彼女は戦争妖精5 (ファミ通文庫)

【彼女は戦争妖精 5】 嬉野秋彦/フルーツパンチ ファミ通文庫

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  bk1

ウォーライクとその主たるロードたちの戦い。そこに歴としたルールが存在するなら、それはルールを選定した戦いの監督者がいるということ。
それがあの老紳士であり、ラ・ベルだったわけか。お互いに警戒しあい、むしろ敵対者のような雰囲気で並び立ち、ロードたちの動向を見守っていたので、どちらかというとロードたちの戦いには元々関係ないものの、外部から虎視眈々と何かを狙っている連中かと考えてしまっていた。
そもそも彼らがこの戦いを仕組んだグループだったのか。ただ、決して仲間や共同体じゃないんだな。そもそも敵でありながら協定を結んで同じ目的を果たそうとしている集団のように見える。
それが、楽園を目指すという事なんだろうけれど、ロードたちが妖精の書を手に入れ、ウォーライクが楽園へとたどり着く、そこにどんな意味が隠されているのか。
ミンストレルの連中も一人ひとり、思惑や見ている方向が違うみたいだし。だいたい、監督者であり、戦いには介入せず、ロードたちには自ら手を下さない、とお互いにルールで決めているにも関わらず、こいつら裏では個々に色々と無茶苦茶やってるもんなあ。はっきり言って不干渉の協定は有名無実と化しているし。

何にせよ、黒幕が出てきたことで事態は大きく動き出したと言える。
積極的に敵のウォーライクを倒そうとしない伊織たちを、忌避すべき「死の蛇(クロウ・クルーワッハ)」と呼び露骨な敵視を隠さないミンストレル「イソウド・オブ・ホワイトガントレット」。彼女とは正反対に、むしろ伊織たちのそのやり方を支持する素振りをみせている老紳士。
殺し合いの輪に加わろうとしない伊織たちの存在が、どうやら単なる戦いを避けようとするやる気の無い不参加者、というだけじゃない意味を持っているような感じもある。
とはいえ、今のところ黒幕に抗えばいい、という流れにもなっていない。今のところ成り得ない、と言った方が正確か。ミンストレルと呼ばれる存在たちはどう考えても人間じゃなく、さりとてウォーライクでもない。さらに言うと、単体でウォーライクを携えたロードを完全に圧倒する力を秘めている。それこそ象が蟻を踏みつぶすかのような絶対的な力の差がある。
動きようがない、というのはつらいよなあ。結局は、襲いかかってくる敵ロードを迎え撃ち続けるしかないわけだし。
この状況を打開するための突破口は、やはり8年前に失踪し、クリスを送り込んできた伊織の父親、ということになるんだろうが。
その辺は学生という立場と、クリスやルテティアを食わせなければならないという主夫としての立場がある日常生活から逸脱出来ない伊織ではなく、ようやく帰ってきた自由人、叔父の頼通の役割になるのか。
このおっさん、物腰はだらしないんだが、やっぱり帰ってきてくれると非常に頼もしい。大人だなんだというより、その食わせ者で強かな存在感が大きいんですよね。これまで怪しい動きを続ける薬子先生に対して、伊織や常葉は不信感を抱きつつも動きようがなかった所に、頼通叔父は帰ってきた途端にきっちり掣肘を加えてくれたもんなあ。
どうやら、彼女の事情にもいささかなりとも通じているみたいだし、きっちり薬子の思惑についても警戒して、防衛線を張ってくれている。これで、不意に一方的にメチャクチャなことになる危険性はぐっと減ったんじゃないだろうか。

しかし、この叔父と甥の関係も面白いなあ。二人の性格からしてベタベタと仲がイイ、とは思ってなかったけれど。ある種のそっけなさと身内ゆえの気安さが同居している、とでも言うんだろうか。
伊織の性格からして、頼通って人は相当に癇に障りそうな性格なんだけどなあ。いや、実際あの女癖の悪いところなどについてはかなり軽蔑してる風ではあるんだが(伊織の女性に対する姿勢には幼い頃から見てきた頼通の行状からくる影響が大きいようだし)、それ以外の面についてはしっかり認めているようだし、ちゃんと頼りにしているようにも見える。伊織って気難しいけど、極端ではないんだよね。中庸を心得ているというか、拒絶するところは徹底的に拒絶するけれど、それが全人格の否定などといった極端な方向には突っ走らないんだよなあ。その辺は、バランス感覚が取れていると言っていいかも知れない。まあ、気に入らなかったら突きはなしまくるんだけれど。

その伊織の性格だけれど、この他人に甘えを許さないところ、きっぱりと辛辣で女の子に対しても断固とした姿勢を崩さず、まったく妥協しないというところ、これを何と言い表していいのかずっと頭をなやませていたんだけれど、作中で見事に言い表わしてくれる表現があって、思わず手を叩いてしまった。
そうか、伊織はつまり「自分にも他人にも厳しい」性格ということだったのか。
厳格な主人公って、珍しいよなあ。
伊織があれだけさつきに対して辛辣な態度を取り続けているにも関わらず、決定的には拒絶しないのも、その厳格さ故なのかな。他人だけでなく自分にも厳しいと言うことは、気に入らないというだけで他人を拒絶し突き放すことを甘えと捉えているとも考えられるし。
さすがに、本当は嫌いじゃないんだよ、と言われても信じられないけれど。さつきの性格や態度に対する伊織のイライラを見てたら、どう見てもこいつウゼえ、鬱陶しい、嫌いだ、と思ってるようにしか見えないしw
いや、四章冒頭の一節を読むと、伊織はさつきに対して一種の恐れを感じている節もあるんだよなあ。まあ、あのねちっこさは矛先をこちらに向けられると確かに怖い。

最初は妹の事件に絡んで一旦ウォーライクの世界に関わり合っただけで、あとはモブキャラへと移行していくのかと思ったさつきだけれど、やはりというべきか、こんな形で踏み込んできたかー。ルテティアもいらん事をしてくれたもんだわ。
ロードとして覚醒したさつきの、これまたウザいことウザいこと(苦笑
普段の彼女が陰性のウザさなら、ロードの時の彼女のウザさは陽性にもの。明るくなっても暗くなってもウザいって、どんなだよw もう、半分ヤンデレに足突っ込んでるなあ、これ。あと二三歩間違えたら、悲惨な事になりそうだ。
そもそも、ウォーライクであるルテティアと仲が良いワケでもないし。ルーもいったい何を考えてこんなことをしたんだか。おもしろ半分、というだけじゃないと信じたいけど。
ルーも悪い子じゃないんだし。我侭で自己本位、自分が一番大事という娘だけれど、今回伊織とクリスが大ピンチに陥った時、思いっきりビビリながら、腰が引けながら、自分が助けに入ってもどうにもならないと理解しながらも、それでも助けに行こうという意志を示したもんなあ。あそこは、ちょっと感動した。ルーもちょっとずつ変わっていってるんだろうか。


もう一人の多分ヒロインであるだろう常葉先輩は、今回あまり伊織との絡みはなかったんだけれど、カラー口絵で描かれてるシーンなんかを見ると、もう玄関で旦那様をお迎えする若奥様といった風情で、似あうのなんの。この先輩、ほんと美人なんだよなあ。和装は似合うし。そもそも、伊織とほんとにお似合いだと思うんだが。
リリオを守るために、そして心の奥底に秘められた醜い嫉妬心のために、妻を救うために戦っていた想い人を打ち破り、彼の最後の希望を打ち砕いてしまった常葉。この痛切すぎる失恋のために、今まで頑なに立ち止まっていた何かが、今回グレアムとの生命を以て鍔迫り合いする戦いに勝利し、その結末と選択を老紳士に肯定されたことで、彼女の中で何かが吹っ切れたんだろうか。
最後に、彼女はこれまで足を向けることが出来なかった想い人…滝沢の奥さんのお見舞いに赴いてるんですよね。彼女の中で、区切りをつけることが出来たのか、トラウマを乗り越える事が出来たのか。
ともあれ、これまで伊織に対しての自分の感情をきっぱりと線引きしていた常葉の在り方に、大きな変化が訪れるような気がする。お見舞いの件を伊織に伝えたのは、彼女の覚悟を示すと同時に、伊織に対するある種の宣言とも勘ぐれるんだが、さすがにそれは穿ち過ぎか。
前まで、常葉先輩にはちょっとした危うさを感じていたんですけどね、グレアムとの決着の付け方を見て安心した。この人はどれほど思いつめても、追い詰められても、ちゃんと正道を行ってくれそうだ。

新章になり、黒幕「吟遊詩人(ミンストレル)」が前面に現れだし、これまで怪しい素振りを見せるだけで動かなかった薬子先生も、ミンストレルとの接触によりてひどい目に合わされ、どうも余裕がなくなってきた気がする。さつきが加わったことで逆に不安要素も倍まし。
さあ、面白くなってきた。

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