世界平和は一家団欒のあとに〈9〉宇宙蛍 (電撃文庫)

【世界平和は一家団欒のあとに 9.宇宙蛍】 橋本和也/さめだ小判 電撃文庫

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満を持して、一家最強、天下無双の七美メイン巻です!

 ある日、軋人と柚島は七美から一人の少女を預かるよう頼まれる。
 ナナというその少女を、七美は銀河連邦とともに行った惑星探査の際に拾ったという。柚島の家で世話をすることになり、どちらにより懐くかを無駄に競い合う軋人と柚島だったが、あたりには不穏な気配が漂いはじめ──。
 どうやら七美は、その少女をめぐって銀河連邦と対立しているようだった。はたして七美の選択は、そして弟である軋人の取る行動は!?
 世界と家族の平和を天秤にかける物語、第9弾!

やっべえ、もうにやけ殺されるかと思ったよ!!
あんたら、もう結婚しちゃいなよ、という彩美姉さんのぼそりとしたつぶやきにしみじみと同意。もうからかうのも馬鹿らしくなるくらいの、軋人と柚島のリアル夫婦っぷり。もう、恋人同然とかバカップルってレベルじゃありません!!
実はもうこいつら、結婚してるんじゃないのか、という疑いすら湧いてくる。あれか、内縁関係ってやつか!?

「でもやっぱり欲しいのは、強いて言うなら女の子かな。今回のことでつくづく感じたわ、うん。男で、あんたみたいにガラ悪く育たれても困るし」
「馬鹿、こんな紳士を捕まえて何言ってやがる。俺は、男がいいな。女ばっかりなんて、それこそうるさくて、ろくなもんじゃねえ」

男の子だ女の子だ、と自分の子供がどちらかいいか、真剣に言い争うこの二人が、未だに恋人ですらないのが、今更ながら信じられないというよりも、化かされている気にすらなってくる(苦笑 もうこの二人にとって、今更好きだの恋だのと鞘当てする必要すらないのかもしれないなあ。七美から預かったナナを巡って張り合う姿は親バカそのもので、あーんイベントという、ナナちゃんグッドジョブ!な、ニヤニヤシーンもあるものの、ナナが撒き餌になって二人の仲が進展するという流れではないんですよね。
まず二人の距離感は前提かつ鉄板としてもう既に実態的に夫婦同然というのを踏まえた上で、ナナという子供を柚っちと軋人の間に置くことで擬似的な新婚夫婦(初めて子供が出来ました編)を再現しているんですよね。
なにしろ、以前軋人が柚っちの家に泊まりこむイベントで、既に新婚夫婦(初めての夜編)は既に完遂してたからなあ。
……なにこいつら? まだ恋愛方面では殆ど進展がないにも関わらず、何故か夫婦としてはどんどん進捗しているじゃないか。友達以上恋人未満夫婦同然って、方程式的にかなり矛盾してる気がするんだが、いったいどうしたものやら。
ナナに対する態度を見る限り、この二人は子煩悩になりそうだなあ。上の会話というか対立を見る限りでは、絶対子供二人以上作りそうだし、男の子女の子が出揃うまで。いや、まだホントに恋人でも何でもないんですが(苦笑
でも、既に星弓家では、柚島は殆どもう嫁扱い、身内扱いなんですよね。七美が、ナナを香奈子に預けたのも、彼女を家族同然に見ていたからと言っていいはず。まだ預けた当初は事態が悪化しきっていなかったとはいえ、ナナを取り返しに来る連中が現れる可能性はあったわけですからね。軋人を付けていたとはいえ、本当に他人だったら七美は香奈子を巻き込まなかったでしょうし。
うん。普段はほんとに無茶苦茶で理不尽なくらいな七美なんだけど、実際は非常に繊細で特に人間関係については臆病なくらいに慎重、というか弱気? という側面は前々からちらほらと伺える場面はあったんですよね。五巻での星弓家の両親夫婦喧嘩の回なんか、めちゃくちゃへこんでたし。
はっきり言って、星弓家でもブッチギリのチート能力者の七美が、何だかんだと家族から甘やかされてるのは、実のところ彼女が一番家族の中でもメンタル面が弱いからなのかもしれませんね。そのくせ、責任感や強がりだけは一人前でなんでも一人でやっちまおうとするタイプだし。彩美姉ちゃんなんか、元々家族の中でも一番世話好きなところがあるから、七美に対してはずっとモドカシイ思いをしてきたんじゃないかな。珍しく七美に頼られた時の、あの嬉しそうなこと嬉しそうなこと。
そんな、どこか脆さを内包した強さでもって生きてきた七美の腕の中に飛び込んできた、小さな生命。
ナナを挟んだ香奈子と軋人の擬似夫婦っぷりも良かったけど、でもやっぱり真骨頂は七美とナナの母娘のシーンでしたね。自分が守ってあげなければすぐに壊れてしまいそうな小さく弱い生命を腕の中に抱いてしまった瞬間、彼女がこれまで頑なに守ってきた強さは砕け散り、人としての弱さと成長を得るわけです。
これまで傍若無人なキャラクターだった七美が、甲斐甲斐しくやんちゃな子供の世話を焼き、ナナが悪いことをすればしっかり叱りつける、これが七美かというくらいの真っ当な母親っぷりは、なんか凄かったなあ。誰に言われたからでもなく、自分で考え意識して母親たろうとしているわけでもなく、ナナと接するウチに、彼女の面倒を見るウチに、本当に自然に七美が母親としての振る舞いをしてるんですよね。これは、凄く印象的だった。
宇宙規模の話にも関わらず、七美とナナの話って、そこはかとなく生活に行き詰まりながらも必死に子供を手放すまいとするシングルマザーと、無邪気にやんちゃに振る舞いながら、でも健気に母親を信じて待つ子供の、母一人子一人の物語っぽくなってるんですよね。
しかし、彩子供化のときも思ったけれど、この人は小さい子供を描くのが非常にうまいなあ。可愛らしく元気いっぱいで表情がくるくるかわり、こまっしゃくれていて、なにより健気。覿面に庇護欲をくすぐられます。

今回の話は、原点に帰って、という意図があるのか無いのか。いや、このシリーズ、多かれ少なかれ、このタイトルを主題とした話を一貫して続けているんですが、今回も世界の平和と個人の幸せを天秤にかけるような話に。
このシリーズって、安易に「人の命は地球よりも重い」という類の妄言を信奉して、青臭い理想論にしがみついてるわけじゃあないんですよね。きっちり、大を生かすために小を殺す必要性、正しさ、大切さを重視し、決して蔑ろにせず、その重み、責任の大きさを踏まえた上で、その上で身近なもの、肉親の情の偉大さを伝えようとする姿勢は、とても好き、大好き。
大切な人一人守れずに、もっと大勢の人を守れるかーー、という類の二兎も三兎も全部総取り的な現実無視の無茶なせりふは、基本的には大嫌いなんだが、これはそういうのとは一線を画してる感じなんですよね。
加えて、七美の場合、地球を守る立場というのは、本当に自主的にやっていることなわけです。そういう役職についているわけでも、それで報酬を受け取っているわけでもない。まったくのボランティア、好意に過ぎない。だから、実のところ彼女を責める権利って、地球の側にはまるで無いんですよね。自分の大切なものと、地球を天秤にかけたとしても、裏切り者と罵れる権利を持つものは、地球にはいないと思うんです。それでも、七美は苦悩し続ける。ちょろっとでも、自分がどう行動しようと責められる謂れは無い、という方向性の考えを思い浮かべもしない。根本のところで、この家族の人たちはみんな真面目なんだよなあ。

はあ、今回も本当に素敵なお話でした。このシリーズを読むと、毎度素直に、家族っていいなあ、と思えるんですよね。この一家、ほんとに大好きだわ。

あとがきを読む限り、そろそろこのシリーズも終が見えてきたっぽい。次が最終巻と明言しているわけではないのですが、最終章には入っていきそう。当然、星弓さん家のお嫁さんのお話なんでしょうね?w