黄昏世界の絶対逃走 (ガガガ文庫)

【黄昏世界の絶対逃走】 本岡冬成/ゆーげん ガガガ文庫

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『──黄昏予報の時間です。本日午後の黄昏濃度は約80パーセント、非常に濃くなる見通しです。発作的な自殺には注意しましょう』
全天を覆う茜色の空。《黄昏》はヒトの弱い心に入り込み、支配し、死に至らしめる病の元凶。世界は生きる気力を失った人々で溢れていた。その《黄昏》を浄化し、青い空を生み出す少女《黄昏の君》(メアリ)。フリーエージェントのカラスは、その奪取を請け負い、二人で短い旅を続けることになる。《黄昏》に冒された人々との出会いと別れを繰り返しながら……。


ちょっといきなりラストの展開に触れる思いっきりネタバレな文章になってしまったので、一応収納。
ネタバレ注意。






と、一度書いた感想を投稿作業中に間違って消してしまい、意気消沈。うつ伏せ停止。
ううっ、慌てずに復旧作業すればまだ戻せたのに、焦って取り返しのつかない事をしてしまって、完全にアウト。これ、結構書くの時間掛かったんだけどなあ、一時間半くらい。
うわぁ、凹む。

とはいえ、落ち込んでいるのも癪なので、なんとかもう一度書くことにしたんだが、ノリノリのアゲアゲのテンションで書いていたのでもう一度、あのテンションで書け、というのはちょっと無理だ。凹んでるし。
なので、しょうがないので冷静に書くとする。ぶっちゃけ、さっきまで「ひゃっはーーっ!」「おらおら、やってやるぜー!」みたいなノリで書いてたんだけど。冷静になってもう一度おんなじ文章書こうとすると恥ずかしいなあ、おい。そういうノリの文章、読むのは別になんでもないんだが、もう一度書くとなると……あははは。

この物語はあらすじからも、タイトルからもわかるように逃避行の物語だ。この手のロードストーリーは、大概にして必然のように逃亡は失敗に終わってしまう。何から逃げているのかは様々だが、追っ手はそれぞれの姿をとり、確実に逃亡者たちに追いついてくる。それはもう、必然ですらある。
増してや、この物語の世界は絶望の世界であり、諦めに蝕まれ、虚ろに犯され、終焉を自ら望もうとしている世界だ。
黄昏という悪夢は、麻薬のように人々の心を蝕み、朽ち果てるような死へと、誘っていく。それは、主人公たちもまた例外ではない。
旅路の先々で、カラスと彼に連れられたメアリは、黄昏に沈む世界の姿を目に焼付け、生きる気力を失った人々と出会い、別れて行く。と、同時に彼らの魂もまた、死に惹かれていくのだ。
特に秀逸だったのは第四章。カラスが過去の優しい思い出の中にいた娘エーコと再会する話。
これほど胸を掻きむしられるような痛みを感じさせる話があるだろうか。これほど、寂しく哀れで救いの無い話があるだろうか。取り残され、置き去りにされた者の末路を、この物語は淡々と描く。その静けさはあまりに荒涼としていて、悲しみすらも感じない。ただただ、寂しい。寂しい。
カラスが、自身の内側に押し殺していた虚ろを、まともに覗き込んでしまう話だ。
以降、彼は死に惹かれていく。心のどこかで幕引きを望むようになる。それが、唯一の安息だと悟ったように。
そしてメアリは、そんな彼をじっと見守り、彼の望みを黙して受け入れるのだ。
そして、お互いの中の寂しさを自覚し、安らぎに至る終わりまでの時間を埋めるように、お互いの存在を強く求めて行くことになる。

黄昏に包まれた、逃避行の始まりだ。
それは、同時に終わるための始まりだった。

物語は、必然のように定められた流れの先へと落ちて行く。諦観に満たされた世界観がさらにその後押しをし、逃避行の主役たるカラスとメアリの逃げる先はその最初から「終わり」でしかなかった。

そう、結末は誰もが容易に想像できる、透明で美しい悲劇以外のなにものでもなかったはずだった。
そう、はずだったのだ。

だが、自分がこの物語を読み終えたときにあげたのは、溜息ではなく「喝采」だったのだ。
最後の最後、土壇場の土壇場で、彼らはお互いを強く求めたがゆえに、まとわりつく諦めを振り払い、のしかかってくる絶望を突き飛ばし、首まで沈んだ死への誘惑を押しのけ、あがき、這い上がり、物語も世界も何もかもが強要してくる定められた結末を、敢然と打ち砕いて見せたのだ。
そう、それは本当に最後の最後だった。それこそ、最終ページから三頁前まで、結末は揺るごうとしなかった。それを、メアリだ。あの、最初は人形のように何も表さず、ナニも知らず、ただカラスに手をひかれ歩いているだけだった娘が、生きたいと願い、カラスと共に死ぬのではなく、カラスとともに生きたいと願い望み求め、そして自ら与えられるのを待つのではなく、自ら勝ち取り、奪い取ろうと戦い、運命も何もかもを吹き飛ばしてみせたのだ。
もう、痛快だ。最高の気分だ。
彼らは、見事に勝利してみせたのだ。
メアリのあの一言は、湧き立つような生きたいという強い息吹の突風だった。空虚に蝕まれ、黄昏に染まりきったカラスの心も、世界の暮れも、何もかもが吹き飛んだ。全部がひっくり返り、すべてが一変した。最高だよ、あの女。
なるほど、メアリは怒った顔が一番可愛い、というカラスの見解には、まったく同意せざるを得ない。カラスの有り様を受け入れるのではなく、自分の願いを押し付けるのだと決めたあとの、泰然とした威風たっぷりのメアリは、とても生き生きとしていて、ほとんどエピローグだけだったけれども、素晴らしく素敵な女性でしたよ。
黄昏に沈んだ世界の中で、カラスとメアリの二人は、美しい悲劇という結末から、見事にまんまと逃げきってみせたのでした。
終了寸前までの儚く透明で静かで寂しく、孤独を二人の男女が埋め合うような雰囲気も、最後の最後のどんでん返しも、すっごい、好み直撃の話でした。