カルテット―それが彼らの音楽だった (幻狼ファンタジアノベルス)

【カルテット それが彼らの音楽だった】 小竹清彦/藤ちょこ 幻狼ファンタジアノベルス

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【アップルジャック】にて小説家デビューした劇作家・小竹清彦氏の第二弾小説は、あるカルテットの人生の旅路を振り返る物語。
作者の人が元々演劇畑で映画の脚本も手がけている、という印象が強いからかも知れないけれど、話の持って行き方が一風独特。セリフ回しも小説のそれとは少し違っていて、それが為にか小説を読んでいると言うよりも、どこか舞台演劇や映画を観客席から見ているような気分にさせられる。

不覚にも、少々涙ぐんでしまった。

物語は長らくカルテットを組んできたメンバーの内の一人が亡くなり、彼の遺した楽譜を残された三人が見つけるところから始まる。
主に男たちの回想によって描かれていく、人生という名の旅路のロードストーリー。
それはスタイリッシュであり、ハートフルである。情熱的でありながら飄々と垢抜けていて、個性的な四人組の織りなす友情は、ただただ温かい。
先に逝ってしまった男――ギタリストは自由奔放で派手で自信家だったが、何よりも仲間を思い、仲間のために生きていた。残されたベーシスト・スモーキー。ピアニスト・教授。ドラマー・教授はそれぞれの彼との思い出を想起し、彼がどれほど掛け替えのない友人であり、自分たちが陥った人生における最大の危機に、彼がどのように手を差し伸べてくれたかを語り合う。
かつて自分の過剰な自意識とミスによって、カルテットの未来を閉ざしかけたスモーキー。
自分の生きる道を指し示し、人生の師そのものであった母親の急逝に自失しかけた教授。
愛する妻を失い、残された生まれたばかりの娘が聴覚障害である事を知り絶望するセーフ。
そんな、先々の未来が閉ざされようとしていたとき、仲間が苦しんでいながら何も出来ず無力感にうちひしがれていたとき、あの剽げた男が如何に振舞ったか。
今はもういない男を懐かしみ、まだ各々の内にだけ残されていたあの男の思い出を共有し、彼がどれほど自分たちに取って掛け替えのない存在だったかを確かめ合う。そんな儀式はやがて、さらなる過去、彼らがまだ音楽と知りあっていなかった頃へと立ち戻り、さらには夢破れて四人がバラバラとなり、やがて音楽と巡り合い奇跡のように再び四人が集うまでの、ひとりひとりの旅路の話になり、そしてセーフの娘、サキとギタリストとの思い出に至ることで、物語は過去から未来へと繋がっていく。
そうして、思い出によって先に逝った親友が自分たちに抱いていただろう友情を改めて確認しあった彼らは、ギタリストが遺した楽譜の意味を理解し、それを元に思い出の中の懐かしい人々を呼び集め、逝ってしまったギタリストを賑やかに送り出し、彼が心残りないように残された三人が新たに旅立つための音楽会を開くのだった。

死別という別れは悲しく寂しいものだけれど、それを新たな旅立ちと受け止めるならば、涙を流しながらも微笑んで送り出せる事ほど、彼我に取って幸せなことはないのだろう。
かつてカルテットだったピアノ・トリオが紡ぎ出す、彼の遺した曲によって、人々が思い起こす過去の軌跡と、これからの人生を照らし出してくれる温かい光。
すべてが繋がっていく。先へと続いていく。
想いは、残された人々の中に永遠に宿り続ける。

嗚呼、素晴らしき哉人生。