影執事マルクの秘密 (富士見ファンタジア文庫)

【影執事マルクの秘密】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

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前々から薄々と思ってたんだが……これタイトルの命名スタイル失敗だったんじゃないのか?(苦笑
ぶっちゃけ「影執事マルクの〜〜」でちゃんとマルクに掛かってるのって「天敵」くらいまでなんじゃないか。次の「忘却」はマルクじゃなくてエルミナだったし、「覚醒」はエミリオ。そんでもって今回の秘密もマルクではなく、ドミニクの話だったわけだし。

というわけで、使用人の中でも最古参であり、契約者でないにも関わらず他者を圧倒する実力の持ち主、得体の知れない謎の人物、家令のドミニクの過去に関わりのある人物の来襲編。
回想部分、誰が誰かというのはだいたい最初から想像はついてたんだけれど、ドミニクが本筋の方にさっぱり出てこないから、確信とまでは至らなかったんですよね。まー、口絵見たら間違いないだろうとは思ってたけど。
前回のエミリオとエルミナほど芸術的な対象認識の錯綜じゃなかったけれど、それでも最後まで疑念を晴らさせない描写バランスは絶妙ですね。
実は個人的には<ドミニクはエルミナたちの**>というのをこっそり期待してたんだけどなあ。この期待はかなりギリギリの所まで継続していたんだが、<彼女>からの手紙の内容を見る限りでは、その線はなさそうだ。
でも、過去の真実や、彼女とドミニクの関係がこんな風だったのを知ると、家令がどんな思いでヴァレンシュタイン家に仕え続け、エルミナたちを見守ってきたかが想像を絶してしまう。
そうなんだなあ。ドミニクの十五年があった先に、今のエルミナとエミリオの二人の代があり、マルクたちヴァレンシュタイン家の使用人たちが集った今の時間があるのだと考えると、ドミニクやペインたちが抱え込まなくてはならなかった苦しみを、繰り返せるわけないよなあ。
決着はつけなきゃならない。


さて、今回はカナメ逆襲編と位置づけられているだけあって、カナメが巻き返す巻き返す。と言うほどカナメ個人がガツガツと噛み付いてくるわけじゃないんですけどね。でも、控えめながら服の裾を摘まんで離してくれない、みたいな一途な姿が強烈極まりない。
このシリーズの面白いところは、主人公のマルクの恋愛観が驚くほど等身大な所である。先のエミリオの事件の終いに、他の使用人たちの見ている前でエルミナにキスされてしまったマルク。それをきっかけに、自分が主人であるエルミナに対して普通の女性として恋愛感情を抱いてしまっている事に気づくわけですが、そこからがマルクの面白いところで同じく女性として仄かに意識し、また薄々自分に対して好意を抱いてくれていると感じていたカナメとそれとなく距離を置き始めるのである。同僚として以上に近しい距離感だったカナメとの間に、きっちり線引きをしようとしだすのだ。それをマルクは、エルミナを好きになってしまった以上当然として行わなければならないケジメだ、と明言するのである。近年稀に見る異性関係に対して誠実な主人公である。
とはいえ、そこできっぱりとカナメと関係を清算出来るほど人間が枯れていないのが、マルクという主人公の愛すべき所なのだ。
カナメに対してもしっかりと、自分はエルミナの事が好きなのだ、と告げながらも、やっぱりカナメも可愛くて女性らしくて魅力的でいいよなあ、という思いを消しきれず頭を抱えて悶々としてしまうあたり、人間味がありすぎるくらいありすぎて、ついつい背中をバンバンと叩いて励ましてやりたくなってしまう(笑
さらにこの後、とある一件でマルクはこのカナメに対するモヤモヤとした気持ちが、エルミナへの想いと同じ、女性としてカナメを好きなのだと気づき、愕然とするわけなのだが、ここまではっきりと複数の女性に恋愛感情を自覚する主人公というのも珍しいなあ。
それでも、その後きちんと彼はエルミナの方を選択しようとするのだけれど、ここで思わぬ方向から待ったがかかるんですよね。決めちゃうのはちょっと待ちなさいよ、と。
マルクと同じく、彼の言う理由はよくわかんなかったんですけどね。エミリオの名前がどうしてそこで出てくるんだ?

一方でカナメの方もエルミナとマルクの決定的瞬間を目撃し、さらにマルクからエルミナを好きなのだと告げられ進退極まったところで、ついに決意を固めるのである。

主人公やヒロインたちが鈍感でも不誠実でも事なかれ主義でもないためか、何気にそこらのラブコメなどとは比較にならないほどダイナミックに恋愛模様が激動してるんだよなあ、このシリーズ。それでも、これまでは立場やまだ固まらない気持ちなどから、個々人の胸の内で揺れ動く恋心にとどまっていたのだが、それもカナメの決定的な行動によって崩れてしまった事から、ダムが決壊するようにえらいことになりそうだったのが、またラストで上手いことやりやがった。
これで、否応が無く問題が先送りにされるじゃないか。でも、先送りにされるだけでいざその時が来たら、これいったいどうなるんだろう。やばい、ニヤニヤが止まらない。

前巻を読み終わったときは、もう恋愛模様に付いては王手が掛かったと思ったんだが、まさかカナメ嬢がここまで巻き返してくるとは想像もしなかった。こりゃあ、まだ五分五分以上可能性があるかもよ?

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