EIGHTH 1 (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 1】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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また難しい主題で挑んできたなあ、この人は。前作の【機工魔術士】にしても【賽ドリル】にしても、明快な正解、正しい選択がないテーマに挑むことがこの人の漫画家、というよりも物語を創る者としてのスタンスなのだろうか。なんにせよ、正解がない問題について延々と苦闘の自問自答、他者との対話と衝突を繰り返しながら、その時その人における最善の答えを求め選択し続けるという苦しいルートを、この新しいシリーズでも辿ることになるのか。
このスタイルというのは、むしろ一途に目の前の理不尽や難問に苦悩する主人公たちよりも、その設問を用意し、全登場人物の懊悩を一手に引き受け導き、掘削していくことになる作者当人が一番負担が大きいと思うんですよね。毎度毎度、大したもんだと呆れながらも敬意を覚える。

今回のシリーズは、遺伝子産業界が舞台。遺伝子分野の技術云々を決して蔑ろにしているわけではなく、むしろそれを扱う側として非常に丹念に描写しているのだけれど、本題は技術そのものではなく、技術を実用化し社会に送り出す、その過程の部分における業界の暗部、しがらみ、硬直化に対して真っ向から挑むような内容になっている。
特に、二番目のお話は、既に十年前に確立されていた火傷に対する皮膚移植の新技術が、認可や実用化への治験、予算問題や利権問題なので表に出ることなく、腐らされていた、なんて話は実際に決して珍しくもない話なんじゃないだろうか。
主人公の所属するエイス研究所は、本社から独立実行権を得て、ある種目先の利を無視した迅速な行動に打って出ている。所長はじめ、職員の意識は間違いなく世の理不尽を蹴飛ばして、組織ではなく人や社会全体にとっての最善を追求することに徹底しているように見えるけれど、民間企業でこの姿勢というのは、立場的にかなり物凄い綱渡りを要求されてるんだろうなあ、特に所長。見た目チンピラで、軽薄な態度のおっさんだけど、その能力の大半は組織の独立性を維持することに費やされてるんじゃないだろうか。かなり忙しそうだし、本来所長が出向くはずだった皮膚移植の技術を持つ博士へのアプローチをキャンセルしたのも、単に忙しかったから、という段階じゃないみたいだし。
ああいう運営してたら、絶対本社から突き上げはくらうだろうし、同業者からの敵視はとてつもないことになりそうだし、かなり危ない橋をわたってるんだろうなあ。

主人公はエイスの警備員、まー警備員といっても建物の警備員じゃなくて、外回りもやる執行工作員って感じだけど。汚い仕事云々は与えられなくて、徹底してガードマンって感じだな。
これは、かなり周りの大人達に大事にされているようだ。今のところ、彼が突きつけられる問題と言うのは、極々狭い彼個人の視野に入ってくるレベルのことに限定されていて、それは周りの大人達の配慮によって彼に対して大きな選択肢を突きつけられないようにされている、という感じだし。
ただ、今の段階でも、結構厳しい選択ではあるんだよなあ。大切に配慮されているけれど、決して甘やかされてはおらず、むしろ厳しく鍛えられているっぽい。そのうちこれ、組織の庇護を受けられない状態で、正解の無い選択肢を突きつけられ、苦しむことになるんだろうなあ。
こっちもあれだ。頑張れ男の子! になりそうで、楽しみ。
順調に周囲にヒロインが集まってるけど、この人の作品において女の子というのは得てして一個の独立した強力なキャラクターとして主人公に負けず劣らずの意地の悪い設問を突きつけられる傾向にあるので、女の子が一杯だからってキャッキャウフフのぬるいハーレムとは程遠い形にはなるんでしょうけど、でもラブコメはちゃんとやって欲しいなあw