マギ・ストラット・エンゲージ〈2〉 (電撃文庫)

【マギ・ストラット・エンゲージ 2】 松山シュウ/かわぎしけいたろう 電撃文庫

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これは驚いた! びっくりした! 一巻から見違えるように面白くなってるじゃないですか!!
最初はアレでも、段々と面白くなるケースというのは多々アリますけど、ここまで激変するのは珍しい。
実のところこの作品、一巻で見切ってたんですよね。一巻は正直言って、面白くなかった。話の柱となる部分や起承転結は完成度が高かったのだけれど、逆に枠組みをしっかり作ることにかまけたのか肝心の話の中身に余裕がなくって、プロットの筋書き通りに話を進めるのに精一杯、という感じだったんですよね。
こりゃああかんなあ、と二巻は当初購入を見送るつもりだったのですが、ふと読書メーターなどで他の方の感想を見ていると、なんかやたらと評判がいいんですよ。それも、一巻と対比して非常に面白くなっていると言う内容が目に入り、それは読んでおくべきかと一ヶ月遅れで入手しページを捲ってみたのですが。
これがもう、抜群に上手くなってる。前は文章に全然入り込めなかったのが、今度はもう最初からクイクイと引き込まれたわけですよ。
勿論、傑作名作というほどの凄い面白さ、というわけではないのですけど、これはもっと続きを読ませてくれ! と切望する程度の面白さは十分以上に満ちみちていました。
どこが変わった、と具体的に例を上げるのは非常に難しいのですが、以前の枠組みの完成度はそのままに、全体のクオリティがあがったというべきなんでしょうか。余裕をもってエンタテインメントとして魅せる工夫がなされているというべきなんでしょうか、その辺はわかりませんけど。

意外にも、思いのほか恋愛要素というのは無いんですよね。主人公の世郎はそれまで普通の高校生だったのが、前巻の事件で双術師という特殊な魔術師になり、ヒロインのルルーラを師事して高校生をやりながら魔術師としても修練を重ねることになるのですが、この師弟関係が物凄い真っ当で、その真っ当さが逆に新鮮なんだなあ。
ルルーラは世間知らずで浮世離れした所があるものの、人間として非常に誠実で、師匠としては熱心かつ理性的でマジメで責任感が強く、先生役としてここまでまともなキャラクターも珍しいくらい。セロに対しても訓練は厳しいものの、とても気を遣って丁寧な接し方をしているので、師匠キャラの横暴さは微塵もなく、セロはセロで年頃の少年相応の、厳しく地味な訓練への不平不満を抱きつつ、こいつもなんだかんだとマジメで、面と向かって文句や嫌味を言うことなく、しっかり前向きに修行すると言う、なにこの健全師弟(笑
セロの等身大の高校生らしさは、これこそ普通の高校生だよなあ、という適度な真面目さと適度な不真面目さ、適度な遊び心と適度な親切心。面倒くさがりだけどやるべき事はやろうとする心意気。世のライトノベルで普通を名乗る主人公たちは、この物凄い普通な主人公を見習うべきだ、と思うくらいにキングオブ普通。普通ってのは無個性って意味じゃないんだよなあ、というのを色々な意味で実感した。
この二人の関係は、師弟関係、とだけで区切ってしまうのもちょっと違うんだよなあ。セロはルルーラに師としての敬意をちゃんと払っているのだけれど(これだけで偉い)、同時に同世代の若者同士としての気安さもあり、特殊な育ちゆえの世間知らずな面のあるルルーラに対して俗世での過ごし方について楽しく過ごせるようにと気遣い、面倒を見ようと言う意気もあって、お互いに魔術師としても学生としても、両方の立場で尊重し合ってるんですよね。
そこにはまだ、恋愛感情は双方ともにかけらも芽生えていないんですけど、これはこれで読んでて凄くイイなあ、と思わされる関係だった。
ルルーラの従者でセロにはいつも毒舌を吐くヴィオも、決してルルーラべったりの見境なしではなく、セロのことはキツい事を言いながらも認めてるし、ルルーラに対しても良く構ってはいるもののの、決して甘やかしてはおらず、距離感はごく身近に、でもひっつきすぎず、というこれも良い主従関係で。
今回の敵役の二人についてもそうなんだけれど、この巻についてはそれぞれのキャラクターの人間関係が、素晴らしくイイ距離感で描けてるんだな。
灰庭のいう<納得>も、その距離感に基づくものだったわけだし。
マリィの幼いメンタリティと、同時に切羽詰り追い詰められた人間のギリギリ瀬戸際、崖っぷちの精神状態を併せ持つという難しいキャラクターも、非常に上手く描けているし、事件の決着への道筋も、とても面白かった。
灰庭のクールでプロフェッショナルで、それでいて情の篭った生き様も、その双方を崩さず貫くやり口も、見応えあって、うん、良かった。

まだこう、結末に向けて強引に展開を舵取りする余裕のなさはところどころ見受けられるのですが、前巻と比べるならその辺は見違えるように改善されていて、いやはやこれだから新人さんはさらっとスルーできないんだよなあ。常にアンテナは立てておかないと、面白い作品を見逃してしまう事は珍しくないわけで。

このセロとルルーラの恐ろしくまともな師弟関係は、それはそれで読んでて心地よいものではあるのですが、このゆるがぬ信頼関係にラブの要素が入ってくるのを期待してみたい気もあるし、このままでも良さそうな気もするし、うーん、もうどうとでもしてくれぃ。どっちにしても、このクオリティが保たれるなら、間違いなく面白いままでイケそうだし。