ヴァンダル画廊街の奇跡 (電撃文庫)

【ヴァンダル画廊街の奇跡】 美奈川護/望月朔 電撃文庫

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これ、最初から続き物にするつもりで書いてた方が良かったんじゃないか、と思ってしまうくらい、一話と二話が素晴らしかった。第三章から、主人公のエナとハルクが直接関わってくる物語へと移行してしまうんですよね。この物語のコンセプトとも言える、
人は誰もが、心の中に一枚の絵を持っている

は、一切ブレることなく、エナたちが主体となる話になってもそのまま敢然と走り切るのですけど、エナたちとは直接関係ない、行きずりの、一期一会に出会った人たちの心のウチにあった絵の物語の美しさを思うと、レナード・ウィンズベルの遺した絵を巡る謎を追う話の筋立ては、これはこれで非常にしっかりとした読み応えのある話として成り立ってるんですが、出来ればある程度シリーズが続いて、キャラや世界観の掘り下げが進んでから読んだ方が、より心に響いた気がするんだよなあ。この辺は、新人賞に応募した作品として一巻でちゃんと話を終えておかなければならないという制約ゆえなんですけどね。
お陰でインターポールの曲者警視と堅物娘が、かなり中途半端な立ち位置になっちゃってるし。下ディスバーグ警視なんて、それなりのバックグラウンドがあり、アートテロリスト<ヴァンダル>を追うための行動原理を持ってそうだったのに、エナたちの方の掘り下げに手一杯で、彼の方を突き詰める暇がないままクライマックスまで行っちゃったし。カッツェ警部補も、ヴァンダルを追っている間に芽生える心境の変化が、弱いまま終わっちゃったしなあ。元々、揺らぐべき正義への信念も、これといった明確な形で描く時間がないまま終わっちゃったし。
追いつ追われつの人間関係は、やっぱりもっと煮詰まらないと味が出ないんですよね。相反する立場に居ながら、時に目的を同じくし、心情を交わし合い、その上でお互いの主張や思想をぶつけ合いながら対決するライバル、というのが一番映える形なわけですし。

世界的な名画を題材とするだけあって、これはイラストレイターは大変だったろうなあ。さすがに当の絵をそのまま描くのはあらゆる意味で難しかっただろうし。カラー口絵を見る限りでは、相当上手い人だと思うんですけどね。単にキャラクターを描くのではなく、背景に落とし込む表現が非常に素晴らしかった。一目でグッと引き込まれる絵でしたしね。
ちなみに、題材となる絵は、あんまり詳しくない自分でも殆どが知っているようなものばかり。故に、容易にその光景が想起出来て、感動もひとしお。というよりも、これは心のなかにあった絵を、現実に目の当たりにした瞬間の、その人の衝撃や感動を伝える描き方がそれだけ素晴らしかった、というべきなのかもしれない。その人の感じた思いがそのままダイレクトに伝わってくるように、感情移入してしまったわけで。
特に傑作は第二章。遥か遠い故郷に大切なものを置き去りにしたまま、享楽の都ラスベガスで流れて行く時間の波に浮かんでいた女が目の当たりにする故郷の風景。
何故、彼女がこの街にとどまり続けたのか。その答えを告げると共に彼女の選んだ道が、何とも物悲しい。ここでの彼女が抱くに至った境地というのは、ちょっとライトノベルの登場人物離れしてるんですよね。男と女の出会いと別れ。このシーンは、胸にグサっと来たなあ。

良かったら、文学少女並にとは言わないので、もっと絵に関する蘊蓄があったら嬉しかったなあ。絵の存在そのものが、各章の登場人物の人生そのものの投影でもあったわけだし。

絵画を瞳に宿す少女エナ。彼女が秘めた、願いと想いは──。

 人は誰もが、
 心の中に一枚の絵を持っている──。

 統一された政府により、様々な芸術が規制を受け始めた世界。しかし、そんな世界各地の壁面に封印されたはずの名画が描き出される事件が起こる。

『Der Kunst Ihre Freiheit!(芸術に、その自由を!)』

 絵とともにそう書き残していく<アート・テロリスト>を、人々は敬意をこめて「破壊者(ヴァンダル)」と呼んだ。
 政府を敵に回すという危険を冒してまで彼らが絵を描く理由とは。そして真の目的とは──? 
 第16回電撃小説大賞、<金賞>受賞作!


平和のためという錦の御旗によって、戦争にまつわるとコジつけられたあらゆる文化が抹消されて行く世界の中で、白日のもとに封じられた名画たちを刹那だけ、描き出す一人の少女。
彼女の戦いは、世界を変えるため。それは体制を覆すためではなく、押しつぶされた人々の心を解き放つためのモノ。さいご、彼女が描き出したものこそが、それを示しているのではないだろうか。
もし続きがでるのだとしたら、やっぱり二章みたいな話を読みたいなあ。これはこれで綺麗に終わっているので、無理に続ける必要もないと思うけど。