狼と香辛料〈14〉 (電撃文庫)

【狼と香辛料 14】 支倉凍砂/文倉十 電撃文庫

Amazon
 bk1

大人になると言うことは、モノの分別がつくということ。感情に流されず道理を弁えることが出来るようになるということ。でもそれは、逆に道理や分別に縛られてしまいがちになってしまうと言うことでもあったのですね。ただでさえ、ロレンスとホロは人並み以上に聡明であり賢明であり、只人よりも物事の先が見通せ、最善の道を見極める事が出来る人物です。自分たちが何よりも商人であり、賢狼である、それ以外になれない生き物なのだと弁えている。
故にこそ、その生き方に縛られ、その枠に自分を押し込めてしまう。
何を言わずとも分かりあえてしまうほど信頼しあった関係だからこそ、一番大事なことを言葉にして伝え合わず、分かり合っているのにそこに踏み込もうとしない関係が、そういえば随分と前から形成されてしまっていたのだと、今にして思えば気付かされる次第です。
ときに愚直であると言うことは、賢者たらんとするよりも遥かに直裁的に物事の真理を突くんだなあ。
いったいいつ以来の再登場か。読み返してみたら四巻以来。あの異教がまだ残る村で教会を守っていた少女エルサとの再会が、まさか二人の関係をここまで決定的な方向に導くとは。
なんにせよ、よく言ってくれた。よくぞ言ってくれた。誰も言わなかったもんなあ。ある意味、空気を読まない彼女だからこそ、言えたのかも知れないし、自身が語ったようにエヴァンと自分との関係と照らし合わせて、どうしても言わなきゃ気が済まなかったのかもしれない。
それ以上に、エルサはロレンスとホロのことを、親身になって考えてくれてたのでしょう。情けは人の為ならずというけれど、旅が終わりに近づいてくればくるほど、人の親切や優しさが身に染みるようになってきた気がする。常に利を求めて動く商人として、ロレンスはまったく商人らしく振る舞いながら、それでいてホロと旅するようになって生まれた余裕は、単に利益を得る以上の踏み込んだ助けや親切を他人と交わす事を増やしていったように思う。それは回りまわって、ロレンスたちにも帰ってきているんですよね。シリーズも後半に行くにつれて、ロレンスたちに関わる人達の多くが、商人ですらも損得での関わりを踏まえた上で、もう一歩踏み込んだ親切や助けをロレンスたちに与えてくれる機会が増えてきたような気がするのです。勿論その中には、人間性への信頼と同時に、腕利きの商人としてロレンスを認め、彼との繋がりを深めようと言う意図も混じっているのでしょうけれど、でもそういう考え方だったとしても大きな括りで見るならば、ロレンスへの好意となるわけです。
たとえばかの狼のエーブや、エリンギン、ルド・キーマンのような凄腕の商人たちの多くは、ある種の畏怖と敬意を以て見上げられる商人たちだけれど、ロレンスは彼らとはまた別の在り方を以て一目置かれるような商人へと成長したんだなあ、と今回しみじみと実感した。
もう、ただの行商人レベルじゃないんですよね。それは誰もが認めるところであり、もうどこかに商会を構えても何の不足もない実力を備えている。だからこそ、彼が思い浮かべた夢には、かつて一巻で彼が夢想し絵に書いて思い浮かべていた時代よりも遥かに現実感が備わっている。なにより、その店を一人で切り盛りするのではなく、ロレンスの隣にホロがいることに何の違和感もなくなっているんですよね。あのユーグの手紙も、一助になっていると思うけど……。
うん、この違和感のなさはロレンスが商人として成熟したという点と並んで、ロレンスとホロの関係がただの男と女以外の何モノでもなくなった、という所も大きい。
今回については本当に、ロレンスもホロも商人だ賢狼だ、という生き方、建前に一生懸命にしがみつこうとしていたことで、逆にどうしようもなくただの男と女という有様になっていた気がする。だからこそ、最後らへんのエルサの峻烈な指摘が、より効果的だったんじゃないだろうか。
今回ほど、ホロが小さなか弱いただの女の子に見えた事はなかったですし。あんな寒空の下でロレンスをずっと待ってた所なんて、賢狼ホロとしてはとても考えられない行動ですよ。あの老いた羊と出会ってから、ホロも随分変わってきてたけど、今回は本当に、ただの女の子に見えたなあ。
でも、今回の一件で、より一層二人の関係が踏み込んだおかげで、少し前までずっとまとわりついていた漠然とした寂しさ、不安感はぬぐい去られてしまった気がする。この狼と商人の物語、始まった当初から、というよりもこの最後半に差し掛かるまで思い浮かべていたものよりも、遥かに素晴らしい、素敵な結末を迎えてくれる、そんな確信を抱いた14巻でした。

最後、分別をかなぐり捨てて若さを取り戻したロレンスが、取り戻した若さのままに暴走してエライ目にあってたのには、笑いましたけどw
でも、ちょっと見直した。ちゃんと暴走出来るんじゃないか(笑