いつも心に剣を 5 (MF文庫J)

【いつも心に剣を 5】 十文字青/kaya8 MF文庫J

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暗黒騎士となりはてた父を倒し気を失ったレーレが目を覚ましたのは魔女の砦だった。ユユの献身的な看病により、一命を取りとめたレーレ。しかし、容赦なく魔女たちが問い詰める。魔女討伐隊の一員として多くの魔女と魔王と倒したレーレに残されたのは「死」のみ。だが、魔女ルチアが異論を申し立てて−−。レーレに未来はあるのか。ユユと共に道を歩むことはできるのか。人間が、魔女が、心の底から愛し必要としていたものは実はとても近かったのかもしれない……。衝撃の最終巻。−−−「帰らないと。ユユのところへ」−−−


う……わぁ、これはヒドい。これって文字通り生地獄じゃないか。
無辜の民が容赦なく虐殺されて行く戦場で生き別れになってしまい、お互いに死んでしまったと思い込み、片や無気力に、片や復讐に身を任せて孤独に沈んでいたユユとレーレが、奇跡的に再会したことで、それぞれが陥っていた暗冥に似た状況が幾らかでも改善されると思ったのに。喪ったと思っていた半身のような存在を取り戻したことで、ようやく二人で支え合いながらもう一度前に進んでいけるのだろうと、楽観的にとらえていたのに。
まさか、再会することで二人ともが余計にひどい状況に追い込まれるハメになるなんて。そりゃあ、先の巻の終わり、案外あっさりと二人をひきあわせたなあ、とは思いましたよ。もっと切羽詰ったのっぴきならない状況で、例えばお互いに敵対しあう勢力の一員として戦場で、というシチュエーションなどで再会してしまうようなケースを想定していただけに、重傷を負って倒れたレーレを魔女たちが連れ帰り、それをユユが看病するという二人の間に障壁の存在しない形で再会してしまった事に、拍子抜けした事実は否めない。
でも、二人の間に壁が存在しないことが、こんなひどい有様を引き起こすことになるなんて……。私は、好きなキャラクターは追い込んでナンボ、と思っているタイプなので、主人公たちが過酷な状況に追い込まれていく流れは好きな方なんですが、それでもここまでやるか、と読みながら青ざめてしまった。
ユユを人質に取られ、その際立った戦闘能力を振るってつい先だってまで味方だった人間たちを殺戮するよう強要されるレーレ。彼は言われた通りに教会関係者を殺し、その邪魔をする人間を殺し、任務の行きすがらにハチ合った無関係の人間を殺し、自分を手駒として使っていた上司を殺し、同僚だった騎士団の人間たちを殺し、自分を好きだと言ってくれた少女をも殺してしまい、その殺戮への罪悪感に徐々に狂気の縁へと沈んで行く。
そして、そんなレーレをただ見守ることしか出来ず、レーレを置いて死ぬことも出来ず、帰ってくる度に血みどろになりすり減って行くレーレの姿を見せつけられ続けるユユもまた、徐々に精神に破綻をきたしていく。
これが生地獄でなくて、なんなんだろう。
なんで、こんな事になってしまったんだろう。ユユもレーレも、お互いのことを大切に思っているだけなのに。二人の絆は、二人がお互いを求める気持ちは、これ以上なく強まり通じ合ったというのに。それが故に、こんなひどいことになるなんて。
自分が殺戮した人々の怨霊に取り付かれ、呪詛の声に苛まれ、生きながら父と同じ暗黒騎士へと変貌していくレーレ。自分が生きていることがレーレを苦しめ、しかし自分が生きていないとレーレが生きる希望を失ってしまうと言うどうしようもない絶望感に生きる気力を失い、食べ物が喉を通らずやせ細って行くユユ。そんな二人が、魔女と人間との闘争の果てに生地獄をそれでも生き延び、辿りついたふたりだけの自由の果てで見つけるものはなんなのか。
もう、なんか未来への希望とかそういう明るいナニカが欠片もうかがえないエンディングだった。せめて、二人が生き残り二人で歩き出せたことが救いなんだろうけれど、あまりにも罪にまみれてしまった二人がこの先幸せになれるという想像図が、とてもじゃないけど思い浮かべられない。
ユユがかつても持っていた人間の教会の論理にも縛られず、魔女の思想にも偏らない、開明的な個々人としての自由思想の萌芽は、結局彼女自身の無力さによって何の力にもならずに潰れてしまった。恐らく、彼女の剣と成り得たかもしれないレーレの強さは、レーレの自立意識の希薄さからただただ都合よく使われる道具として、殺戮の剣と成り果ててしまったわけだ。言うなれば、ウルトラバッドエンド。
多分、打ち切りとは言わずとも巻を短縮して完結しただろうこのシリーズ。それでも、断固としてこの救われないルートを選択し、これでもかこれでもかと徹底的に叩きつけた作者の迫力には戦慄を禁じ得なかった。恐ろしい。
せめて、ヨナハンとセルジュの二人が、心傷つきながらも彼らのまま生き残ってくれた事が、唯一の幸いなのかもしれない。レーレが二人を殺さずに済んだのが、最後の救いだったのかもしれない。

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