S RED ザ・スニーカー100号記念アンソロジー (角川スニーカー文庫)

【S RED ザ・スニーカー100号記念アンソロジー】 吉田 直/ 安井 健太郎/ 三田 誠/ 岩井 恭平/ 林 トモアキ/ 冲方 丁/ 森岡 浩之:THORES柴本/pako/四季童子/あかつき/島田フミカネ/日向悠二  角川スニーカー文庫

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スニーカー文庫の主力作家たちが小説誌「ザ・スニーカー」誌上で掲載し、未だ文庫に未収録のままだった作品を集めたアンソロジー。


【トリニティ・ブラッド  apocrypha Hard Rain】  安井健太郎/THORES柴本

掲載作家の名前に吉田直と安井健太郎の名前があがっていたので、てっきり【トリニティ・ブラッド】と【ラグナロク】の短編がそれぞれ掲載されているのかと思ったら、吉田直が原作の【トリニティ・ブラッド】を安井健太郎が書いた短編だったのか。
この本の表紙も飾っている主人公のアベルは、実は未出演w メインを張るのはキエフ侯女アスタローシュ。トリブラでも有数屈指のツンデレさんだったかの御仁です。こういう人は、ツンデレ対象に絡ませてこそ映えるのだけれど、さすがはアストというべきか、単体でもきっちり存在感を出している。まあ、ラストではこの場にいないアベルに対してモニョモニョとなかなか面白いことになってましたけど。
それはそれとして、相性があっているのか安井健太郎が書いてても、あまり違和感なくトリブラの世界観でしたねえ。話の筋立てがお得意のパターンだったというのもあるのかもしれませんが、あの殺伐荒涼とした空気の中に【ラグナロク】ではあまり感じられなかった気品というのがアストのキャラクターを通じて伝わってきて、それがうまいことトリブラらしくなってたんじゃないかなあ。珍しく出てくるのが女性ばかりだったというのも理由の一つにありそうですけど。


【レンタルマギカ 魔法使いの祝祭】  三田誠/pako

レンタルマギカは安心高品質ですなあ。短編だろうとそれはかわりなく、でもこのへんをよく見てみるとやっぱり穂波よりもアディリシアの方がヒロインとして遇されているのがそこはかとなく伝わってくるのでありました。そして、なんだかんだと言いながら親密なアディと穂波の仲も(笑
個人的に前から気になっていた、ダフネ以外の<ゲーティア>の徒弟たちが<アストラル>との親交をどう考えているのかがわかったのは収穫だった。アストラルとの関わりにはアディの個人的な感情が大きく絡んでいることは、どうしても隠し切れないものがあったわけですし、それをゲーティアの徒弟たちが面白く思ってないんじゃと不安に思うところがあったんですよね。でも良かった、いつきの魅力と、彼の影響によるアディの首領としての変化は他の徒弟たちにも受け入れられ、歓迎されるところであったらしい。うれしい話じゃないですか。


【消閑の挑戦者 夏のドミノ】  岩井恭平/四季童子
てっきりムシウタの方だと思っていたので、消閑の挑戦者だったのはうれしい誤算。昔はこっちのシリーズの方が好きだったんだよなあ。今となってはムシウタの方で手一杯で、こちらは続きでそうにないんだけれど。
ともかくこの話、ウルトラジャンプとは如何なるものなのか、そしてその異常性というのを端的かつ明快に表しているという意味では本編よりも際立っているんじゃないだろうか。そしてなにより、主人公の鈴藤小槙の特異性と不思議ちゃんとしての魅力を遺憾なく発揮しまくった話なのではないかと。あまりの暑さにベンチでのんべんだらりんと熱死しかけているだけなのに、ベンチでへたばったまま、ほとんどすべてを掌握しきっちゃってるもんなあ。考えてみるとデタラメだな、こいつ。未だに自分の中では岩井作品の中で小槙ほど魅力、というか引力を感じさせるキャラクターは出てきてないですなあ。というか、小槙が特別すぎるんですけど。


【パリエル がしがしいきましょう】  林トモアキ/あかつき

企画用に書き上げた話だからなのか、どうもエンジンかかってないっぽいなあ(苦笑
この人、殆どノリで書いちゃうタイプの人なせいか、変に枠を作られるとガチガチに固くなっちゃうところがあるんじゃないだろうか。
しかし、パリエルの名前がその後のミスマルカ興国物語で再び使われる事になるということは、色々と思うところがあったんだろうか。同じパリエルでも性格全然違うけど、主従関係はこちらとあちら、妙に似ているようなところもあるし。


【オイレンシュピーゲル  三匹のタンタン・タカタカ・タンタンタン】  冲方丁/島田フミカネ

本編の前日譚にあたる話のせいか、なんかこう……ドロドロだなあ。汚泥が溜まりきっているというか、涼月たち三人の少女たち、まだ幼いが故にどっぷりと現状の闇に浸かりきってまだまだ抜け出す先を見いだせていないというか。先を見ることもまだ出来ないまま、じっと今に耐えている時代。そう考えると、本編の今の彼女たちは戦う意志と気概を持ち得ているのがなんとなくわかる。やっぱり、変わっていっているんだなあ、彼女たちも。


【いつものように 爽やかな朝】  森岡浩之/日向悠二

こ、これはオチも含めて秀逸なSF作品だ。他の作品がシリーズ作品の中の短編という位置づけであるのに対して、この作品のみが独立した短編となっている。【時をかける少女】の映画が公開されたときに、同じ【時】をかける【少女】というテーマで書いたのがこれらしいけど、それで出来た話がこれって、またもうなんというか、悪趣味とは言わないけどエグい(笑
でも主人公となる女の子とお母さんの掛け合い、急速に深刻化していく状況に、目を剥く結末。SFの設定と人間の相互理解と情報伝達の未発達さ、どれもとびっきりによく出来ていて、ライトノベルという地平で描かれた森岡SF作品としては屈指の作品なんじゃないだろうか。
うん、これは面白かった。