天川天音の否定公式 IV (MF文庫J)
 
【天川天音の否定公式 4】 葉村哲/ほんたにかなえ MF文庫J

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領域との休戦のようなひととき、長月学園では文化祭準備が佳境を迎えていた。瑛子は天音に「後夜祭で、雪道に告白する」と宣言をする。複雑な心中の天音だが、応援すると決めた。折しも虚構式の断片が世界中で発見された報告を受け、この街に居る時間も短いことを悟ったときだった。しかし、後夜祭にて学園全体を巻き込む攻撃が御堂姉妹によって仕掛けられ、雪道たちは戦闘に巻き込まれていく。願望の化身エピメテウスの思惑とはいったい? そして、雪道と天音がうちに抱えた「永遠」と「終焉」という世界の全ての根源である『式』が、二人を思わぬ運命に導いていく――。

永遠以外は無価値だ。終わってしまうもの、消え去ってしまうものに価値など無い。そう言い切ったのは、<待ち人(ゴドー)>。
永遠へとたどり着くために彼が選んだ方法は、数年という僅かな年月のみ存在を許された人の姿形と心を持った人形に永遠式を継承し、先へ先へと繋げていくこと。いつか、永遠に辿り着く日を待ち続け。だがそれは、その人形は、彼が無価値と断じた、ただ消え去りゆくもの、そのものではないか。
矛盾である。矛盾があるからこそ、待ち人は決して永遠にたどり着けない。彼だけが、それに気づかない。
そして、そんな無限に続く放浪の中に囚われる彼を終わらせたものこそ、彼が無価値と断じたものだった。

思えば、芦原雪道には永遠どころか過去も未来も許されていなかった。永遠式の人形として発生した雪道には過去というものは何も無く、いずれ永遠式に蝕まれ消えゆく定めがある以上、未来もまた存在しない。彼を産んだ両親すらも存在せず、係累もなく、過去を共有する友人もいない。何も無いまま存在し、そのまま永遠式を継承して消えゆくだけだった彼を、芦原雪道という人間にしたのは、まさに長月瑛子その人だったのだ。第一巻で、雪道が瑛子をどう思っているのか、好きなのかと天音に問われ、間髪入れずに「光だ!」と告げたのは、暗喩でも何でも無く事実そのものだったのだと今になってよくわかる。瑛子の存在は、無に等しかった彼にとって、闇を払う光そのものだったのだ。雪道が瑛子を半ば神聖視し、崇めるように彼女を大切にしているのも決して大げさなことではなかった。彼にとって、瑛子は文字通り人生のすべてだったのだろう。
二人の世界はまさに二人で完結していたと言ってもいい。例外は二人をつないだ二匹の猫だけ。いずれ泡沫のように消え去ることを運命づけられた、刹那の楽園。そんな中に飛び込んできたのが天川天音であり、彼女こそが非日常の世界に二人を巻き込んだように見えてその実、四つの原初式によって紡がれる滅びの運命に巻き込まれた部外者だった、という趣旨の話は2巻や3巻の感想で触れた事だったか。
そして部外者であるからこそ、彼女が雪道たちに忍び寄る滅びの運命を覆す鍵となるのでは、と考えていたのだけれど、勿論天音も役割を果たしたと言えるんだが、想像以上に雪道、瑛子、シロコ、そして天音の四人が四人共に誰一人欠けていても叶わなかったという形で、四つの(いやこの場合は四人の、と言い表した方がいいか)原初式と向き合うことになる。
永遠に辿り着くために生み出された雪道は、瑛子たちと過ごす時間を通じて消えゆく今この瞬間にこそ掛け替えのない価値を見出し、無価値であった自身を<待ち人>と伍するほどの存在へと昇華させる。それは永遠式の否定。
願望式に見込まれた瑛子は、絶望を恐れず、希望を拒絶し、何も望まず、何も願わず、自らの手で大切なものを取り戻そうとする。それは願望式の否定。
瑛子と雪道に拾われた猫として、本来彼ら二人の行く末をただ傍観する立場だったシロコは、世の理をねじ曲げ、自らも彼らが織りなす舞台へと上り、運命へと完全と介入することを選ぶ。それは虚構式の否定。
そして、すべてを終わらせることで救いを与えようとする力、終焉式を振るいながら、終わることを拒絶し、滅びに抗い、先へとつなげようとした天音。それは終焉式の否定。
原初式となりはてた四人が違ってしまった結末を、雪道たち四人は敢然と否定したことで、図らずも在り得るはずがなかった未来を手繰り寄せることが叶ったわけだ。
運命は、覆されたのだ。
私、この物語は雪道や瑛子たち個々人の感じる幸せは別として、現実的にはあまり救われない結末を迎えるんじゃないかなあ、と思ってたんですよね。透明で幻想的で美しくはあっても、たとえば根本的に普通の娘である天音は、寂しい思いを抱える形で終わるような終り方になるんじゃないかと。
ところが、そんな予想されてしかるべき儚い終焉を、彼らは見事に打ち破ってくれた。いや、正直言ってたまたまそうなってくれた、と言うべきかもと思わないでも無い。シロコも瑛子も雪道も、誰も自分が生き残ることを考えて動いていなかったわけだし。三人とも自分が死に、消えてしまう事をまったく恐れず、ただ自分の大切なものを守ろうとしただけ。その意味では、やっぱり天音の存在は、皆が未来に繋がるための鍵になったんじゃないかなあ。一生懸命のわりに役に立ってたか怪しい、というのが天音らしいんだけど(笑
否定の解釈については、上に書いた意外にもまだ色々と視点を変えて捉えられる部分が多そう。
なんにせよ、見事なくらいに上手いこと話がまとまった上で先に続いてくれたのは、幸せだった。ちゃんと、みんな告白できたわけだしね。
最後まで天音は残念美少女だったけど(苦笑
このヘタレで間が悪くて残念なところこそが、天音のめんこい所なんですけどねえ。ぶっちゃけ、瑛子には恋愛方面では絶対に叶いそうにないんだよねえ。ただ、逆に完全に瑛子との間で雪道の所有権については上下関係できちゃっているっぽいので、その意味では強行派で裏表の激しい策士であるがゆえに瑛子とガチで対決しそうなシロコと違って、天音は二号さんで安泰なのかもしれない。天音のダメッ娘っぷりは、見捨てるのも突き放すのも難しいような、ついつい放っておけない気にさせられてしまうところがあるからなあ。雪道と瑛子のふたりがかりで面倒を見てしまいそうな所があるのよねえ。いや、メインヒロインとしてはどうよ、というようなダメっぷりだけどね(笑
とりあえずこれで完結なのかしら。どこにも明記されてないんですよね。話はきっちり終わってると思うのだけど、このままラブコメメインで続いてもらっても、それはそれで全然OKなんだがw

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