーラシアでの悲惨な撤退戦で、かなり際立った働きを示したらしく、分かっている人の間では歴戦の撤退戦の名手として知られる部隊となっているようで、山川中将が切り札と持ち上げるのも、まんざらお世辞じゃないんですよね。ユーラシア以来の古参の兵士下士官が多数残り、装備も充実。山口や九州で無茶な突撃をかました連中と違って、粘り強く敵の攻勢に耐え忍べる部隊の性質といい、よくこの段階でこれだけの師団が無傷でまるまる残っていたものだと。陸軍中枢を統べる会津閥から軽視されてきたからだろうが、本気で切り札になりそうだ。

我らが5121部隊も、休暇を切り上げ、北へと向かうわけだけど、先のクーデターでこれまでと違い人間相手に殺し合いをしてしまった子どもたちは、いつにもまして精神的にダメージを受け、多かれ少なかれPTSDに罹ってるんですよね。原さんなんか、ほとんど壊れかかってたし。あれ、みんながうまくフォローし、善行さんが頑張らなかったら今回本気でヤバかったんじゃないだろうか。ホテルに連れ込んでナニをしてたかは詮索しませんけどw
まさか壬生屋が人型戦車で対人戦闘をやっていたとは思わず、ただでさえ疲弊しがちだったミオが、これは持つはずないよなあ。それでも、ボロボロになりながら、限界を超えて、さらにその先に限界を作り直して立ち上ある5121部隊の面々。
もっとも優れた反戦作品は、もっとも優れた戦争作品だ、という言葉はよく聞く言葉だけど、これもまさしくそれだよなあ。


どう手を打っても、これはもう殆ど詰み、という状態の中で、差し込んでくる一筋の光。
いや、これはまさか! と驚かざるをえない展開だけど、これが叶い、国民が真実に耐えられたなら、まさしく状況は一発逆転。これまで日本、ひいては世界が置かれてきた末期的な状況が、大転換を起こす一手になるんじゃないだろうか。
これは、正直興奮させられましたよ。

ただ、希望的観測とは裏腹に、なんかフラグ立っている人もチラホラ。あの……合田少尉、なんかヤバくないですか? なんか、微妙にコツコツとフラグ立てまくってるような、今回。まあ、前々から一番ヤバそうな立ち位置でありながら、しぶとく生き残ってきた人だから大丈夫だと信じたいんですが、今回特にヤバそうなんだよなあ。
その上、荒波少将がなんか、えらいことになってるみたいだし。前園さんと一緒にアレ、どうなっちゃったんですか! 描写が肝心なところで途切れて、レイニー止めどころじゃないですよ!!