ばけてろ  影の大統領はとてつもなく偉いのだ! (角川スニーカー文庫)


【ばけてろ 影の大統領はとてつもなく偉いのだ!】 十文字青/みことあけみ 角川スニーカー文庫

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サブタイトルの影の大統領の人、あれだけギャーギャーとうるさくて幼児性が傍迷惑でどうしようもないキャラクターにも関わらず、恐ろしいほど存在感がなかったなあ。本気でどうでもいいと、どれだけ声が大きくても印象に残りにくいのか。この【ばけてろ】という作品が、景敦とメルカ、千夜子の三人による三人のための三人の物語なんだからだろうか。結局、二巻にはミポルは出てこなかったわけだし。
第一巻のある意味最大の特徴だった、景敦のムッツリスケベっぷりは今回はわりと控えめだった。初登場時はあれだけ煩悩に身を任せていたのに、結構自重していた。一話でメルカたちが裸に剥かれてしまったときなど、前の彼なら一生懸命チラ見しそうなものだったのに。まあ、今回も覗きをやってしまったりと色々やっているのはやっているのだけれど、妄念がいささか押さえ気味だったんですよね。それが、メルカと千夜子の二人の女の子が、AVやエロ雑誌のモデルとある意味変わらない他人でしかなかった頃と違って、身近な親しい人間となってしまった事で、そういう対象として見ることに一方ならぬ罪悪感、申し訳なさ、バツの悪さといったものを感じるようになってしまったと言う事なのでしょう。それでも、なかなか若い情念を抑えきることが出きずに、ついつい出来心を迸らせてしまうのだけれど。
この初々しさは、人付き合いを今までまるでしてこなかった未熟さ故なんだろうけれど、意外と純真で誠実なんだなあ、と微笑ましく思ってしまった。
そんな自重しだしたかれに対して神様が祝福を送ってくれたのかは分からないが、今回は妙に景敦に対してラッキースケベが多かったような。メルカと千夜子、なにかと見られてはいけないところを見られてしまっているわけで。ご愁傷さまというべきか、お粗末様でしたと言えと言うべきか(?)
この三人の日常を追って行くと、意外なことに対人スキルが一番まともなのは一番鈍い千夜子だったりするんですよね。普通に友達もいるみたいだし、社交性もある。一番頭にお花畑が咲いているのも彼女だったりするわけですが。これは彼女個人の資質ではなく、彼女の家族全体がそんな感じみたいなので、千夜子の責任じゃないのですけどね。
一方で、メルカの方は逆に景敦並に対人スキルに欠けているっぽい。高飛車な性格とは裏腹に、かなり他人に対して臆病なんですよね。幼い頃のトラウマが未だに残っているからなのでしょうけど、千夜子以外の同級生に対しては積極的に距離を置いているみたいですし。その分、唯一の友人である千夜子に依存してるんですよね。何事にもトロくさい彼女を助けている庇護者という立場に、しがみついている。
ただメルカが偉いと言うか健気なのは、千夜子を決して自分の所有物のようには見ていない所なんですよね。彼女を独占しようとはせず、千夜子が他の友達と交遊する事を邪魔しようとはしないし、自分と付き合うことについて彼女の意思を強く尊重しているように見える。たぶん、この娘は千夜子が他の友達を優先して過ごすようになっても、何も言わず黙って距離を置いてしまうんじゃないかな。その点に関してはいささか危惧する処でありますけど。
それでいて、千夜子に何かあったら血相を変えて飛んでくるし、彼女を守り助けることに労を厭わない。確かに、その原点となる部分は多少歪んでいるのかも知れないですが、メルカと千夜子の関係というのは素晴らしい親友同士なんじゃないでしょうか。
正直、あの千夜子の桜の友人との一件ではメルカを見直したもんなあ。千夜子しかまともに友達のいないメルカが、ああも積極的に千夜子の友人探しに協力するとは。あれ、一つ間違えれば、自分から千夜子が離れて行くかも知れない可能性を、聡いメルカが気付いていないはずなかっただろうし。それでも千夜子のため、とがんばれるメルカはイイ子ですよ。どっか、危ういけれど。
あの話では、恐ろしく腰が重かった景敦も、自分から積極的に千夜子のために動いているんですよね。二人と付き合うことで、この少年も今までにない変化を迎えているということなのか。

しかし、なんだかんだとメルカたち、景敦の家にほとんど日参してたのか。なんか、遊びにいく、のノリが小学生レベルな気もするんだけれど、このむしろ何もセずにだらだらと家で過ごす時間があるからこそ、この三人の関係、やたらと距離感が近くなってしまってる気がするなあ。
メルカも景敦も他人との距離感の取り方がまるで上手くできないタイプだし、千夜子は何も考えてないタイプだし、そんな三人が不用意に近いところに固まってしまったために、随分と三人の関係って変なことになってるんですよね。お互いみんな気になっているのに、それをどう扱ってイイのか分から無いまま持て余しながら、ズルズルと距離感だけがどんどん近くなってしまっていってる。これは、ラブコメ展開になっていっても、どっちを選ぶか、とかそういう話にはならなさそうだなあ。