竜王女は天に舞う3 White Cage (MF文庫 J き 3-3)

【竜王女は天に舞う 3.White Cage】 北元あきの/近衛乙嗣 MF文庫J

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ひゃああ、汚い汚い、薄汚い。ついさっきまで殺し合ってた相手と上からの命令で目的達成まで共闘、達成後は即座に再び敵対とか、これって、潔癖で正義感の強い主人公なら、何度ぶち切れても足りないくらい薄汚い裏取引の横行だ。面白いのは、主人公のシグを含めて敵味方彼我を問わず、倫理や正義、真っ当なルールや感情面を完全に無視した薄汚い取引の類を、完全に割りきって受け入れているところなんですよね。多かれ少なかれ全員が裏社会に属する人間なんだからだろうけれど、このきっぱりした割り切り方はいっそ清々しいくらい。
この作品の一番特異で個性的なのは、世界観よりもむしろこの社会の暗部を遊び場にしている裏の組織によるイリーガルな攻防の仄暗さなんじゃないだろうか。舞台こそ一応ファンタジーだけど、やってることは情報部や公安組織といった暗部による暗闘と非正規戦だもんなあ。
それでいて、ハードボイルドに固まりきっていないバランス感覚は大したものである。シグたちの学生という、まだ組織の犬に成り切っていない立場が辛うじて彼らから陰を感じさせない要素になっているのかもしれない。
もっとも、ルッツなどかなりレニ先生によって絡め取られてきているけど。でもあの男、相当にしたたかだから、早々安易に犬に成り下がることもなさそうだけど。いや、それこそがレニをして公安に向いていると言わせる所以なのかも知れない。
ただ、彼の本性が本当に公安向きだったのだとすると、第一巻のあのシーンで彼がザウエルにつかずに、シグの味方についたのは単なる友情と考えていたら痛い目を見るのかも知れないなあ。状況を考えればシグの味方をするのは絶望的だったかもしれないけど、単なる状況の不利有利で属する組織を裏切る危険性を鑑みたのだとしたら、もしシグが今後、竜の箱庭を裏切るはめになった場合、その時もシグの味方をしてくれるかというと、楽観は禁物かもしれない。もっとも、便宜を計ってくれるくらいには友情に厚い男ではありそうだけど。まあ、その便宜にも色々としたたかな計算が挟まっていそうだけど。でも、友情も立場も蔑ろにしない相手というのは頼みになりますよ?

とまあ、ザウエル先生が裏切り、公安直属の裏仕事専門と言っていいルクセンブルク教室に移籍して以降、前にもましてイリーガルな作戦に駆り出されることになったシグたち。当然、竜の箱庭の学生ではないルノアとリラも付いてくることになるのだけれど、作戦地域に舞踏会の棺があるため現地に赴きたいルノアと違って、リラは完全にシグのため、彼の役に立ちたいため、なんですよね。この子の恋心は一途で健気なんだよなあ。シャルロッテも、リラとルノアの存在に元々踏み外しかけてた幼なじみという関係を踏み越えて、果敢に攻めてくるしで、恋模様も波乱気味に。
これに対して、シグはというと腰が引けちゃってるんですよねー。ヘタレと言えば、ヘタレとしか言いようがない。はっきりと好きだと告白されて、答えを保留せざるを得ないというのは。
リラがそのへんの男心というか胸中に敏感だったのが意外。人と特別な関係になることを恐れて、一番深いところで他人と一線を引きたがるシグの深層心理をぐさりと抉ったあとで、労るように癒すように、でも攻撃的に自分を貴方の特別にしてみせる、という宣戦布告。そりゃあ魅力的だよ。
でも、今回の話に関しては全くもってルノアのターン。彼女の失われた記憶と過去、シグの前のパートナーと、前の彼女を殺害した因縁の相手との対決。それは、必然的に今代のパートナーであるシグとルノアの絆を試し、その関係を一歩推し進める形となる。
失われた記憶の底に沈んでいた敬愛する前のパートナーとシグをどうしても比べてしまっていた自分に気づき、因縁の敵との対決を通じてシグの良さを認め受け入れ、そして心囚われていくルノア。実際、ここでのシグは男前で、悪い怪物からお姫様を身も心も救い出す、ちょっと強引なくらいのワイルドな王子様なんですよね。もう既に、前からシグのイイ所、かっこいい所は分かっていたルノア。どうしても認めることが出来ずにいた彼女からその枷を取り払ったら……そりゃあ、惚れるわなあ。
というわけで、ついにルノアもシグ争奪戦に名乗りを上げてしまいましたよ。
この女の子たちの大したところは、自分の気持に気づいたらそれをうちにも外にも隠さず誤魔化さず、即断即決で率直にシグに伝えているところなんですよね。
恋する女はかっこいいなあ。
一方でシグの方も、告白に対して答えを出せないヘタレではあるんですが、八方美人とか優柔不断って感じではないんですよね。むしろ、三人ともキープ! という妙に積極的とすら思える気概があって、こいつ何気に大物なんじゃないかという……(笑


しかし、今回の敵から放たれた不吉な予言は、既にシグたちの血塗られた未来を決定づけてしまっている。シグも薄々は気づいているんですよね。舞踏会が進めば、いずれ自分がルノアかリラのどちらかを選ばなければならないことを。まあ、シグがどちらかを殺す決断を出来るはずがないのですが、そしてルノアもリラも何だかんだと仲がいいので、今更お互いに殺しあうことは恋敵としてもするはずがないのですが……彼女らの想いが我欲よりもむしろ献身にあることを思うと、残酷な決断を下す時が訪れるのではないかと、今から戦々恐々、ドキドキワクワクでありますよ。
それに、シャルロッテ。この子も果たして今までと同じポディションでいられるのかどうか。あのリラの正体に気づいた敵と、結局最後まで対面することがなかったのは、意味深でもあるんですよね。
あの串刺し令嬢も、どうやら予想通りの存在だったみたいだし、これで7人いる竜王女のうち所在と正体が割れているのは三人。まだ四人いるんですよね。新しく登場するにしても何にしても、そろそろ脱落者が出てきてもおかしくなさそう。

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