竜王女は天に舞う 2 (MF文庫J)

【竜王女は天に舞う 2.from the Third Empire】 北元あきの/近衛乙嗣 MF文庫J

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いやいやいやいや、これはイイんじゃないですか!? 私、好き。これ、なんかメチャクチャ好きだわーーー!

先ず以て、世界観、ひいては魔術士の設定が非常に興味深い。蒼天世界と呼ばれる雲と空しかない世界。人間は宙に浮かんでいる大小の浮遊島に住んでいるのですけれど、地面が浮かんでいると言う覚束無さ。地続きではない島ごとに形成されている都市の独立性。これらが世界観に独特の浮ついた感触を張り付かせているんですよね。周り全部が空の上、というのは否応なく冒険の予感を身近に感じさせてくれるわけです。
それでいて、登場人物たちは冒険心に心を踊らせる暇のあるような無邪気な子供ではないのです。主人公のシグが所属する魔術士養成学校(竜の箱庭)は、学校でありながら非常に軍事色の強い組織であり、独自の諜報組織を有し、何より学生である魔術士の卵たちも戦力として最前線に投入されている。主人公は学生と言う立場ながら、自由を謳歌できるような立場ではなく、限りなく軍人に近いんですよね。しかも、正規の将校というよりも非正規戦に投入されるような工作員、暗殺者というタイプに近い。そもそも、この作品における魔術士は多種多様の魔術を状況に応じて使い分けるようなマネは出来ず、ほぼ単一の魔術を特化して使い、それを剣や銃器で補っている。まあ、端的に言うなら魔術は学術的なものではなく、ほぼ戦闘目的で使用され、魔術士は完全に戦闘要員として養成されている、と言うところか。
何気に、魔術士がこうした工作員、特殊部隊員、暗殺者という方向性で大っぴらに、それこそ学校単位で養成しているような世界観って珍しいんですよね。思いつくのが、あれか。魔術士オーフェンシリーズ。あれはかなり特殊な世界観なんだけれど、魔術士という職業の在り方としてはあの作品に近いかも知れない。
そもそも第一巻で、教室単位、教師が生徒三人を率いて潜入作戦、という時点で相当だったもんなあ。組織間の暗闘、熾烈な諜報戦が繰り広げられ、スパイマスターたちによる白刃を交わし合うような駆け引きが行われ、恐ろしいまでの緊迫感の元に火花を散らしている、という意味ではこの作品、ファンタジーとしては珍しい謀略サスペンスの枠に入るのかも知れない。
今度の担当教師からして、学園の公安の人間だもんなあ。公安警察がある学校ってどんなだよ(笑
当面の敵であると思われる謎の組織<党>も、犯罪集団やカルト集団というよりもあらゆる国家や組織に根をはる諜報組織っぽいし。

とはいえ、主人公のシグをはじめ、シャルロットやルッツたちは実情はどうあれ、学生なのは間違いなく、今度行われる学園祭に向けて、学生らしいあれやこれやにも励んでいるわけで。
前回で揃った三人のヒロイン。シグと契約してしまった竜王女ルノアに、歌姫リラ、そして幼馴染のシャルロット。二巻で慌てて新ヒロインなど出さず、まずこの三人との関係を進展させるためにじっくりと日常パートに描写を割いたのは大正解だったんじゃないだろうか。なにしろ、前回はルノアとリラ、二人のヒロインとは出会ったばかりでじっくりと親交を深めるまでには至らなかったからなあ。作戦行動中の出会いであった以上、落ち着いてお互いのことを知り合うだのする暇もなく、銃撃爆発剣戟疾走跳躍落下と大忙しだったわけで。まあ、リラとはなんやかんやと交流はあったけど。

ルノアとリラ、元々敵同士として出会い、何よりお互い殺し合わなければならない定めである<ヴァルハラ舞踏会>の竜の化身である彼女たちが、四六時中顔を付き合わせて上手くやれるのかと思ってたら、意外も意外、別に喧嘩もせず普通に仲いいのな。二人とも我が強いから衝突しそうと思ってたんだけれど。まあ、無茶苦茶仲がいい、という程でもないんだけれど、別に他所他所しい態度を取っているわけじゃなく、二人揃ってシグを突っついて遊んでいるのを見る限りでは、気は合っているみたいだし。
とはいえ、一緒に暮らしているうちに、シグを相棒として認めようとしなかったルノアも、段々と彼を信頼し、相棒として認めだしているし、リラも自分にとってシグがどういう存在なのかを学園祭を通じて自覚したみたいだし、進展があった以上はルノアもリラも相手のことを色々な意味で意識しないではいられないだろうなあ。
何にせよ、なんだかんだとシグの事が気になって行くルノアやリラの感情の変化して行く過程がまたいいんだわ。二人とも素直じゃないんだけれど、いざ一人になると、自分のやってしまった行動なんかを振り返って落ち込んだり悩んだり。普段のワガママだったり横柄だったりする態度はどこへやら、なんですよね。悩め悩め乙女たち。悩んでこそ、グルグルと頭の中でめぐらせてこそ、恋は栄えるものなのです。
そんな侭なら無い自分の感情に戸惑い、自問し、決意する、そういうところは、ホントに普通の女の子らしくて、物凄い可愛気があるんですよね。実に男心を擽られる。
こうなると、シャルロットはややも劣勢かも知れない。この娘、積極果敢なわりに肝心なところで自爆するからなあ。だから、そのシモネタはやめれ、というのに(笑
わざとじゃなくて素でシモネタが出てきてしまうアタリは業深い。恋する乙女でそれは、ちょっと致命的なような気がするんだが。
その点、今後はリラが躍進してきそうだなあ。この娘はルノアみたいに不器用でもないし、シャルロットみたいにヘタレでもないし(笑
ワガママであるということは感情をストレートに出すという事でもあり、その上幼馴染のシャルや、パートナーとして信頼関係を築きつつあるルノアたちに比べて、いささか自分とシグには確かなものが何もないというところに焦燥を抱いている節があったから、その分積極的姿勢で行く気配があるんですよね。
一方で肝心のシグはというと、年頃の男の子らしく三人とも魅力的な女の子であることを思い知らされてややもクラクラしつつも、まだ自分のことで手一杯で恋だの何だのは預かり知らぬ、って感じだわなあ。まあシャルはあの通り、勝手に自爆して何やってるか分から無いところがあるし、ルノアとリラは少なくともこの学園祭の始まるまではシグに対してそういう態度は示していなかったわけで、これを鈍感と言うのはちょっと可愛そうですよね。まあ、こっから本格的にルノアやリラが意識しだしてきたら、どう反応するか分からないけど。
この主人公も何だかんだと面白いよなあ。なにしろ、大して強くない(w かと言って弱いわけでも無力な訳でもない。このほどほど感が素晴らしい(笑
それでいて、土壇場での根性が座ってるから、ギリギリの瀬戸際をつま先立ちながら、ちゃんと生き残ってやるべき事をやって見せるんですよね。前回も今回も、明らかに自分より強い相手に勝利して見せている。これって強い云々じゃなくて、いわゆるサバイバビリティが高いヤツなのかもしれない。
なんかこう、普通に男の子ーって感じで、けっこう好感持ってますね、こいつには。

さて、肝心の物語の主題となるであろう<ヴァルハラ舞踏会>に関しては進んでいるのかいないのか。今回新登場だった串刺し令嬢エリーゼも、あれはたぶんそれなんだろうけど、結局その点については触れないままだったしなあ。リラとああなっちまったというのは、物凄い進展と言えば進展なのかも知れないけど。
本来なら<舞踏会>のルール的にダブルブッキングってあり得ないんですよね。あり得ないというよりも、もし二人の竜王女と契約しちゃったら、普通はどちらかをすぐに贄にしてしまうはずなんですよ。なにしろ、契約者は躾の言葉で竜王女の自由を奪えるんだから、どちらか片方の王女にもう一人を殺させれば、すぐに強化できるんだから。まー、両方と仲良くやってこうとするヤツは想定してなかったんだろうなあ。
このへんの設定は、後々かなりエグイことになって返ってきそうな予感もするけど……むふふ。
出来れば、この作品、長期シリーズでじっくりねっとりやって欲しいですね、うん。

一巻感想