プリンセスハーツ〜君は運命の人だからの巻〜 (ルルル文庫)

【プリンセスハーツ 君は運命の人だからの巻】 高殿円/明咲トウル  ルルル文庫

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プリンセスハーツ第七段(でいいんですよね?)は短編集。本編での政治的な綱引きが無い分、どの話もラブ成分が濃い目に設定されております。

【恋のたまご】
王妃付きの女官としてレギュラー出演しているリュリュカが主人公の話。王宮で働く女官さんいうのは良いところの家柄の娘さんが花嫁修業と中央の良い血筋や役職の人と結婚して実家のためにコネ作るのが目的みたいなところがありまして、リュリュカもさっさといい人見つけないと実家に連れ戻されて、従兄弟の若ハゲと結婚させられてしまうというので、焦りに焦って相手を見繕うために走りまわる事になったのでした、という話。
元々リュリュカってテンション高い元気娘というイメージはあったんだけど、仮にも貴族の娘さんだからそれなりに上品な印象があったんですよね。それが……うははは(笑
この娘、切羽詰まると内心の言葉遣いがえらい荒れるんですよね。スラングが入る入る。あげく、付き合ってる人がいるから大丈夫、と親元に手紙送ったらひょいひょい親父殿が恋人と合わせろと上京してきたときのセリフがもう最高。あんた、仮にも上流階級なのに(爆笑
いやあ、ちょっと見損なってました。挿絵のデザインも快活そうでバイタリティに溢れてそうだし、この娘って高殿さんが好みの主人公タイプなんじゃないだろうか。そのときシリーズのフランチェスカっぽいし、この元気よさは。
それ以上に見直したのが、彼女が本当に恋をしてしまった瞬間からの、彼女の無心の心から出てきた言葉。この娘、こんな事を言える子だったのか、と正直驚いてしまいました。元からそれだけの資質はあったんでしょうけれど、相手が持つ闇の深さを感じ取りながら、いや感じ取ったからこそ必死に光の下に手繰り寄せようとする本能の働き。
いやね、その相手というのがあのマシアスなのですが、彼の壮絶極まる過去からして、彼にはとてもじゃないけどお相手になるような女性は出てこないだろうな、と思ってたんですよね。高殿作品の中でも屈指の壮絶さだもんなあ。
それが、リュリュカのおかげでちょっと考え変わりましたよ。彼女は基本的に平和に幸せに苦労なく暮らしてきた子なんですけど、むしろだからこそ、マシアスを無明から救い上げられるんじゃないだろうか、とマシアスに自分自身をもっと大切にして欲しい、と必死に訴えかける彼女を見て、思えたんですよね。本編ではマシアスがまたえらいことになってますし、彼には幸せな結末はないんだろうなあ、と思ってたのが、ちょっと希望が持てるようになりました。このリュリュカなら、やってくれるはず。
この話の素晴らしいところは、まさに恋に落ちる瞬間が描かれているところなんですよね。話の前半でマシアスと遭遇したときにはリュリュカ、マシアスには何も関心抱いていませんでしたし。その恋も、自分の欲求や感情を押し付けるものとは少しベクトルが違っていて、マシアスのもつ闇を垣間見てしまったことで、彼が自分を蔑ろにしているのに気づいてしまったことで、矢も盾もたまらない感情に駆られてしまったところから、駆け巡って広がっていくんですよね。まず衝動があり、そこから気持ちが付いて行き、そこに名前が生まれていく。彼を見て、彼を見る自分の至らなさに気づき、もっと彼を知りたくなり、彼を知るために自分の在り方を見つめ直す。この流れがとても秀逸で、輝かしかった。恋が生じる物語としては、とても凝縮された刹那を切り取ることに成功した逸品じゃないでしょうか。
この話で、モブキャラとしか認識してなかったリュリュカが、すごい好きなキャラの一人になりましたよ。


【月色賛歌】
ルシード、貴方は何も間違ってない。気になる女性に対するアプローチとしてはほぼ完璧にやり遂げてる。途中まで確かに上手くいっていた。それに変なオチがついてしまうのは、絶対にジルが悪い、このアホが悪い(笑 この女、女として根本的なところでズレてるよ!!
なんでこの女はいつもいつもあれだけいい雰囲気になりながら、最後のところで思考がわけのわからないところに飛ぶんだ!? いっそ、彼女なりの防衛反応だと解釈すれば格好もつくのかもしれないけど、どうも素の天然っぽいもんなあ。
ルシードがまいどがっくりと肩透かしを食らうのも仕方ないよなあ。貴方は悪くない悪くない。この女に普通の女の反応を期待する時点で間違ってるのかもしれないけど、じゃあどうしろといわれたら、どうしたものか全然思いつかないもんなあ(苦笑
最初からズレてたら諦めもつくけど、殆ど最後までは上手くいってるんだから、やり方としては概ね間違ってないはずだし。
結論は変にしても、気持ちはきちんと伝わってて、感謝されてるし喜ばれてるし、関係は進展していると思えなくもないんだから、我慢しないと、うん。

しかし、ここに至ってルシードはジルのこと、ほんとどう扱うつもりなのかね。もし、ジルがあの雰囲気の良さの結末を、普通の女性のように受け止めてしまったら、それは仮面夫婦の終了を意味するんだし。
メリルローズのことがある以上、この二人の関係というのははっきりさせてしまうことが非常に危険なのも確かな話。ジルが自分の抱く感情の、ルシードが自分に抱く感情の結論を無意識に回避しているのは、やっぱり防衛反応なのかもしれない。でも、それもそろそろ限界に来てるんですよね。ルシードは自分の気持ちに名前をつけることこそ避けているものの、ジルに自分に振り向いて欲しいという気持ちを押えきれなくなっている。現に、彼女のために、彼女のためだけにアジェンセン大公としてではなく、ルシード個人として何度も動いているんだし。
あとがきによれば、ジルもそろそろもう、自覚の大波が押し寄せてくる予定らしいし。波乱含みだよなあ。
二人の関係ってのは、メリルローズが存在する限り、どうやっても落ち着かないものなわけだしねえ。


【ひとたび、王女に生まれたならば】
今は険悪極まりない関係になってしまったオズマニアのオース王子と、彼の従姉妹であるケティクークの、まだ仲の良かった幼い頃の物語。
今となっては雹王子と呼ばれるほど無感情の冷徹者として知られる王子だけど、まあ昔からあんなではあったのね。でも、生真面目でプライドが高く澄まし屋のくせにちょっと抜けてて、本人は不本意だろうけど、愛嬌のある子だったんだなあ。ケイカはケイカで気の強い子で、いい意味での喧嘩友達。そんな二人の仲が、ああいう形で引き裂かれ険悪化してしまったのは、哀しい話である。オースは何考えてるかわかりにくいのは昔からで、ケイカは彼の分かりにくい感情を察せられるほど感情の機微に優れている子でもなかったわけで、うん、でもわかったからと言って上手く言ってたかというとそうでもないだろうし、難しいところだ。理解しあうことが余計に拗れる結果になってしたかもしれない、あの情勢を考えると。
オース王子の本当の気持ちはどこにあったんだろう。姉姫に淡い思いをいだいていたのは間違いないんだろうけど、ケイカが思っているほどにはオースはケイカの事を邪険にはしてなかったように見えるんですよね。それどころか、非常に大事にしていた素振りすらある。ええい、オースも不器用だよなあ。姉姫に対してもケイカに対しても、もっと上手く出来なかったものか。
まだ、ケイカに対しては希望はあるのかもしれないけど。ふたりとも、まだ生きているんだし。ケイカの心は、ただ憎むことだけを生きる糧とししがみついていた頃に比べれば、オズマニアを出て、サラミスと寄り添うことで余裕を取り戻すことができたみたいだし。
どうやらまだ、オース王子の逆襲が待っているみたいだし、いい意味で二人の仲が近づいてくれればいいのだけれど。オースは敵だけど、こういう面倒くさい不器用な男の子はやっぱり嫌いになれないし。


【大公殿下の温泉休日】
気楽に読める短編、というか掌編。ルシードがジルを振り回しているのか、ジルがルシードを振り回しているのか、二人の関係ってなかなか判別しにくいや。とりあえず、女が無理ならガチムチを送り込んでくる王妃はパねえっす!!


【私の願いを叶える者よ】
前々から疑問だったんですよね。ミゼリコルドがジルに代償を要求し、彼女の表情や涙を奪ってしまったこと。星石の精霊って、別に力を振るうのに持ち主に代償を要求するなんてことなかったはずなのに、と。
なるほど、ジルはミゼリコルドの本当の主人じゃなく、他にちゃんとした主人がいるのか。
ヘスペリアンが誕生する理由というのも興味深い情報。これって、他でも書かれてたっけ。やっぱり細かい設定はさすがに憶えてないんだよなあ。


本編の方はあまり間を置かず、7月には出るみたいなので、待たされることはなさそう。なかなかすごいところで終わってたもんなあ。

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