イスカリオテ 5 (電撃文庫 さ 10-9)

【イスカリオテ 5】 三田誠/岸和田ロビン 電撃文庫

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クリスマスに沸き立つ街に蘇ったあの男の脅威が迫る──

 12月、聖誕祭(クリスマス)を控えて御陵学院は大きな盛り上がりを見せる。玻璃率いる中等部生徒会はじめ、喫茶店をやることになったノウェム、さらにはラーフラまでもがサンタの格好をして準備に奔走。イザヤもその熱気の渦に巻き込まれていく。
 しかし、聖誕祭当日、街に異変が起こる。突如出現した<獣(ベスティア)>の群れ、新たな異端審問官の登場、そして壬生蒼馬の復活により事態は大きく動いていくが──!?
 三田誠が贈る罪と罰のアイロニック・アクション、緊迫の第5弾!



後書きにて明かされた、シリーズ全七巻構想。ならば、ここで描かれる平穏なる日常は、ここで行き止まり、ということか。聖誕祭に向かってふくれあがって行く熱気、浮かれたような楽しげな空気。それに感化されるように、いままで接点の薄かったノウェムと玻璃、そしてラーフラといった面々がつかの間、交流を重ね、戦友として、友人として絆が通じ合ったような感覚に、どこか満たされたような想いを抱く。
そして、イザヤも。英雄イザヤを演じ続けてきた偽物の勇哉も、街の熱気に浮かされながら、この半年、英雄の模倣を続ける間に、イザヤとして実際にこの街で過ごしてきた時間を思い返し、ひとつの決意を固めて行く。

そして、壊れる日常。

あらすじにあり、すでに前巻で示唆されていた蒼馬の復活は、単なる引き金に過ぎない。最後の戦いはここから始まり、あとは最後までノンストップで駆け抜けていくのだろう。
わざわざその日を、聖誕祭に持ってくると言うのは様々な意味での比喩を込めているんだろう。
偽物の英雄が、本物の英雄として生まれる日。
人の姿を模倣した人形が、一人の少女として生まれる日。
そして、最後の悪夢が、希望の裏返したる絶望が、生まれる日。
それが聖誕祭とは、ずいぶんと皮肉がきいている。
英雄の偽物を演じるのではなく、真の意味で英雄として生きることを選んだイザヤの前に立ちふさがるのは、おそらく、でも間違いなく、あの人物になるんだろう。これは、シリーズが始まった当初からある程度予想されていたことだけど、まさにイザヤが本物になったこの時に現れてくるなんて、凶悪な話じゃないか。

でも、イザヤがカルロ神父に訴えかけるシーンは、もう滅茶苦茶熱かった。カルロ神父が抱いた衝撃が、魂が揺さぶられるような感動が、ダイレクトに伝わってくるような熱さ。普段、飄々として何を考えているのか真意の見えない男が抱いた感慨だからこそ、余計に強烈な熱量となって伝わってきたのかもしれない。

クラクラきた。

正直、カルロ神父が告白してくれた世界情勢は、かなり衝撃的だったんですよね。これはただの絶望じゃないよなあ。絶望することさえ許してもらえない、本当の滅びというべきか。
それだけに、身にまとっていたものを全部脱ぎ捨てたかのような、まっさらで真摯で力強いイザヤの訴えは、決意は、間違いなく眩い希望として輝いたのだろう。

一方、複雑なのは<バビロンの大淫婦>こと妖女ちゃんの立場だよなあ。ベスティアたちから女王と呼ばれ祀りあげられるかのような立場にいながら、本人は自分が何のために存在しているのかを記憶しておらず、その発言たるや邪悪な悪女そのものにも関わらず、実は言動不一致というか、自分で悪ぶって言っているほどには、別に悪いことはなんにもしてないんですよね。今回、ついに一線を超えてしまったか、と思ったらまたも言葉だけで、実際にはノウェムのピンチを思わず助けちゃってるし。
妖女ちゃんについては、てっきりイザヤがお気に入りだから彼だけ贔屓して、手助けしているんだと思ってたんだけど、それだとノウェムを助けちゃう理由が分からないんですよね。もしかしたら、思っている以上にこの子、単なるツンデレちゃんというか偽悪ぶってるだけの子なんじゃないかという疑惑がww

一方のノウェムは、玻璃と妖女ちゃん、二人がかりで自分のイザヤにいだいている想いが単なる忠誠やシステムの命令によるものではなく、純粋な恋心じゃないの、と指摘され暴露され、うろたえまくることに。人形が人に恋をすることなどありえず、恋をする人形はそれこそ人間と何の違いがあるのだろう。
恋する人の事で胸を焦がし、今は亡き親友のために怒ることができる、そんなノウェムはやはりただの少女なのだ。
あのノウェムの友人となった少女、遥の事に改めて言及されてるのはジーンときた。ノエwムにとって、彼女は本当に大事な人だったんだなあ。彼女の尊い想いは何も無駄じゃなかったんだ。彼女の存在が、この絶望的な状況をさらに絶望に突き落としかねなかった暴食の存在を打ち砕く事になったんだから。それ以上に、ノウェムに人としての在り方を教えてくれたかけがえのない子だったわけだし。

あと予定では二巻で完結らしい。殆ど一気にノンストップでクライマックスまで突っ走りそうな勢いだし、できれば最後の二巻はなるべく短い期間で出して欲しいところですねえ。

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