ガンパレード・マーチ逆襲の刻―弘前防衛 (電撃文庫)

【ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 弘前防衛】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫

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考えてみると、<憲兵>という存在をこれほど肯定的に描いている作品って、滅多に見ないよなあ。しかも、決して正義の味方とか清廉潔白な存在としてではなく、ちゃんと冷酷非情、時に残虐な暗闘を繰り広げる組織として描きながら、重要な存在として描かれている。
戦争と言う非常時の中で秩序を保つためには、彼らの存在は必要不可欠と言うことなのか。九州から山口にかけての戦線では、そういえば度々憲兵が仕事をしている描写が挟まれていたけれど、彼らがいないとここまで戦場というのは酷い無法地帯になるのか。戦争と言う過酷な状況は、人を容易に悪魔に変え、その本性を野獣へと変えてしまう。それら兵隊でなくなった兵隊たちを排除し、捕らえ、取り締まる憲兵がいてこそ、まともな兵隊たちは敵と戦うことに集中できる。逆に言えば、憲兵がいないことで軍人たちは敵と戦いながら、味方の無法とも相対しなくてはならなくなるわけだ。そりゃあ、精神がすり減るどころの騒ぎじゃないよ。ただ敵と戦うだけでもまともな人間と言うのは心が傷ついていくものなのに、その上味方の無茶苦茶さにまで向き合ってたら持つはずがない。この東北戦線では、以前の東京クーデターのお陰で、さらに未だにくすぶり続ける主戦派の蠢動によって、憲兵隊が首都圏から離れられず、敗色濃厚な東北戦線は秩序の崩壊した敗残兵と幻獣共生派テロリストの跋扈する無法地帯と化している。
東京クーデターで受けた精神的なダメージを乗り越えた皆だからこそ、耐えれている状態だけれど、酷いと言う意味では今までで一番酷い戦場なんじゃないだろうか。山口や九州も無茶苦茶だったけれど、少なくとも兵隊のモラルはそこまで壊れていなかったし。
おまけに、主戦派と和平派の対立は敵と直面する最前線でも決して消えたわけではなく、クーデター鎮圧に活躍した5121小隊は当然のごとくそれら主戦派の部隊からの敵意に晒され、舞たちは正面の幻獣だけではなく、背後の味方にも注意を配らなくてはならないというありさま。
ああもう、本当に末期戦だ!!

事実、日本経済は青函連絡線を遮断されたことにより、完全に破滅のコースに乗り、カウントダウン状態。大原首相の主導するプロパガンダは、効果をあげすぎ、国民はこの危機的状況を全く知らず、政府の弱腰を攻め立てるという、壊滅的状況。その風潮に乗り気勢をあげる主戦派。
もう、本当に終わっている状態なんですよね、この国。
まさか、カーミラお嬢が本当にここまで大きな意味で救世主となるとは。前回彼女が示してくれた救済策は、いわば戦術、いや大戦略的な凄まじいまでの救援で、それだけで十分と興奮させられましたけど、まださらに上があったのか!
今回荒波少将とカーミラの間で交わされ、大原首相に示された案は、その意味では政治的な大転換の、起死回生の一策となっている。
もしこれが本当に叶うなら、このガンパレード・マーチの世界はまったく様相を変えた世界になっていくに違いない。ちょっと、ドキドキしてきたよ。

前回、恐ろしいくらいのシビアな死亡フラグを立てていた合田少尉。もう、ヒヤヒヤしながら読んでたんですよね。完全に敵中に取り残され、孤立しかかった状況。弾薬は尽きかけ、負傷兵は護送できず、兵たちの士気はどんどん落ちてきてしまっている。これほど絶望的なのは彦島以来と、合田さんと橋爪が言うくらいだから、相当だったんだよなあ。
民間人で子供である、ある意味爆弾である二人の小学生を抱えているというのもヤバかったし。今回のグッドジョブは斉藤さんと言って良かったかも知れない。出会った頃は必死に合田さんと橋爪にしがみついてやっと戦場をくぐり抜けていた人が、ある意味部隊の士気を支えるような役割を担ってたもんなあ。子供らにも、厳しくも正しく接したことでありえたかもしれない悲惨な未来を回避してるっぽいし。
本当に本当にヤバかった今回。でも、合田少尉は、これは見事にしのいでみせた。それどころか、単に死亡フラグを回避しただけではなく、物語における存在感と言う意味で、ブレイクスルーしたような感さえある。今回読んでてしみじみ感じたもんなあ。この人だけは死なせちゃだめだと。絶対偉くならないといけない人だと言う、決定的なナニカが今回刻まれたような気がする。もう合田少尉って、今や兵たちの希望そのものだもんなあ。
一方で山川くん。この子は順調にと言うか順当にというか、政治家としての資質がちらほらと垣間見えるんですよね。それも、父親のそれとはだいぶタイプが違うように見える。あの、自然と人が集まってきて彼に話しかけてくる、構ってくるというのは、ある意味人の中心になるということで。これって、政治的な資質の一つだと思うんだけどなあ。本人はまだ気付いてないみたいだけど。
荒波少将、一瞬死んだかと焦ったけど、どうやら無事みたいでホッとした。前園さんも。この人らが死んだら、もしくは前線から離れることになったら、もう本当にチェックメイトだったもんなあ。カーミラに語った不退転の決意、やっぱカッコイイわこの人。
カッコイイといえば、今回の5121小隊で一番かっこよかったのは茜というサプライズ。いつもチャラチャラしていて浮ついてばかりの半ズボンくんだけど、こいつ何故かこと友人、滝川と厚志のことになると凄くマジメに真剣に、いっそ健気なくらい慎重に、でも決然と動くんだよなあ。それで毎回見直すんですよね。頭の良さ、作戦能力も去る事ながら、根底の人間性が大したもんなんだわ。その分。なんで普段、アレなのかと思うけど。

戦争がシビアになるに連れて、興味深いのがこの作品、憲兵隊の扱いに代表されるように清濁併せ呑むことに躊躇しないんだよなあ。それが悪でも罪人だとしても、勧善懲悪として断罪はしないんですよ。歪んだものは正せる。必要悪は認める、というスタンスにはいっそ潔さすら感じる。特に、今回のあの人の扱いには、ちょっと驚かされた。普通の作品なら、ほぼ絶対的に悲惨な末路を辿るパターンだもんなあ。そういえば、近江貴子という前例もあったもんなあ。