機巧少女(マシンドール)は傷つかない〈2〉Facing“Sword Angel” (MF文庫J)

【機巧少女は傷つかない 2.Facing "Sword Angel"】 海冬レイジ/るろお MF文庫J

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……あれ? 表紙絵がシャルロットじゃないぞ? いや、この二巻のヒロインは、表紙絵のフレイだから合っているのは間違いないんだが、一巻の表紙は夜々が飾ってしまったので、肝心のシャルが、飛ばされた? か、仮にもメインヒロインっぽい立ち位置なのに。不憫な(笑

それはそれとして、この主人公は面白いなあ。面白いと言うよりも興味深いと言うべきか。作者の別レーベルの【幻想譚グリモアリス】の主人公である誓護もそうなんだが、根本に歪んだものを抱えているが故に、その生き様は恐ろしいほど誠実なんですよね。
この物語の主人公、赤羽雷真もその傾向が伺える。彼は人形遣いが集う学園に置いて夜会と呼ばれる勝ち抜き戦にどうしても勝たなければならない事情を抱えている。そのために、裏工作までして強引に途中参加したくらいだ。それなのに、彼は対戦相手となるはずの相手の事情に、偶然でも巻き込まれるわけでもなく、彼自身の強固な意志によって踏み込んでいくのだ。
この巻でシャルロットが彼に「相手の事情を理解すれば、勝負は負けるのよ」と忠告しているように、目的のために絶対に勝ち抜かなければならない雷真にとって、相手の事情に踏み込もうと言う行為はもはや害悪にしかならないはずなのだ。だが、彼はそれを完全に理解しながらそれでも踏み込んで行く。
そこには彼の正義感や優しさ、という性格的な要素もあるにはあるのだろうけれど、決して大きな要因とはなっていないように思える。少なくとも、彼は積極的に自分から相手の抱える事情に飛び込み、わざわざ介入するほどお人好しには見えない。勿論、事情を知り相手が困り苦しんでいるのを知ってしまえば、手助けに尽力することに吝かではない程度の優しさは持っているだろうけれど、決してお節介だったり善意の押し付けをするようなタイプの人間ではないのだ。
それがなぜ、敢えて対戦する相手の事情を知ろうとし、場合によっては献身的なほど手助けしようとするのか。
そこに、彼――赤羽雷真という男の頑固一徹が垣間見えてくる。
言うなれば、彼の行動は彼なりのケジメであり、自分を納得させるためのものなのだろう。
彼の目的は偏に復讐、それだけである。それを遂げるためなら、雷真にはどんな犠牲を払うことも厭わないつもりがある。あるにはあるが、雷真自身、復讐という目的が褒められたものではない虚しい行為であることも自覚している。そんな自分の目的と比べ、雷真が出会った夜会参加者、夜会の参加資格を奪うために喧嘩を売ったシャルロットが抱えていた夜会で戦い勝たなければならない事情というのは、雷真から見てとても崇高で眩しいものだった。彼はシャルロットと出逢うことで、自分が復讐を遂げる過程で犠牲になっていくものの具体的な姿を知ってしまったわけだ。
もちろん、それでも雷真は自分の目的を諦めるつもりは毛頭ない。決心は常に揺らぎ、躊躇いはつきまとい、罪悪感が蝕んでくるが、それらを必死に振り払い、その目的を果たすためにいずれシャルとも戦い、彼女を破るつもりでいる。その結果、彼女の願いを潰えさせることになろうとも。
それでも、だ。
自分の賤しい目的のために、シャルロットの、ひいては他の夜会参加者が抱えているかもしれない、自分などより遥かに敬意を抱くに値する事情を、直視せず何も見ないままにたたき潰してしまうのは、雷真の矜持が許さなかったのではないだろうか。
彼は確かに、どんな犠牲も払う覚悟を持っている。だが、それは目的のために無差別に犠牲を腹うのとは全く意味が異なるのだ。
だから、これは彼なりのケジメなのである。

不自然すぎる稚拙な行動で、雷真を「暗殺」しようと近づいてきた次の夜会の対戦者フレイが抱える事情に対して、彼が不敵なほど泰然と踏み込んでいった背景には、このようにお人好しだの優しいだのとはまた全く違った性格に基づく原理が横たわっているのではないか、と考えた次第。
この歪んでいるが故に愚直な真っ直ぐさは、清々しく豪壮であり、この主人公赤羽雷真の軟弱さなど欠片もない決然とした立ち振る舞いの格好良さに直列しているように思う。
あれだけ夜々の奇行に悩まされ、シャルにツンツンされ、フレイに振り回されているにも関わらず、飄々として不敵、泰然として毅然とした格好良さにまるで揺るぎがないもんなあ。

何気に女の子ばっかりじゃなく、頼もしくもイカした男キャラをたくさん出してくれる海冬さんだけあって、ここで早々にライバルというか、喧嘩仲間みたいな関係になりそうなヤツも出てきたし、役者が順調に出揃い始めたって感じかなあ。作者の傾向からして、まだまだ陣容は揃ってないんだろうけれど。
昭和初期に該当する時代背景や、魔術、機巧(カラクリ)人形という素材が備え持つ、どろっとした粘性の、踏み入ると容易に抜け出せないような深く暗い闇の気配が、物語のそこかしこにべっとりと張り付き出して、雰囲気も出てきましたよっと。
ふふふ、これは盛り上がってきた。あとは、メインヒロイン(仮)のシャルにもっと出番をw いや、出番はちゃんと沢山あったんだけれど、かなり献身的かつ健気に立ち回ってたんだけれど、あんまり直接雷真と絡めなかったのは痛かった。というかイチャイチャできなかったのが痛かったw 次こそはもっとツンツンデレデレしてください。

しかし、夜々の病気は悪化の一途だなあ。一巻よりさらに酷くなってるぞw ヤンデレっていうのはスイッチのオンオフがあるのがパターンなんだが、この娘の場合常にオンに入り続けているような(汗 まあ、まだ軽度なので危険性は微量なんだけれど。
傑作だったのは、雷真に相手にしてもらえずに悩んだ末に相談してきた夜々への、シグムントの身も蓋もない見解。直前まですごい含蓄のあるイイ事言ってたのに、シグムントさん、ぶっちゃけすぎ!(笑
誰もが思っていたにも関わらず言えなかった事を、言いにくいとか前置きしつつあっさりといってしまえるシグムントさんが、無性にカッコイイ(笑
でもあれ、邪魔が入らなかったら夜々が発狂してエライことになってそうだったなあw

一巻感想