天使から百年  魔人と主人と廃棄物 (富士見ファンタジア文庫)

【天使から百年 魔人と主人と廃棄物】 野梨原花南/ここのか 富士見ファンタジア文庫

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“世界のためになんか戦えない”。二人の少女の、エスケープ・ファンタジー

異形の敵・ロドーリーに対抗できる能力者を集めたダーヴィス学院。英雄の末裔だという理由で学院に強制入学させられた少女・カイは、魔人フジシロユイカを召喚して、ロドーリーと戦うことになるのだが……!?


ずっと逃げ出したかった。ここじゃないどこかへ。どこか遠くへ。
それはどうして? あなたの居場所がそこにはなかったから? 今いる場所が、居心地が悪かったから? だから、逃げ出したかったの?

【マルタ・サギーは探偵ですか!?】を富士見ミステリー文庫で手がけていた野梨原花南さんが、富士見ファンタジア文庫へと進出してきましたよ。
ある種の胡乱な回り道を優雅に回り込んで結末へと舞い降りた【マルタ】と違って、こっちは少年系レーベルらしい真っ向からの王道路線で来たなあ……などと思ってしまうのは私が野梨原花南作品に慣れ親しんでいるからであって、この人の手がけた作品をあんまり知らない人からすると「……王道???」となるんだろうか。
現代日本から異世界への界渡り。異世界を跨いで渡り歩く展開は、野梨原さんの作品だと割と多いというか、ホントに多いんだけれど、この現代日本と異世界との距離感の独特さは、そのままマルタのそれを踏襲しているっぽい。マルタ・サギーはあれはあれでキチンと完結していたけど、もう少し違った形で<異世界⇔現代日本>という世界観での話をやってみたかったのかな。面白いのは、話の主人公であり主体となるのは異世界人であるカイであり、彼女に召喚された異邦人であり、魔人とされるフジシロユイカは、全く異世界に違和感も戸惑いも感じていない所か。召喚されたモノらしく、自分の持つ力にも異世界に突然呼び出された事にも見知らぬ少女を主人とする事にもなんら疑問をいだいていないんですよね。
勿論、それは召喚される過程で自分に与えられた能力や役割などがインプットされているからなんだけど(何しろ、召喚される前までユイカは普通の女子高生にすぎなったんだから)、それよりもむしろ「ユイカ」の性格が原因じゃないのか、とユイカの言動から思いたくなるんですよね。「あ、そうなんだー。じゃ、がんばるねー♪」みたいなノリでww あの、カイ好き好きー、な様子も彼女の素っぽいなあ。初対面の相手をいきなりそんなに好きになれるのかよ、と思いたくなるところだけれど、このユイカの様子を見ているとそれもアリかなと思えてくる。
むしろユイカを呼び出してしまった召喚者のカイの方がよっぽど繊細で、突然自分がおかれてしまった環境に怯え、戸惑い、蹲るようにしてその場から動けなくなってしまっている。自分が呼び出してしまった魔人に対しても及び腰になってしまうのも無理はない。なにしろ魔人だ。正体不明の謎の女の子だ。しかもなつかれてしまってる。そりゃあ、なんか嫌だ。怖いし不気味だしエロいし、逃げたくもなる。
そもそも、いきなり無理やり連れてこられて、命をかけて世界を脅かす侵略者ロドーリーと戦え、なんて言われても「よし、頑張るぞ!」などと元気いっぱいやる気満点になんかなれるはずがない。
幸いにして、周りの大人達は自分たちがどれほどの無茶を子どもたちに強いようとしているのか嫌というほど、それこそ自分が嫌になるほど理解しきっているので、とても辛抱強く我慢強く、子どもたちを見守り、体を張って守ろうとしてくれている。子供はね、というか人間はよっぽどひねくれて捻じり曲がっていなければ、自分を守ろうとしてくれている者に対して背を向けて逃げ出すのは、良心が軋んでしまうものなのです。ある意味、それは束縛の鎖でもあるんですけどね、でも鎖はどれもが冷たく締め付けてくるものではないのです。そこに、自分自身の価値を見出す人もいるし、居場所を見出す人もいる。
純粋に、まっすぐに、単純に、一生懸命頑張る子を見て、自分もやらなくちゃ。あの子だけに負担を押し付けるのは自分が許せない。あの子を守ってあげたい、と騎士道精神に駆られる子もいる。
理由を得るのに屁理屈をこねまわすのも楽しいけれど、人が持つ原初の感情にそれを委ねてしまうのも悪くないじゃないですか。素直に怒り、素直に恐れ、素直に疑い、素直にやる気を手に入れる。人は複雑怪奇な生物だけれど、また同時に単純明快で素直な生き物でもあるわけで、その意味ではこの物語に出てくるキャラクターたちは、みんな繊細で複雑に入り組んだ内面を有しながらとても素直に自分の胸の内に想いを積み上げて、それに基づき行動する。それを見ているのは、とても清々しい気持ちにさせてくれるのだ。

そして、まだ多くは描写されていないけれど、それは多分ロドーリーたちも同様なのかもしれない。その素直さの方向性はひどく難解なんだが、そこには一定の法則が透けて見えるような気がするんだなあ。
この人間のそれとは明らかに異なる異質な法則性を有した、この得体の知れない感覚の存在というのは作者の代表作である「ちょー」シリーズで、ちょくちょく見かけたなあ。あれに出てきた魔王の在り方も、こんな感じか。となると、ロドーリーたちもあまりに人間よりも異質であるがゆえに、逆に相互理解を歩み寄っていく話になるんだろうか。もちろん、理解しあうことが分かり合うこととはまた異なるのだけれど。

どうやら三巻構成でダラダラ長引かせずにびしっと終わらせてくれるみたいなので、ガンガンと百年前の真相もロドーリーの真実も、なによりみんなのラブコメも進めて欲しいっすねえ。
とりあえず、ジャンセン頑張れ! 一生懸命な男の子は好感度高いぜー。