MiX!  オトコの娘はじめました (角川スニーカー文庫)

【Mix! オトコの娘はじめました】 岩佐まもる/CARNELIAN 角川スニーカー文庫

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最近はノベライズばっかりだった岩佐さんの七年ぶりの新作ということで、何はなくとも即購入。ノベライズだって買ってたんだから、オリジナルとなればそりゃあ買うさ! まあ、ノベライズとはいえ、コードギアスなんかはナナリーが主人公でほとんどオリジナルでしたけどね。マジでパねえほど黒いナナリーを見たい方は、岩佐さんのノベライズをどうぞー。
宣伝は置いておいて、これは正真正銘のオリジナルである。そりゃ、最優先で買うさ!!
でも、実のところタイトルやあらすじが見て、期待よりも不安の方が強かったというのが正直なところだ。なにしろ、テーマが、完全に流行りもののオトコの娘の話ときた。とてもじゃないが、岩佐さんのイメージとはそぐわない事この上なし。自分のスタイルと合わない作品を書かされて、壊滅的な有り様になるケースは事欠かないわけですし。
ですが、読み始めてすぐにそれは杞憂に過ぎないとわかりました。これはそんじょそこらの流行りものに乗っかっただけの粗雑乱造とは一線を画した、本物の「オトコの娘作品」である、と!
そもそも、オトコの娘とは何なのか。単なる女装とナニが違うのか。色々な解釈や見解が、それこそ人ぞれぞれにあるでしょうが、私にも確固としたイメージと言うものがあります。
一つ、その振る舞いは女性のようにたおやかで、母性を感じさせるような優しさと包容力を持ち合わせていること。外見が女性的というのは大前提として、その所作や挙措そのものに女性を感じさせる空気を備えているもの。
一つ、その心根は男性であること。その芯は常に男らしくあらんとし、か弱いものを守らんとする男気と正義感に溢れている者。かと言って男勝りというわけじゃなく、その立ち居振る舞いと同じく性格も優しく気配り上手で柔らかいのがいい。我が強い方じゃなく、むしろ押しが弱くてついつい頼まれごとをされると断れない感じ。しかし、軟弱ではなく、根っこは強靱で折れない芯があり、責任感も強く、頼まれたからにはどんなことだろうと手を抜かず、全力かつ真摯にやり遂げる面を強く備える。
個人的にはメンタリティも女性だったり、単に女装が趣味だったり外見が女っぽいだけだったり、性格がウジウジしてて惰弱で男らしくないのは「オトコの娘」とはなんか違うなー、と思ってるんですよね。
これは、自分の中の最強にして究極である【乙女はお姉さまに恋してる】の宮小路瑞穂ちゃんによる刷り込みが強く強く作用してのイメージ固定と言えるんだけれど、「オトコの娘」という言葉が広まるきっかけとなった【アイドルマスター】の秋月涼も概ねこれに当てはまるので、瑞穂ちゃんに特化した定義ではないはず。
そもそも「オトコの娘」というように「オトコ」という部分が強調されている以上、男としてのアイデンティティは失ってはならないと考えたい。

さて、肝心のこの作品。【Mix!】の主人公である諏訪蘭丸は、まさにこの定義にズバリ当てはまる、マイパーフェクト「オトコの娘」だったのでした。
肉体性能は完璧に女の子。性格的な質感も見事に女性。しかし、ここぞと言うときに見せる男気、その意気はまさに毅然とした男の子。何故かこの手のキャラがフルスロットルで男らしさを全開にすると、=お姉さま! になってしまうのは、黄金律的な方程式がこの世界には存在しているからに違いないw
流行りものに乗っかろうと、中身まで安易に安っぽい見え見えのキャラ萌えバカコメに走るはずもなく、ストーリーはまさに直球勝負の王道路線。中学の卒業式で好きな子に告白したものの、男らしくないからとフラレてしまった蘭丸は、高校入学と同時に心機一転男らしい自分を手にいれるために空手部の門を叩いたものの、何故かそこは新体操部。お互いの勘違いがハプニングと合わさって交錯しまくった結果、何故か蘭丸は二年生の女生徒として怪我をした部長・涼子の代役として新入生歓迎会の舞台に立つはめに。しかも、自分を振った相手の三枝佳奈がマネージャーとして入部してきてさあ大変、というお話(笑
蘭ちゃんが素晴らしいのは、誰よりも主人公らしく精力的に目の前の課題に頑張り、周りの女の子たちを気遣い、涼子先輩を中心とする先輩連中には楽しく振り回されているにも関わらず、一方で誰よりもヒロインらしく、皆に愛でられ慈しまれているところである。
かの伝説の瑞穂ちゃんと同じように、一人で主演男優と主演女優を担っているのだ。
作中でダレが一番主人公らしくカッコいいですか、と問われればもちろん蘭ちゃんだと答え、誰が一番ヒロインらしく可愛いですかと問われれば、もちろん蘭ちゃんだと答えてしまう、まさに一分の隙もないパーフェクト「オトコの娘」!(笑

勿論、蘭ちゃん一人が突出してしまっていては、それはそれで物語は盛り上がらない。これほど完璧なキャラクターを映えさせるには、周りのキャラクターもそれに負けないくらいの存在感がなければどうしようもなく、またその存在感を鮮やかな魅力として伝わるようにするためには特筆スべき描写力、ストーリーテリングが必要になってくる。その点では、岩佐さんに文句のあろうはずがない。【ダンスインザウインド】で、【ブルースター・シンフォニー】で自分をカンペキに魅了し尽くし、ハートを撃ちぬいてくれたのは、まさにその丁寧で透明で躍動的で美しい文章であり、ストーリーテラーとしての才能だったわけですから。
図らずも、蘭ちゃんが支えることになる三枝佳奈の健気な決意。結果的に自分の初恋を終わらせると知りながら、自分の信じた道を貫く蘭ちゃんを優しく見守る涼子先輩。妙な形で絡まってしまった人と人との繋がりを、丁寧に紐解き、情感たっぷりに築き上げ、優しさと温かさに浸して積み上げたような、一途で健気で頑張り屋なとても女らしくて男らしい、男の娘の青春物語。
もう、期待以上に岩佐分を堪能させていただきました。大変満足でございます♪
これは是非、続編を出すべきでしょう。出して欲しいじゃなくて、出すべき! と敢えて強調して……(ww

イラスト、なんか見覚えあるなー、と思ってたんだが【ヤミと帽子と本の旅人】の人か!!