ガンパレード・マーチ逆襲の刻欧亜作戦 (電撃文庫 J 17-29)

【ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 欧亜作戦】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫

Amazon
 bk1

先の感想で西王アリエスの策謀を嫌がらせレベルで収拾出来ている、戦局を左右されるほど致命的なものにはなっていないと書いたけれど、どうやらそれは甘い見通しだったみたいだ。
青森への幻獣軍の強襲上陸という危機に、ようやく防御体制が整い戦力が結集、敵の攻勢限界を支えきろうとしたその瞬間に、致命的な一撃をくれてきたのだから。
これほど厳しい一撃は、かつてのカミーラの爆破テロくらいじゃなかろうか。早々に新生壬生屋が元凶を叩いてくれたからまだ被害は抑えられたけれど、実際青森から八戸に下がらなくてはならなくなったのは戦線が崩れたと言っても過言ではない。不幸中の幸いは、津軽半島の部隊が孤立せずに撤収できたことだろうけど、あの攻撃の発端となったのがその津軽の部隊が撤収してきて戦力が結集してきた事にもあるわけで……。にしても、希少な優秀な海兵団の将校をここで失ってしまうことになるとは。芝村側の上級将校が戦死したのは、初めてじゃないだろうか。ただでさえ、海兵団は扱いが難しくて、これを自在に使える人材は少なかったのに。

とはいえ、戦線を下げて青森を放棄、折角復旧した北海道との補給線、青函トンネルも奪還され追い詰められたものの、数年に一度という強力な低気圧による猛吹雪は幻獣軍を鈍らせ、下げた戦線は縮小され、密度は逆に厚くなっている。敵の攻勢限界は近く、荒波少将はここは守勢で支え、攻勢のタイミングを伺うという方針に。
この青森での戦いは善行がデザインした欧亜作戦全体から見ると、全体の一部でしかない。大原首相が中心となって行う首都における政治的作戦・白。善行が直接シベリアに赴き、シベリア王との間で行われる外交作戦・紫。そして秘匿軍事作戦・紅が同時進行で実行されることになる。これらが成果をあげれば、単体の軍事作戦としては北海道との補給線を絶たれて先の見えないものになってしまう荒波の守勢は、そのまま逆襲への布石となるわけだ。スケールがでっかい話だ。勿論、荒波たちとしては、青森は保持したままで状況を進行させたかったんだろうが……。
戦艦の艦砲射撃とは、やはりここまでごっついものなんだなあ。
その守勢も、アリエスが投入してきた新型幻獣のお陰でまたぞろピンチになってきたのだけれど。合田少尉の部隊がここまでピンチに陥ったのってかなり久々なんじゃないだろうか。被害を考えると、初めてと言ってもいいかも。ここまで数あるフラグを乗り越えてきた部隊なのに、いきなりえらい危機的状況に陥っちゃったなあ。合田少尉は大丈夫だとは思うけど(冒頭のコメントからして)、それでも胃が痛いw

激戦化する一方の青森市街の最前線だけれど、実のところ今回の一番の見所は実際の戦場ではなく、後方である首都東京で行われる政治劇なのである。
特に一番見ごたえがあったのが、山川中将とクーデターの立役者の一人だった秋月中将とのテレビ対談。シビリアンコントロール下に徹し、民主主義の軍人としての本文を尽くした山川中将と、国の状況を憂いクーデターを起こすことになった秋月中将との、真っ向からの主義主張のぶつかり合い。とはいえ、お互いにすでに信念や固定観念に凝り固まった状態ではなく、ふたりとも事の真実に真摯に目を向け、この国の病巣を目の当たりにし、無私の思いと客観的視点でこの国の危機的状況を見つめる勇気を得るに至った状態、立場は異なりながらもある意味同志として対話を行う二人のやりとりは、熱く、真摯で、誠実であり、非常に訴えてくるものがあった。
そして、大原首相が暴露する戦争の真実と、軍需産業の解体劇。まだ現在進行形だけれど、ダイナミックな政治活劇が展開されている。
一方で、シベリアでも幻獣領に取り残され、人類圏から秘匿され忘れられた自治居留区の人々の生きざまと苦悩、そしてカーミラと同じく人の姿と心を持ったままこの世界に降り立ち、同胞の末路と人類が虐殺されて行く地獄絵図、その地獄に自らも手を下したという事実に苛まれ、絶望に犯されたシベリア王ミハエルの真実の姿。そこに踏み込んで行く善行と、彼を支える原さん。そして遠坂くん、といった面々による外交交渉も行き詰まる展開。
正直、ミハエルに対して日本が与えられるメリットというのは何もない上で協力を取り付けよう、というのはゾッとするくらい無謀な試みなんだよなあ。本当にここまで何も無いとは思っていなかっただけに、善行おまえ何考えてるんだ? と愕然としてしまいましたよ。
それでも、厳しいとはいえ条件を出してくれるまで話を聞いてくれたのは、ひとえにカーミラのお陰だわなあ。日本、もう彼女には頭上がらないよ。

そして、ミハエルの要求に応え、青森戦線を救うために企画される秘匿号・紅。これ、場合によっちゃあ野間集落での戦いよりハードル高いぞ、おい(汗

シリーズ感想