ガンパレード・マーチ 逆襲の刻―青森血戦 (電撃文庫)

【ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 青森血戦】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫

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うわ、青森市街って口絵の地図を見る限りじゃ、完全に戦線の内側じゃないか。段々と応援の部隊が送り込まれているとはいえ、兵力不足は否めず後方の青森市街にまともな部隊が残っているはずもなく、アリウスの仕掛けた罠により、無力な市民がデーモンの虐殺に晒されることに。
毎度のことながらアリウスの仕掛けてくる罠は陰惨で陰険で憎たらしい。だけれど、逆に言うとそれだけだ。智者を気取っている風なアリウスだけれど、その策は戦局を動かすほどの致命的なものにはなりにくいものばかりなんですよね。言ってしまうと、嫌がらせレベル。先の東京クーデターはさすがにヤバかったしイタイ所を突かれたけれど、東北侵攻を連動させられずに先走らせて各個撃破されてしまった手際を考えると、決して褒められるものではない。
ことこの手の特殊工作を戦局を左右するまでに効果的に運用する手腕に関しては、やはりカーミラの方が際立っていた。彼女の爆破テロは西部戦線を殆ど壊滅寸前にまで追いやったわけだし、彼女がその後手を緩めず、人類の協力者になってくれなかったらいったいどうなっていたことやら。……どうなってって、そりゃもう、負けていたに決まっているんですけれど。

もう現状、日本は殆どカーミラ頼みなんですよね。シベリアで語られている通り、実のところ彼女が人類に強力しているのは完全に好意であって、損得勘定ではないわけだ。実際のところ、カーミラは人類が滅び去ってもその立場上、何の痛痒も感じないんですよね。彼我の関係は決して対等ではない。とはいえ、卑下して付き合うのもまた意味がない。カーミラは人類が対等の友人であることに何よりも価値を見出しているわけだから、なかなか難しく微妙な関係だよなあ。
何はともあれ、カーミラが差し伸べてくれた支援の手は、着実に青森戦線を立て直しつつある。シーレーンの確保は地味ながら、日本の生命線を文字通り支えてくれているわけだし、直接戦力として送り込んできてくれた青スキュラ軍団の頼もしいこと頼もしいこと。
あの幻獣の中でも最強を誇った空中要塞、しかも人としての知性を残した賢いスキュラが大挙して味方として加わってくれるんだから。あれに苦しめられ続けた人類側からすれば、想像を絶する頼もしさだ。おまけに、補給も担ってくれるってんだから。
青スキュラとそれを指揮する知性体がこぞって滝川に懐いているのには笑ったけどw
そりゃあ、舞や厚志、壬生屋と比べると滝川の親しみやすさは圧倒的だもんなあ。滝川も別にビビるでもなく、懐かれてそこはかとなく嬉しそうだし。なんか、幻獣なのに小動物みたいに可愛らしさく思えてきた(笑

第四師団の到着と戦線の再構築によって安定を取り戻した青森戦線。さらに、相手の虚を突く打通作戦で青函トンネルを奪還して北海道との連絡線を取り戻し、日本滅亡のタイムリミットを先延ばしにすることに成功。一時期の幻獣軍の快進撃はなりを潜め、芝村支隊を中心に効率的に浸透してくる敵軍を撃滅するシステムが機能し始め、何とか一番危ない時期はやり過ごした。
とはいえ、過度の出撃は勝ち戦続きとはいえ、兵士の疲労を蓄積していくわけだ。
人間、なかなか勝っている時には後ろに下がることはできないもの。全部上手く廻っているから、もう少しもう少しと先延ばしにしてしまう。この辺の見極めが一番難しいんだろうなあ。人間の集中力というのはいつまでも長続きするものではなく、ふとした瞬間に一気に瓦解してしまうもの。平素なら何でもない作業や判断にミスが生じ、これまでうまく行っていたものが連鎖的に壊れていく。その前に充分に休養をとるようにした方がイイ、というのはそりゃあ頭じゃ分かっているんだけれど、この手のうまく行っている時の疲労度と言うのは兵士も指揮官も自覚症状がないだけに、本当に難しい……。兵力に余力が在るなら、余裕を以てサイクルさせられるんだろうが。その意味では、限定された戦力できちんとルーティンを構築している第四師団の三宮参謀の能力は、作戦能力とは別の意味で参謀として際立っていると言ってイイ。この東北戦争における隠れたMVPだな、三宮大佐は。

その休養先の温泉で、5121小隊の面々と合田小隊が久々に再会するのだけれど、そういえば合田さんや橋爪たちと舞たちが顔を合わせるのって本当に久々なんだ。合田小隊はもう一つの主人公組としてずっと出ずっぱりだったから忘れてたけど、意外とこの両者が肩を並べて戦うことってなかったんだよなあ。同じ戦場に居るのは居ても。
文部省指定の小隊は、5121小隊の面々から見てもやはり他とはちょっと違うらしい。そりゃあ、あれだけ学兵抱え込んで、被害を最小に押さえてるんだから、大したもんだわなあ。ただ強いというのとは質が違う。こと、守るという意味では芝村たちよりも際立った働きをしてるもんなあ。
ほんと、合田さんは死亡フラグ回避出来てよかったよ。この人にはしっかり出世して欲しい。

一方で最前線とは別のところで、戦争を終結させるための手は着々と打たれている。東京では樺島勢力の圧迫に対して、大原首相はカーミラの助言を踏まえ、山川中将を最大限に働かせて政局の一発逆転を図り、シベリアでは善行と原さんがカーミラと緑子とともにシベリアの幻獣王と逢うことに。
その前に、シベリアに残された人類の居留地に立ち寄るのだけれど、そうか、ここが日本の資源の供給地だったのか。日本がどうやって戦争を遂行し、日常を成り立たせるだけの資源を確保しているのかとずっと疑問だったのだが、幻獣の支配地であるはずのシベリアに残されたここから……。幻獣に支配された土地では、人類は絶滅しているというのは嘘だとは知っていたけれど、これほどちゃんとした街が残っているとはなあ。しかも、日本政府とはちゃんとチャンネルを開いて貿易までしているとは。日本としたらそりゃあ表沙汰には出来んわ。
でも、このシベリアの街が維持出来ているのも日本からのバーター貿易で送り込まれt来る物資があるから。日本が滅びれば必然的にこのシベリア幻獣王に見逃されてきた街も、物資の途絶によって滅びるしかない。
お互い、胸襟を開いて本当の意味で協力しなければならない局面が来たと言うことか。そして、シベリアの幻獣王とも。
カーミラって、王族の中ではかなり下の方の血統だったのか。幻獣側の事情もさらに明らかになって、謎に包まれていた幻獣の現状もだいたい見えてきた。あちらはあちらでまたややこしいことになってるみたいだ。
カーミラとシベリアのミハエル、その両者が手を取ったとき、極東には新たな局面が訪れることになる。それは、幻獣が埋め尽くす世界全体に波及することになり……果たしてどうなるんだろう。ここからどういう展開になって、オーケストラの話になるのやら。

さすがに毎月連続刊行も四ヶ月目のこの青森血戦で一旦終了。でも、既に次巻「欧亜作戦」はアナウンスされているし、あまり待たずにこの続きは読めそうである。この刊行スピードはありがたいですわ、本当に。