ある秋の卒業式と、あるいは空を見上げるアネモイと。 (一迅社文庫)

【ある秋の卒業式と、あるいは空を見上げるアネモイと。】 朱門優/鍋島テツヒロ 一迅社文庫

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アネモイだー、アネモイだー♪
一迅社文庫創刊に名を連ねた七冊の内の一冊がこのアネモイのお話でした。話自体は綺麗に終わっていましたし、あれから二年間音沙汰もなかったのでまさか続刊が出るとは思っていなかっただけに、刊行予定本の中に再びあのアネモイの名を見つけたときには嬉しかったなあ。
この作品、一迅社文庫のレーベルでも愛されてるんですよね。一迅社文庫のブログのプロフの部分に掲載している自画像、この作品のヒロインのいちこさんなんですよね。まあ、あとがきで触れられているのを見るまで知らなかったんですけどw
まあ、幸か不幸か当のいちこさんは、前巻で輪くんと両思いが成就してしまい、あのややもイッちゃってるS女王様っぷりはかなりなりを潜めちゃってるんですけどね。幼馴染を平然と犬呼ばわりしていたあの頃を懐かしいとは思うまいw
その代わりと言ったらなんですが、かつてのいちこを上回らん勢いで物凄い逸材が登場してしまいましたよ。その名も日黄(たちもり・かつみ)お姉ちゃん。いわゆるダメ男属性w
「そんなに真っ直ぐな目で! 人生前向きに考えたらダメだよ!」
「もっとぐだぐだで荒唐無稽なことを言わないと! 他人が聞いたら“こいつ口ばっかりだな”と感じるようなことを! 小物臭全開で! 具体的には“本気さえ出せば俺ってすごいんだぜ?”って輪ちゃんが本気で思っていると感じられる空気を! “その本気っていったい何百年後に出すんでゴザイマスカ”って誰からも思われている人間像であって欲しい!!」
「おのれ小娘……! 引きずり下ろしてやるぞ……青少年への道を歩み始めてしまったあの子を、再びダメ人間ルートに乗せてやる」
「お姉ちゃんに全部任せてくれたら、無理して学校に行ったり嫌々仕事に行ったり、苦手なのに他人と話したりしなくていい、自分の殻に閉じこもっているだけでいい素敵な生活を送らせてあげるのに……」

おい、誰かこいつなんとかしろ(爆笑
ただダメ男が好きならまだしも、手ずから調教にかかりましたよ!? あのひと夏の経験を糧にして、健全な真人間への道を歩み始めたリンくんを堕としにかかっちゃいましたよ!?
あははは、マジやべえ。いちこ頑張れ、超がんばれ。輪くんのまともな未来はひとえに君にかかっているぞw

不思議な夏のお見合いからひと月。
輪と幼なじみ巫女のいちこは、いちこの祖母の頼みもあってふたりの住む十五夜草町と神社同士の繋がりがある川毎町へとやってきた。
いまは川毎町に住んでいる義理の姉妹らと再会した輪は、喜び歓迎する義姉とは正反対に、冷たく他人を拒絶する義妹の姿に過去の自分の姿を重ね合わせる。
そんな中、秋の海辺で波間を漂っていた不思議な親友のアネモイを発見し、奇妙
な再会を果たすのだが、そこから町の存亡をかけた新たな騒動が……。!
自ら帰る家を捨て、人々を見守るために街から街へと渡り続ける漂白の神、空を泳ぐ水神アネモイ。お見合いが終わり、旅立っていったアネモイとは、輪もいちこも生きている間にはもう二度と会えないはずだった……のだが、たまたま訪れた街でクラゲのように波間を漂っているアネモイと遭遇してしまう。せっかくの再会なのに、感動も何もあったもんじゃねえ!(笑 いやまあ、そんな再会だったとはいえ、ちゃんと感動の再会になってましたけどね。
相変わらずアネモイの惚けた性格が素敵すぎて楽しいやら懐かしいやら。
でも、二度と会えないはずの相手と再会出来た喜びに浮かれながら、同時にすぐにでも訪れるであろう二度目の、こんどこそ本当の最後のお別れという事実に、輪やいちこの心は揺れ続ける。何故か別の町に行けなくなってしまっているアネモイだけれど、言い聞かせるように、別れはもう済ませた、次の街に行けるようになったらすぐにいなくなるから、となんども繰り返すんですよね。輪もいちこも、それが仕方の無いことだと分かっているので納得はしているんだけど、それでも寂しさや遣る瀬無さといった感情を持て余し、読んでいるこちらも切ない思いにかられてしまう。
アネモイも、そこまでなんども繰り返して言わなくても、と思いながら。なんでアネモイが再会出来たことを素直に嬉しいと喜びながら、裏腹に素っ気なく別れを強調し続けるのか、それは最後に明らかになるわけです。考えてみれば、別段なんの難しい話でも無いのだ。アネモイという存在をどう捉えるかで、思い至るか自明のことかは変わってくるんだろうけれど。
にしても、アネモイの独特の台詞回しは、やっぱり面白いなあ。この会話が通じそうで通じなさそうな微妙な掛け合いが楽しいのなんのw

そして、第一巻と変わらず、この作品は空気感が絶品だ。一巻の舞台である十五夜草町と違い、今度の街は川毎町は海辺の街ということで、潮の匂いのする海風が吹き寄せてくるような、潮騒が響いてくるような染み渡る雰囲気が広がっている。季節が秋、というのもあるんだろう。どこか騒がしいような夏の海辺のイメージとは違い、厳格な冬のイメージとも違い、どこか静かで穏やかな海の気配が、安らぎと落ち着きをもたらしてくれる。
この感覚は実に味わい深い。またも、堪能させてもらった。

作者はゲームのシナリオライターということで、小説は本業ではないのだけれど、今回の終わり方はさらなる続編を意識しているような作りで、こりゃあ三巻以降も期待できそうで嬉しいなあ。

ところで、最近は金魚神が流行っているんだろうか。と言っても、知る限りファミ通は佐々原史緒さんの作品に出てくる駄神・瑞穂さまくらいだけど。


あ、作者の朱門さんがこちらでアネモイの紹介ページを製作している模様。こうしてみると、ゲームっぽいなあw