東京レイヴンズ1  SHAMAN*CLAN (富士見ファンタジア文庫)

【東京レイヴンズ 1.SHAMAN*CLAN】 あざの耕平/すみ兵 富士見ファンタジア文庫

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まずはポツリと落とす一滴。その一滴の雫が、真っ白なキャンバスをものすごい勢いで塗りつぶして行き、後になるほどその潜在していたスケールに戦かされるのが、あざの耕平作品のセオリーであり、かの人がスロースターターなどと呼ばれる所以なのだと踏んでいるのだけれど、さてこの新シリーズは如何なるものになっていくのか。
一都市の日常の裏に潜むダークサイドを舞台にした【Dクラッカーズ】。そこから一気に世界全体を揺り動かし、人類と吸血鬼の行く末を描くに至った【ブラック・ブラッド・ブラザーズ】。そして、この【東京レイヴンズ】は、タイトル通り東京を舞台に、世間の耳目が見聞きできる場所に躍り出た霊異と陰陽師たちの物語。これが、どこまで日本を揺り動かし、世界を震撼させるのか。楽しみで仕方がない。

にしても、確実に前作・前前作とは違う部分を狙ってきたなあ。同じものは書かないぞ、という舌なめずりをしながら手ぐすねを引いて取り掛かったような作者の熱気が伝わってきて、読んでるコチラの体温も自然と上昇してくる。
思えば前作【BBB】は斯くも偉大な物語へと駆け上ったけれど、唯一物足りない面があったとすれば、それはラブストーリーとしての側面だったんですよね。ミミコとジローさんはいい雰囲気は醸し出していたんだけれど、二人の関係は恋人としてのそれをじっくりと練り上げていくにはあまりにも激動の時代の波の渦中にありすぎて、それどころじゃなかったからなあ。
そうした前作の結果があったからか、今度のシリーズではより積極的に、果敢にラブ寄せを突っ込んできた。まだまだ鈍い主人公・春虎と自分の恋心を不器用に持て余すヒロイン・夏目という、初々しいラブコメ模様だけれど、かつての【Dクラッカーズ】の景と梓を彷彿とさせる因果と運命が二人の間柄には秘められていそうな雰囲気でもあり、二人の間に流れる想いが後々ドえらい展開をもたらす起爆剤であり原因となりかねない気配もあり、これも楽しみで仕方がない。
面白いといえば、メインキャラクターたる二人、春虎と夏目のわりと頼りなさそうな部分も面白いなあ。今までのあざの作品のキャラクターって、みんな突飛なところはあっても出来る人材が揃ってたんですよね。土壇場に追い込まれれば追い込まれるほど冴え渡り、度胸が座り、持ち得る最大のポテンシャルを発揮し尽くし、絶体絶命のピンチを乗り越えて行く、みたいな。
だので、夏目の肝心なところでの本番に弱くオタオタしまくるところには、状況も忘れて思わず和んでしまった。堅物で融通がきかず、きっちり者で内気で不器用、とまたこれまでにないキャラだなあと思ってはいたけれど、その上ダメっ娘だったとは。天才という評判はどこへ行った(笑
天才だけど、突き抜けてはいないんだよなあ。実際、十二神将と呼ばれる国家一級の陰陽師とはその実力にかなりの隔たりがあることが、明白となっているし。
いやしかし、この娘はホント面白い。話が進めば進むほどこの娘が内包している様々な要素が明らかになっていくのだけれど、少なくともこの一巻終了時点だけで夏目というヒロインが持ち得る可能性の多様さ、複雑さ、広大さは、その全貌を改めて確認するとちょっと呆気にとられてしまったほどだ。あざのさん、滅茶苦茶練りこんできたなあ。一見、よくあるラブコメヒロインの典型とも捉えられかねないけど、とんでもない、もうビックリするほど詰め込んであるよ、この娘。
そうか、なるほどなあ。なんで春虎が当初、鈴鹿に夏目と誤解されたのか。後半、実際夏目が鈴鹿と対面したとき、彼女が土御門夏目だと鈴鹿がわからなかったのか。
他にも、喫茶店で春虎が夏目の代わりに行くと言った時、それまでそわそわと上機嫌だった彼女が、春虎がちょっと鈴鹿の事を庇った発言をした途端、いきなり過剰なほどぶちきれてしまったのか、夏目の言動にはしっかりと伏線が仕込まれていることに気付かされる。
喫茶店で夏目がキレたときは、さすがに自分も「え? いきなり怒りすぎじゃね?」と思ったもんだけど、一連の出来事の裏にあった真実が明白になった後に振り返ってみると、ここの場面、確かに夏目は春虎の発言にキレて然るべきなんだよなあ。ものすげえ納得した(笑

あー、しかし北斗の奔放なキャラクターはすっごい気に入ってしまってたので、この展開には戸惑いとワクワクが収まらない。次巻以降、どういう風に描いていくんだろう。ラストで端緒は描かれているけれど、これが日常パートとなるとどうなっていくのか、楽しみで仕方がない。全部を理解した冬児は嬉しかっただろうし、めちゃめちゃ事態を楽しんでるんだろうなあ、これ。面白くって仕方ないだろう、見物人としては。
色々と頼りないダメっ娘だったりニブチンだったりする部分はあるけれど、春虎も夏目もあざの作品のメインキャラクターに相応しい、魂の熱さをしっかりと宿した真っ直ぐで敬服に値する、要するに惚れるに十分なキャラクターだ。これからも猛烈に追いかけていきたい。特に夏目は頑張れ、超がんばれ(笑 絶対苦労するタイプのヒロインだもんな、この娘は。春虎の野郎、さっそく中学生にフラグ立ててやがるしw ライバル多いぜ、きっと。
鈴鹿も、言動からして常識のない病んだヤバげな娘かと思ってたら、思いのほか一途で。その内面は攻撃的な態度とは裏腹で、うん、イイ娘だよなあ。こりゃあ、強力なライバルになりますぜ、夏目さんw

思っていた以上にキャラの造形に力が入っていたけれど、ストーリーの方も今後ドでかい爆弾が潜んでいる気配があちらこちらに仕込まれているし、数人の主要人物のみの閉じられた物語ではなく、これまでのシリーズのように沢山の登場人物が激動の運命に立ち向かう展開を予想させるものが確実に垣間見えているので、もう先々が楽しみで仕方がない。
とりあえずは次回は学園編ということで、こいつアホだろう、と否応なく確信させられてしまった春虎と、なんかもう大変な苦労をしいられそうな夏目さんの活躍を堪能したい、というところで、ここは敢えて、冬児の働きに期待(笑
陰陽師が表舞台に出ているこの世界観の詳しい社会面や、怪異を堂々と内包している日本の国際面での立場とか、そういう方向ももっと知りたいところだけれど、この辺は次回以降、無知な春虎がしっかりお勉強してくれるか。【BBB】でそういう異端異常を内包した社会のロジカルな設定構築の確かさはわかっているので、その意味では安心してワクワクしながら待てそう。
なんにせよ次回だ、次回。うん、早く早く、続き読みたい♪