ヴァンダル画廊街の奇跡〈2〉 (電撃文庫)


【ヴァンダル画廊街の奇跡 2】 美奈川護/望月朔 電撃文庫

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第16回電撃小説大賞<金賞>受賞作早くも登場!

 父の遺志を継ぎ『誰かの心の中の絵』を描くため、世界を旅するエナたち『ヴァンダル』一行。しかしそんな彼らをあざ笑うかのように、過激派の反政府組織『DEST』が絵を用いたテロ活動を実行に移し始める。
 絵を単なる政治闘争の道具にする彼らを許せないエナたちは、それを妨害するために奔走するが……突如として彼らの前に現われた、殺されたはずの『DEST』の指導者UMAを名乗る少年は、エナと似て非なる光を宿した、赤い『眼』を持っていた──!!
 第16回電撃小説大賞<金賞>受賞作第2弾、怒涛の新展開!


渋いなあ。滅茶苦茶渋い。この読後感のどこか苦味と寂寥感をブレンドした清々しさ。懐旧を胸に、未来へと足を踏み出していく、その足取りの重たさと確かさが押し寄せるように想起される。
ここで登場人物たちに開かれる未来は、決して輝かしいものでも希望に満ちたものでもない。むしろ重苦しく薄暗く優しい過去から遠ざかっていくものだ。それでも、その場に一歩も動けなくなり、行き止まりに立ち尽くしていた彼らは、心の中の一枚の絵を目のあたりにすることで、その重く暗い未来へと自ら踏み出して行く勇気と決意を得るのだ。懐かしい思い出を胸に、優しい過去に別れを告げて、歩き出して行く。
その後姿は、淋しげでありながらとても崇高で、自然と敬虔な思いに駆られる。物悲しさに胸を震わされながら、それでも彼らが得た勇気を讃え、彼らが歩むことを選んだ人生に幸あらん事を祈らずにはいられない。

新人賞作品として一冊で完結させなければならないと言う制約によって、エナの過去や目的にまつわる事件を追いかけなければならないことから、一巻では全体に方向性が散漫になっていた部分があってちょっと残念だなあ、と思っていたのだけれど、シリーズ化されたことでそのへんが見事に解消されていた。特に、一巻ので一番だと感じた二章の方向性を突き詰めた形で、今回のメインとなる三作は描かれていたので非常に満足。話の締め方も、唐突感に拍子抜けする人も多いかもしれないけれど、自分はこの形がとても好きですわ。ある種の話やキャラの先行きの余韻を感じさせる締め方もいいけど、この話の主人公を置き去りにするような、それとも置き去りにされるような終わり方は、強く一期一会を感じさせ、彼らが彼らの人生を歩みだした事を強く印象付ける。彼らがこの先どう生きるのか、どうなっていくのかは、彼らだけの物語なのだ。エナたちも、読者も、もう彼らの行先に関知することはなく、覗見する意味もない。
故にこその唐突感。お別れなのだろう。
その点がより強く強調されているのが、第二章。ハルクの過去とすれ違う、<オフィーリア>の肖像。正直、この物語の終幕における、人生の終着点をのぞみつつある老人たちの抱くあまりにも複雑で入り組み積み上がった名状しがたい想いは理解の遙か埒外にあり、故にこそか、圧倒的なまでの密度を以て胸を締め付けてきた。理解ができなくても、伝わってくるものはある。わからなくても、わかることはある。
言葉にならない感情の渦が湧き上がってきて、泣けてきてしまった。
傑作である。
ちなみに、このお話の題材となるジョン・エヴァレット・ミレイ作の【オフィーリア】は、圧倒的なまでのインパクトある傑作なので、見たことがないという人は一度目にすることをおすすめする。
見た目若いサイボーグのハルクだけれど、此の男の中身はロフマットの言うように正真正銘、実年齢通りなんだなあ、というのが実感出来た話でもある。

四章で、エナを主人公としこのシリーズの基幹を為すだろう話が始まっているけれど、今後もこうして最後の一章だけエナの話、として進んで行くんだろうか。その方がバランス良さそうだけれど。
ウィリアム・ブレイクの【大いなる赤き竜と日をまとう女】は恥ずかしながら見たことがなかったんだが、いや、これは何ともものすごい絵だなあ。

1巻感想