スクランブル・ウィザード7 (HJ文庫)

【スクランブル・ウィザード 7】 すえばしけん/かぼちゃ HJ文庫

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一部の隙もない、完全無欠の大団円。正直これ、筆者がこのシリーズを書きはじめたときにこれほどまでの結末を用意していたのだろうか。もしそうだとしたら、これが初シリーズとなる新人作家としては凄いとしか言いようがないし、そうでなかったとしてもここまでシリーズの完成度を高めた手腕は絶賛に値する。
これは個人的な心象なのだけれど、ヒロインとなる月子は当初想定していたよりも遥かに成長してしまったんじゃないだろうか。能力的な意味ではなく、キャラクターの存在感として。それくらいに、スケールの大きい存在へと成長しているんですよね、月子は。でも、魔法士の社会的な立場を最初から懇切丁寧に印象づけ、政治家の娘という立場を考えると最初から想定していたストーリーラインだったとも考えられる。何れにしても、凄い。
このシリーズが素晴らしかったのは、他に類を見ないレベルでの魔法の天才である月子に、この最終巻では一切魔法を使わせなかった事(戦闘シーンではない場面で使っているが)、絶対無二の武器となり最強の兵器となりえる月子の魔法士としての能力、それがこのクライマックスの戦場において全く必要とされなかったところにあるのではないでしょうか。
彼女の武器は、この時点において魔法ではなく、世間に訴える言葉であり、多数の人に共感を抱かせる思想であり、自分の考えを伝えるだけでなく伝える相手のことを逆に知ろうとする真摯な態度でありました。同じマルチキャスティングの能力を持ち、天才と謳われ、最強の魔法士として自他共に認める存在だった十郎の姉・一花が、しかしその最強の能力を振るったとしてもその影響はただの一個人として以上のものともならず、結局テロリストとして無残な最期を迎えるしかなかったのとは大きく違い、彼女は自分の能力を持って得た足がかりを利用して、見事に世間に無視を許さない、対話を強要する力を手に入れ、その武器を振るうことを自分のやるべき事だと決意したのです。
ただ力を振りかざすのではなく、一方的に伝えるのではなく、対話を心がけること。自分の心を殺して生きていた月子が、最初は恐怖の対象として、その後は憧れと恋の対象となった教師・十郎の事をもっと知りたい、そして自分のことを伝えたい。優等生の仮面を被り、本心を誰にも魅せずに生きてきた彼女が、十郎と出会ったことで見つけた他人とつながる方法、対話という方法を、月子は十郎との間だけではなく、初めてできた友人と、社会と敵対する魔法士や魔法士を憎むテロリストたち、そして果ては魔法士に偏見を抱く世間そのものへと広げていったのです。
やがて彼女の対話は、社会に絶望をいだいていた者たちに希望を与え、魔法士という存在に強い恐怖をいだいていた世間の目を開かせ、自分の思うがままに他者を利用しようとする者たちを揺り動かすほどになっていくのです。
この作品の感嘆するところは、月子の対話が綺麗事によって構築されているわけじゃないってところなんですよね。対話というのは、そもそも相手が話を聞いてくれなければ成立しない。力無き正義が無力という言葉をよく聞くけれど、人に話を聞いてもらうためには、他人に耳を傾けてもらうためには、振り向いてもらうための力が必要なのです。その点において、この作品は現実的でした。月子には政治家の娘という立場があり、テロリストから無辜の人々を救った英雄という背景があり、彼女個人、魔法士として他の追随を許さない能力を持っている。これらの力を、月子は自分の言葉を聞いてもらうための力としてしっかりと利用している。勿論、その力ゆえに苦しい立場に追い込まれたり、絶体絶命の苦境に置かれたりとするのですが。
とはいえ、彼女はその力を、自分の言葉を、考えを押し付けるためには使っていない。あくまで、言葉を聞いてもらうため、自分の考えを知ってもらうために使っているのが、普通の異能者もののヒロインとは一線を画しており、彼女の活躍がこの物語を終局に転がし、大団円へと導いた事が、この作品の試みを示しているのではないだろうか。

月子だけでなく、この最終巻においては月子の側にいる者たちは皆前線に立ち、破壊の力として魔法を振るいながらも、その根底に「対話」の思想が根づいていたのが興味深い。勿論、対話の結果決裂することも当然あるわけだし、対話そのものを拒絶してくる相手もいる。
でも、十郎と能勢の対決は、殺し合いにも関わらず、これも言葉ではなく闘争という形をした対話になってるんですよね。月子の影響を強く受けた十郎が、そう望んだことで、二人の戦いは救いのない血塗られた殺し合いではなく、純粋な互いが望む決闘へと昇華されていったのには驚かされた。
結局、この対話の姿勢こそが月子たちと、伊蔵やマックスウェルとの差になったのではないだろうか。他人を理解しようとしなかったマックスウェルは、彼の策謀によって悲惨な最期を遂げた一花が、遺して芽吹いたものに最後まで気付かなかったわけだし。十郎の、姉への想いが結実したあのセリフは胸に来たなあ。
そして、月子と十郎の関係も。月子が十二歳とか、こうなったらどうでもいい話だ。十郎は最後の最後まで月子に対して真摯で大人だったもんなあ。それだけに、エピローグでの彼女に向けた柔らかい表情が心を擽る。素敵な素敵なハッピーエンドでありました。

ところで、氷見谷くん。PM社の生き残りに追いかけられている、ってそれって残党に命を狙われているとかじゃなく、明らかに別の意味だよね?(笑
惚気けているようにしか聞こえんw

シリーズ感想