俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉 (電撃文庫)

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない 5】 伏見つかさ/かんざきひろ 電撃文庫

Amazon
 bk1

四巻の感想でも書いたことだけれど、完全に作品を掌中に入れることに成功してるなあ。あとがきでは一番苦戦した巻と触れていはるけど、シチュエーションを用意さえしたら、もうキャラクターはある程度勝手に動いてくれてたんじゃないだろうか。少なくとも、黒猫や沙織についてはそんな感じがしたんだけれど。
なんにせよ、面白さの安定感がハンパない。いやさ、こりゃあ推進ロケット二段目に点火したんじゃないかしら。前巻から、こう「ぐぐっ」と面白さが迫り上がってきてる感じがするんですよね。

これは自分個人の感覚ではっきりと自信があるわけじゃないんだけれど、今回については黒猫の物語であると同時に、彼女に自分から積極的に関わろうとすることで京介兄貴の話にもなっていた気がする。なんだかんだとこれまで受身側だった京介が、この巻では最初から最後まで果敢に自律的に動いていたんですよね。その御陰で、彼の趣味趣向や思考パターンという人品の隅っこの方まで見えるように、掘り下げが進んでたように見える。
うーん、こうしてみると黒猫と京介ってかなり相性がいいんだよなあ。桐乃相手だと京介って兄の見栄か矜持かか、ここまで開けっぴろげになかなかなれないし。いや、なれなかった、と過去形で言うべきか。
桐乃がいなくなった事で空いた空白にぽんと入り込んだ黒猫は、気難しくて面倒くさい性格だけれど、京介にとっては他人であるからこそ意地をはらずに可愛がれる相手で、黒猫も京介は肉親でないからこそ、桐乃と違ってちゃんと人間関係の距離感を測る事が出来ていたわけで。
時として、彼我の距離感を測れずに踏み込みすぎ、離れすぎる肉親同士よりも、程よく近しい距離にある他人の方が、大きな影響と見識の変化をもたらすことがあるんですよね。麻奈美も、あれは肉親並に近すぎるのでダメだったんだろうし。
京介にどんな意識の変化が訪れたかどうかは、この巻の最後まで読めばわかるでしょう。正直、ここまで彼の桐乃への意識が変わると、この巻を挟んで桐乃との関係とか今後の話の広がり方とか、かなり変わりそうな予感がするんですよね。
黒猫との関係も含めて、これって麻奈美がいなかったらラブコメ的にもドえらく面白くなりそうなキャパもあったんだろうけどなあ。桐乃、これ絶対京介と黒猫との関係みたら、えらいことなるぞw
麻奈美の鉄板さはもうどうしようもなさそうだし、こればっかりはどうしようもないのか。

それにしても、京介は黒猫好きすぎだろうこれ(苦笑
ネコ可愛がり、とでも言うんだろうか。ここまで嬉々として性格の面倒くさい後輩少女の世話を焼きまくる男ってのも相当珍しいぞ。だいたい、小学生でもあるまいに、年下の女の子が部屋に入り浸っている事に対して、何の違和感も危機感も持っていない、というのはある意味阿良々木くん並に女性に対する意識がズレてるところがあるんだよなあ、京介にーちゃんは。
さすがに、二人きりの時は多少なりとも問題意識がある素振りを見せるあたりはまだ健全だけど。ただ、久々に伏見先生特有の女の子の無防備なエロさが所々で炸裂していたので、何となくイケナい雰囲気がそこかしこに漂っていて、ニヤニヤさせていただきましたけど。
まさか黒猫がこれほどヒロインとしてポンテンシャルを秘めていたとはなあ。4巻終わったときは黒猫ルート突入か、の振りにもふーんというくらいのものだっただけに、この巻の黒猫のヒロイン度の急上昇には、まったくもって御見逸しました、としか言えません。
あのシーン、黒猫のしおらしい態度からしても、まずメールの件がなかったらいわゆる決定的な出来事、が起こってたはずなのに、惜しい惜しい。

桐乃の一件は素直にお兄ちゃんグッドジョブ、と拍手したい。あのままだと、桐乃には間違いなくその後の人生に影響があるような挫折と傷を負うことになっただろうし。桐乃はバカだなあ、と思うけどあの自分に妥協や逃げを許さないかたくなさには敬意を覚えるんですよね。彼女のあの高潔さは失われてはいけない部分だと思うし、彼女が自身のそういう所に嫌悪や侮蔑を抱くようになってしまっては、彼女の在り様というのは大きく変わってしまっていたでしょう。
そんな彼女の一番真ん中の芯の部分に傷をつけず、大切なものを損なわせずに、見事に後ろに引かせたわけですから、お兄ちゃんよくやったと手放しで褒めてあげたい。
あのシーンは、桐乃を守る、という意味では一巻のクライマックスに匹敵するくらいに大きな仕事だったように思いますよ。

さて、これで黒猫の独壇場も終わってしまったものの、桐乃不在の間に大いに存在感を高めることには成功したわけで、これで次の巻からは二大巨頭並び立つ! といった風情になるのか。
次回はネタ満載のコメディになるそうですが、そろそろ沙織の話も読んでみたいなあ、とこれだけ想定以上の黒猫の可愛さを見せられると、ついつい期待してしまいます。