零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係 (講談社ノベルス)

【零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係】 西尾維新/竹 講談社ノベルス

Amazon
 bk1

実存を立証し続けなければならない人生というのは大変だなあ。
戯れ言シリーズの世界における登場人物たちというのは、多かれ少なかれ「〜でなければならない」と自らを縛って生きている人たちが多い。そうしなければ、存在し続けることが出来ないのだと信じ込んでいるかのように、だ。
悲劇なのは、その信仰があながち思い込みではない点にある。裏の社会に住まう者も、表の世界で生きる一般人であろうと、その深刻さはあまり変わりが無く、過酷な日常を生き抜く上で彼らの「自分は〜〜でなければならない」という規定は、埋没し脱落し希死念慮に陥りそうな自らを支える拠り所として機能していると言える。
だが、ある程度事実真実に基づいた信仰とは言え、「〜〜でなければならない」という自縄自縛は決して絶対のものではない。それを逸脱し、乗り越え、踏み越え、捨て去り、置き去りにして、自らを縛る戒めから解き放たれることは決して不可能ではないし、それが自身の破滅を意味しているわけでもない。
事実、興味深いことにこの世界のキャラクターたちの中で、順当な幸福を手に入れるのは、こうした自己規定を克服した人々というパターンが多いのだ。
主人公の一人である戯言遣い然り、死線の青然り、赤色の人もそうだろうし、この巻じゃないけれど、崩子ちゃんもその該当する一人になるのだろう。

そして、恐らく彼女もそれを為せる可能性を、本当に心の間近までたぐり寄せていたはずだったのだ。
――匂宮出夢。
敢えて彼女と呼ぼう。自らを男の人格だとうそぶいているが、妹と混ざりかけていた云々を抜きにしても、出夢のメンタリティというのは女性のものだと思う。
彼女は零崎人識との関係が深まるに連れて、これまで自分を成り立たせてきた自己規定が決して真理でも絶対の命題でもないのだと気づかざるを得ない状況へと追い込まれていく。
自分を成り立たせてきた柱を打ち砕かんとする衝撃を前に、彼女は呆然と立ちすくみながらも、その破壊を受け入れる勇気を、人識との交流の中で芽生えさせ、奮い立たせようとしていた。
あとは、未知へと踏み出し、これまで自分を守ってきた殻を脱ぎ捨てる、その一歩を待つだけだったのだ。あとは、自覚するだけだったのに。

彼女は、最悪と出会ってしまった。

そうして、未来の可能性は無造作に毟り取られてしまったわけだ。
運が悪かった? 彼とここでであってしまうのは運命だった? そんな言葉で片付けられてしまうには、割り切れなさ過ぎる。摘み取られた可能性があまりにまぶしすぎて、胸を掻き毟られるかのように切ない。
こうして出夢は、往くべきだった道を外れ、同じ道を行くはずだった人識はワケも分からず一人置いてけぼりにされ、結果空っぽになりながら人識もまた、道なき道へと転げ落ちていく。
ただただ、原因となった男が呪わしい。

あれは、確かに「最悪」だ。

零崎双識との関係 無桐伊織との関係