鳥籠の王女と教育係 嵐を呼ぶ王子 (コバルト文庫)

【鳥籠の王女と教育係 嵐を呼ぶ王子】 響野夏菜/

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今回はもうずっとアレクセル王子のターン。前回でもう、ゼルイークとレーンが想い合っている事に気づいてしまっていたアレクセル。いったいどうするのかと思ったら……そうだよなあ。いくら脳天気で天真爛漫でどんな事が目の前に立ちふさがっていようとも笑って飛び越えてしまいそうな、そんな王子様だけれど、この人も普通の男だったんだなあ、としみじみと思った。
綺麗事じゃないんだよね。本気で一目惚れし、夢中になり、全身全霊をかけて恋をしたお姫様。呪いをかけられた彼女のために、本国から連れてきた親友の魔法使い。誰よりも彼を信頼し、彼女の呪いの解呪と、自分の国に嫁ぐための教育係まで任せていたら、気がついたら二人は恋仲に落ちてたんだもんなあ。そりゃあショックだ。立ち直れないくらいの絶望だ。何よりもキツいのは、当の二人がそれを悔み、アレクセルのために二人は同意のもとにレーンの記憶、ゼルイークに恋をしたという記憶を封じてしまったことだろう。
それが二人の、自分への絶大な好意であることは頭では理解しつつも、それは男として惨めだし、恋に敗れた身としては見下され、同情されているような想いにすら駆られてくる。
耐えられるはずがない。ガマンできるはずがない。自分が愛した女性は、本当は違う男を好きなのだと知りながら、男の方も密かに思いを募らせていることを知りながら、何食わぬ顔で結婚できるような人間じゃなかったんですよね、アレクセルは。
そしてなにより苦しいのは、自分をコケにした、と言っても過言ではないレーンとゼルイークのことを、こんな事があってもやはりアレクセルは大好きであり続けたことでしょう。だからといって、じゃあ自分はいいから二人はお幸せに、などと簡単に割り切れるほど出来た人間でもなかったわけです。
辛い、これは辛い。思わず、全部投げ出して逃げまわってしまったのも仕方ないと同情する。肝心のレーンは記憶を封じてしまったわけで、突然のアレクセルの変心に面食らうばかり。もう一人の当事者であるゼルイークはといえば、澄まし顔をしながら未練がましくレーンへの想いを漏らしてしまうし。
まあ、ゼルイークの気持ちもわかるんですよ。彼の現在進行形で進んでいる凄まじいまでの境遇。他人と極力付き合わないようにしてきた彼が、その短くも悠久の人生の中で、初めてと言っていいくらい自分の懐に入り込んできた親友、アレクセル。その彼が愛した女性レーンを、自分もまた、生まれて初めてと言っていいくらいの狂おしい恋心をいだいてしまったという板挟みの苦しみ。自分の気持を押し殺してレーンの記憶を封じたものの、彼女への想いを打ち消すこともできず、自分の中で押し殺しておくことも心が耐えきれず、寓話という形で、本当の気持ちが伝わらないように配慮しながらも、自分の思いの在り方を記憶のないレーンに刻み込もうという行為。未練がましくみっともないけれど、それだけ苦しさが伝わってくる。
二人の男の、愛するがゆえの苦悩と絶望。今回の内面描写は、見ごたえあったなあ。

一方で、ゼルイークを憎む魔王の嫌がらせは悪化の一途をたどっていく。ついに、舞台はあのダナーク村へ!
以前のシリーズ。【ダナーク村はしあわせ日和】が好きだった身としては懐かしい限り。あのシリーズは、この作品から百年以上未来の話となるので、さすがに関係者は出てこないかな、と思っていたのですが……おもいっきり当事者がいたーーーー!!
えええっ、あの人がこの人だったの!? 結構、身構えて読んでたんですがそれでも驚いた、驚かされた。なるほど、あの人にも色々会ったんだな。ってか、そんなに長生きしてたのかよ。

シリーズ感想