空ろの箱と零のマリア〈4〉 (電撃文庫)

【空ろの箱と零のマリア 4】 御影瑛路/鉄雄 電撃文庫

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あ、あははは……やられた。これはもうやりたい放題やられてしまった。なんてこったい、前巻の終わりでこの「王降ろしの国」の全貌と勝利条件が明らかになり、攻略こそ最難だけれどやるべき事を見出した一輝の反撃ターンがこの4巻で開始される、のだと完全に思い込んでいた。
駄目だ、完全にいいように作者の手のひらの上で踊らされてしまっている。まさか、これほど鮮やかにちゃぶ台をひっくり返されてしまうとは。ミスリードに完璧に引っかかってしまっていた。
いや、実際は前巻の感想を読み返してみると自分自身色々と引っかかっている部分があって、それをちゃんと指摘しているんだけれど、ぶっちゃけちょっと気になったというだけで実質はスルーしてしまっているんですね。
少なくともこの巻を読み始める段階ではまるっきり頭の片隅にも残っていなかったと言っていい。それくらい上手く誘導されて、隠蔽され、迷彩されてしまってたんですよね。
そう、注意深くすべてを疑って掛かっていたならば、客観的に俯瞰的に情報を精査していたなら、ちゃんと気づくことのできるだけの情報は出ていたわけだ。むしろあからさまなくらいだったかもしれない。見事なくらい、そこから目を逸らされてしまったのだけれど。

いや、それよりも驚嘆するべきは主人公の一輝の在り方なんですよね。前巻のラストでこのゲームの秘められた最難の勝利条件に挑むと決意した一輝、この時点では無意識であり、この巻の後半でようやく自覚的にたどり着くわけですけど、今回の箱、「怠惰なる遊戯」に関して一輝はどうも最初から問題にしていないんですよね。箱の持ち主が意図していた目的を端から相手にもせず、そもそも持ち主を敵扱いすらしていない。話が全部終わってから全体を振り返ってみると、一輝は今回の箱の持ち主なんてまったく眼中になかった事がわかってしまう。
それに気づくと、今回マリアが殆どと言っていいほど活躍せず、何も出来なかったその理由もわかってくるんですよね。もちろん、彼女が動けなかった最大の要因は箱の特性にあるんだけれど、もっと大きな視点、今回の箱のエピソードではなく【空ろの箱と零のマリア】という作品全体から見ると、もうこれは一輝の攻撃が始まっていたから、としか言い様がない。
さらに言うと、口絵のあのワンシーンはまったく正しくあり、同時に間違いなくミスリード。
なるほどなあ、Oがどうして一輝にこだわっていたのか、ようやく理解出来た気がする。醍哉がどうして一輝に一目置き続けていたのかも。マリアが一輝に惹かれ、同時に恐れているのかも。
すごいなこれ、人間関係の立ち位置、上下左右もいつのまにか思いっきりひっくり返されてるんじゃないのか? 
はからずも、最後に割り振られた役職は、それぞれのキャラクターにぴったりのものになってしまった、と作者が後書きで言及しているけど、これも一輝の役職が持つ名前と付与された能力と、マリアや醍哉の役職を鑑みると非常に納得出来る。

それぞれの目的の変化というのは、実のところもう疾っくの昔に起こっていたもので、それが今回自覚と決心の上に浮き上がってきただけなのかもしれないけれど、なによりそれが明らかになったというのは重要である。特に、一輝が明確な意志と意図を持ってその変化を受け入れ、目的を果たすことに一心不乱になるとなったら。
このシリーズ、どう展開していくか全く予想もつかないのだけれど、どうも次の巻あたりでこれまでの下敷きを根本からひっくり返してきそうな予感がして、恐ろしいやらワクワクするやら。
なんにしても、すごいわ、これは。

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