空ろの箱と零のマリア〈3〉 (電撃文庫)

【空ろの箱と零のマリア 3】 御影瑛路/鉄雄 電撃文庫

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上手い。やっぱり滅茶苦茶上手い。毎度のことながら、作者のイイ様に引っ張りまわされしまうこの作品の構成力には舌を巻いてしまう。
今回に関しては最初が誰か箱の所有者であり、今回の一件を引き起こした犯人か分かっている。もっと言えば犯人から明確な敵対宣言を受けている。故にこれまでのように誰が犯人か、という第一歩の段階で混迷を余儀なくされる余地はない、非常に明瞭にして明快な展開になるはずなのだ、普通は。
まったくもって考えが足りなかったとしか言い様がない。
逆に、犯人が分かっていることによって状況がここまで混迷させられるとは。それどころか、犯人が分かっているという一番重要で揺ぎ無いはずの前提条件ですら、それが正しいのかという真偽が問われることになるのだから、たまったものではない。情報が何もないという状況は確かに最悪だけれど、だからと言って情報を持っていることがそのまま難易度がイージーになるのとイコールではないということを、改めて思い知らされた。
まさか、ここまで引っ掻き回されるハメになるとは。
このシリーズの妙は、根底となる部分がとても単純で明快なモノとなっていることなんですよね。そのために、多重に迷彩がかけられ、幾重にもミスリードが仕掛けられ、何枚もフードが被せられた複雑怪奇な状況設定にも関わらず、分かりにくいと言うことがないのが凄い。状況が進み、真相が明らかになっていくに連れて、それまでの意味不明だった部分、違和感を感じていた部分、複雑に絡み合っていた部分が次々と紐解け、その意図が日の下に引っ張り出され、それがとてもシンプルなテクスチャーだったことが判明するわけです。
ああ、そうだったのか。と?が残ることなく理解が浸透し、納得が広がるわけです。
これがなにげに凄いんだ。
極限状態に置かれた人間心理の切迫感すらも、このゲームの全体の仕掛けに組み込まれており、それが明らかになったときのインパクトはなかなかのものだった。
さらに、このゲームは真相を知ったことで終わりではなく、むしろそこから新たな段階に進むようになっているのがまたよく出来ていると唸らされる。この参加者の情報格差はほんとに上手い。
加えて言うなら、このゲーム、進行するに連れて攻略の難易度自体は下がっていくんですね。情報が蓄積されることによって攻略の手法、手段はどんどん広がっていくわけです。
ただ、このゲームの怖いところはゲームを攻略して勝者になること=正解、では決してないところ。だからと言って、敗者になることは絶対的な敗北に繋がるわけでもあり、参加者は必死に無残な勝利を目指すことになる。
それこそ、手段を選ばずに、人を偽り、騙し、誘導し、陥れる。腹の探り合い、駆け引きに取り引き、脅しに懇願。ただ生き残るために、生き抜くために、人間性がむき出しに引きずり出される殺し合いのゲーム。でも、その人間として最低の薄汚い本性がむき出しになったとしても、そのさらに向こう側に垣間見えるのは、彼らの普段の姿だったりするんですよね。
エゴをむき出しにして生にしがみつくのが本性なのか、それとも他人を騙し傷つけることに自らも心がズタズタに傷つくことが本性なのか。
なかなか突きつけられるものがある。

そんな非日常の中で試されるのは、主人公の日常への異様な執着。今まで絶大な戦力であり頼もしい味方であったマリアは、その高潔な在り方からこのゲームでは最弱と言う他ないポディションに置かれている。信じられるのは彼女一人。でも、いつものように彼女には皆を守れる力はなく、それなのに自らを箱と規定している彼女は容易に自らの身を蔑ろにしようとする。
ゲームの全貌を知るに至った主人公は、彼女を守るため、日常を守るために通常の勝利条件を無視した、最難たる勝利条件に挑むことになる。それこそ、自らの生命を賭けた戦いに。

相変わらずマリアと一輝の絆の強さは揺るぎが無い。なんでこれで付きあわないのだろうと不思議に思うほどなんだけれど、マリアは自分を人間だと思っておらず、普通に幸せを手に入れる資格を持っていないと思い込んでいるだけに、あれほどデレているにも関わらず、マリアからの歩み寄りは無いと思っていいんでしょう。冒頭のお見舞いシーンでもその傾向は垣間見えたし。
ただ、今回は箱じゃないマリアの本音も聞けたし、一輝も過去のトラウマを押しのけてマリアを選択したわけだし、今マリアが無力化されている状況も相まって、次回の反撃の内容如何では大幅な進展もあるやも。

醍哉の方の事情も、どうも彼が口で言っている件だけではなさそうなんだよなあ。ゲームの中身自体は殆ど詳細が開示されたっぽいけど、まだまだ話全体には迷彩が掛かっている感じがする。醍哉とのやり取りを見る限り、一輝は何らかの推測が浮かんできているみたいだけど。

と、もの凄いイイところで次回に引き、というまたぞろ凶悪パターン。幸いにして、それほど待たされそうにないのは安心ですけど。

はこマリの略称はなかなかアリだと思うな、自分はw