ムシウタ  10.夢偽る聖者 (角川スニーカー文庫)

【ムシウタ 10.夢偽る聖者】 岩井恭平/るろお 角川スニーカー文庫

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「あたしには“虫”を消しちゃう力があるんですよ」。虫憑きに殺されそうになったカノンがついた、たったひとつの嘘。しかしその嘘が、虫憑きたちを呼び寄せ、特環やむしばねを超える力を持ち始めてしまい――!


本編の続編としては三年ぶりにもなるのか。久々も久々の【ムシウタ】シリーズ最新刊。と、そのまま続きでクライマックス、とは行かずに、あとがきによるならば最後のピースが出揃うクライマックスに向けた最後のワンステップ。
思えば、カノンと環が最初の嘘をつく事になった場面。最初に嘘をついた相手こそが原初の虫憑きであり、二人は虫憑きが生まれた謎の最初期に関わっていた事になるのです。
優しい嘘で人々を守り導くか弱き聖者と、剣のごとき嘘で姫を守らんとする騎士。二人の嘘つきが始めたことは、この虫憑きたちの物語においてどういう役割を果たし、位置づけを得るものか。
この物語が向かうであろう結末において、やはり重要な役割を果たす者というのはかっこうやハルキヨに代表されるような強い存在なわけです。では、か弱く無力な存在はただ踏みにじられるべきなのか。その問いかけへの答えが、むしばねのリーダーとなった詩歌であり、独自に勢力を形成して反逆を企てる茶深であり、そして自分の身を守るためについた嘘が弱き者たちを導くことになり、無力の果てに自分の夢を見つけてしまったカノン、という事になるのでしょうか。
彼が持つに至ってしまった力というのは、現段階では一体どういう風に扱われるべきなのかまったく未知であり、どうしてカノンが最後に邂逅する人物が彼だったのか、という所の謎も含めて、こりゃあ次巻以降にならないと、シリーズ全体における今回の話の位置づけというのは見えてこなさそうだなあ。

と、シリーズ全体を俯瞰的に見た場合のこの巻の位置づけとはまた別に、この巻はこの巻でしっかりとひとつの話として纏まっているのは間違いないのでご安心を。
カノンと環、段々と疎遠になりながら再会してしまった嘘つきの幼馴染の物語。二人とも特性の違う嘘つきなんですが、カノンにも環にも最後まで騙されましたよ。嘘つきであるからこそ、心の真芯に通った真実だけは揺るがない、と言うことか。
この環の能力というのが、ちょっと尋常じゃないんですよね。単純に戦闘能力だけで言っても、相当の部類に入ることになるんでしょうけれど、彼女の能力が真価を発揮し始めるのは戦闘における強さにこだわらなくなった後半からの働きでしょう。彼女の嘘つきとしての交渉・弁舌能力と合わさって、個人の虫憑きとしてはケタ違いの力を振るう事になる。個人戦闘能力も三号、応用次第では2号以上のレベルであり、さらにソフト面での応用範囲の凄まじいまでの広さを考えると、いままで登場した虫憑きの中でも規格外と言っていい存在だったんじゃないでしょうか。その能力をフル活用して、たった一人で虫憑きの始原へと至る秘密にまで近づいていたみたいですし。
それでも、彼女は1号指定には至らないんだろうなあ。
どうも、一号指定の虫憑きは、能力の強さとは別のところで指定を受けている節が見受けられるんですよね。というのも、ハルキヨが放ったセリフ。
俺たちは殺せねえ。だからこその一号指定だからな
彼が語るのは肉体的な不死とは全く別の意味での、存在の不死性。その意味においては、レイディ・バードですら死んでいないのだという。一号指定とは何なのか。
にしても、ハルキヨはやっぱり亜梨子にまだ滅茶苦茶こだわってたのね(苦笑
あからさまなまでに、彼女が戻ってくることを願っている。やはり、ハルキヨにとって亜梨子とは特別だったのだ。
そして、本来ならば虫憑きがすべて居なくならなければ、すべてが終わった後でなければ帰ってこれないはずの亜梨子が、終わる前に戻って来れるかもしれない、という可能性も出てきたわけで。
こりゃあ、ムシウタのクライマックスに真・ヒロイン不在という残念フラグが回避されそうな気配が出てきましたよ。亜梨子派としては、この気配は嬉しい限りだ♪
次巻がなるべく早く出ますように〜