桐野くんには彼女がいない!? (一迅社文庫) (一迅社文庫 か 3-3)

【桐野くんには彼女がいない!?】 川口士/美弥月いつか  一迅社文庫

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ほほーー、川口さんがエロゲ的なハーレムラブコメを書くとこうなるのか! いやいや、この人もハーレム系ラブコメなんか書けるようになったのかー。作風広がったなあ。
いやいやわかってますよ、実はこういうの好きだったなんてこと。他のシリーズ【ライタークロイス】や【漂う書庫のヴェルテ・テラ】なんか見ても、さり気なくそういう要素満載ですもんねえ。ただ、作風が変に媚び媚びしていなくて、実直で抑制の効いた地味めな文章だから目立ってなかった、というか迷彩されていただけで。
面白いのは、この作品、ハーレム系ラブコメ! という点を主題とすると、全体的にまったりとした日常ものになってしまったというところか。実直で丹念な描写法が、ラブコメにありがちはアホみたいにハイテンションな馬鹿騒ぎを許さず、日常の何気ない交流を一つ一つ地道に折り重ねるみたいに節制の効いた、じっくりと堪能できる青春モノになってるんですよね。
とはいえ、それが重たく濃密な青春モノになっているというわけでもなく、一生懸命軽く軽くしようとしているところが逆にエッセンスになって、訥々とした雰囲気の割にテンポのよいラブコメにちゃんとなってるんですよね。
これを逆に浮いている、と取る人もいるかもしれないけど、異能の話の挟み方といい、この危なっかしいアンバランスさこそ、ある意味川口さんの醍醐味だよなあ、と最近そういうところが楽しくなってきている私でありましたww
キャラがわかりやすく定形化してないのも、この場合いいように作用してるのかな。幼馴染や帰国子女、みんなそれなり以上に主人公に好意を持っているというテンプレこそ踏襲しているものの、性格や考え方は変に固定化されてないんですよね。流動的と言うかフラットというか。毒舌家や意地っ張りという特徴となりえる傾向はあるものの、あくまで傾向であってそこだけに突出したキャラ付けはしてないんですよね。そのせいか、キャラ同士のやりとりもつまらない退屈なラブコメの方程式みたいに決まりきったやり取りにならず、似たような話になったとしてもなかなか新鮮な気持ちで読めるんですよね。
そして相変わらず、此の人の描く女同士のギスギスした鍔迫り合いは秀逸の一言。おまえら仲いいなあ、とは決していえないぐらいに明らかにギスギスしてて仲悪いんだけど、修羅場ってるというほど険悪ではないこの絶妙のバランス感。
おいおいいいかげんにしろよー、と行き過ぎヤリ過ぎになりそうになったときは仲裁に入りはするものの、基本的に沙由里とレナの対立を面白がってる康介と麻耶は大物だよなあ。普通、胃がキリキリしそうなもんだけどww
18までに童貞捨てないと死ぬって、それなんてエロゲ?!
数奇な運命に翻弄される桐野くんの切実な悩み。
それは彼女がいないことでした……orz
『星図詠のリーナ』の川口士が贈る超変化球ラブコメついに登場★

と、あらすじではなってるですけど、康介ってあんまり切実に困ってもいないし、ガッついてもいないんですよね。好きな人と結ばれたいとこだわっているところなど、親族身内がとっとと誰でもいいからヤッちゃえと急かす事を思うと古風ですらあるし。
かと言って女嫌いとか潔癖というんでもなく、普通にすけべえでもある、と。ハーレムモノの主人公としては、びっくりするくらい鈍感という感じがしないのは珍しいよなあ。かと言って、じゃあ他人の気持ちに敏感かというと、沙由里とレナの仄かな想いにはさっぱり気がついていないんですが。それなのに鈍感というイメージがないのは不思議だなあ。男女の距離感が、川口さんって独特なところがあるんですよね。近いのか遠いのかわからんところが。それが、ラブコメ書いてても作用してしまっているのか。そのへんも、ハーレムものとしては妙に新鮮なカンジのする理由なのかも知れない。
なんにせよ、事前に想定していたよりも遥かに筆者の特色が出てて、面白かったです。これは続きも期待したい。