翼の帰る処(ところ)〈3(上)〉歌われぬ約束 (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-5)

【翼の帰る処 3.歌われぬ約束(上)】 妹尾ゆふ子/ことき 幻狼ファンタジアノベルス

Amazon
 bk1

一歩一歩だけれど、ヤエトと皇女の関係は変転を続けている。先の巻では、皇女が皇族として、君主として、一人の人間としてヤエトを越えて、ヤエトを必要としなくなり、大きく羽ばたいていく予感を純粋に喜び、それを望むかのような素振りを見せていたけれど、あれから少し経って、またヤエトの心情も少し変化をみているんですよね。それが果たして後退なのか前進なのかわからないけれど、ヤエトが再び皇女の元からしばらく離れて過ごすことになったとき、ヤエトはどこか切ないような気持ちに苛まれる。彼がここで抱いている漠然とした不安感は、皇女を置いていくことへの不安感とは少し違ってるんですよね。いろいろ自分で理由をひねり出して、何故なのかを考察しているけれど、ほんとこれ単純な話で、ヤエト自身が皇女と離れたくない、と思ってるんですよね。皇位継承争いやら領土問題などの対処にヤエト不在という政治的な理屈抜きに。
これまでだって、長期間皇女から離れることはあったはずなのに。
このシーンにおけるヤエトの皇女への接し方というのは、敬愛する君主に対するものでも、前巻の妹に対するような気安い親密なそれとも違っている気がしたんですよね。温かいというよりも、柔らかいというよりも、優しいというよりも、自分の宝物を扱うような感じで。
大切に大切に、でも自分のものだからちょっと乱暴に自由に扱うような、そんな感じで。
そう、もうヤエトにとって皇女は遠い意味でも近しい意味でも、他人ではないのです。
かけがえのない私の皇女。
下から崇めるのでも、離れたところから見守るのでもなく、自分の腕の中に抱きしめるように。
皇女への無礼な言葉を吐いた踏野太守の親族への峻烈な対応からも、ヤエトの皇女との距離感の変化が伺える。ここでの彼の対応というのは政治的な対処というよりも、むしろ感情的な怒りによるものだった。思考も冷静で対応の仕方も理路整然としたものだったけれど、その実感情の方ははらわた煮えくり返ってたもんなあ。元々機嫌の良い方が珍しいヤエトだけれど、あれだけ怒っていたヤエトを見るのは珍しい。彼が怒るケースは、確かに皇女が絡むシーンが多いけれど、皇女を思って感情を揺らすことはあっても、あんな風に自分自身が我慢できなくなって、というのは初めてだったんじゃないだろうか。
相変わらず隠居したい隠居したいと公言してはばからないけど、本音ではもう、いや隠居したがっているのは本心だろうけれど、もう皇女を置き去りにして隠居しようとは思っていないだろう。それこそ、皇女がヤエトを必要としないだけの安全と強い立場を手に入れたとしても。
なにしろ、アレだけ忌避していた約束を、最後に皇女と交わしたのだから。

ジェイサルドの鬼神との契約や預言者との会談を経て、古の神話にある魔物の復活が確かなものだと確信したヤエト。皇女たちとその驚異にどう対処するべきか頭を悩ませながら、現実の政治状況も混沌を深めていく。皇位争いは熾烈さを増し、北領では先に紛争の起こった北方との和平交渉の使者が訪れるという事態が。
先日は西の暑い砂漠の地域に出張って、今度は北領よりもさらに北の北方に赴くときた。相変わらず病弱で、いつものように死にかけているヤエトが、結果的に見るとこうも北に西にと帝国領内を広範囲に移動しまくっている、というのは凄いというか本人もしんどいし不本意だろうなあ、と純粋に同情が湧いてくる(苦笑
挙句に、先代黒狼公の妻で皇族の中でも屈指のクセモノである皇妹から求婚されるときたw 虚弱体質だけでも死にそうなのに、心労でも死ぬんじゃないかと心配になってくるけど、愚痴ばっかりのわりに精神的にはタフなんだよなあ、ヤエトはww
そして、皇妹の求婚や皇帝陛下のちょっかいは、どうもでも皇女との関係を発展させるための地ならし的フラグにしか見えないw

シリーズ感想