薔薇のマリア  14.さまよい恋する欠片の断章 (角川スニーカー文庫)

【薔薇のマリア 14.さまよい恋する欠片の断章】 十文字青/BUNBUN 角川スニーカー文庫

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これはまた、なんという……。400ページ越えの、相応に厚い文章量にも関わらず、事件らしい事件がまったく置きないまま、ほとんど全部日常パートで押し切ってしまいましたよ。と、書くと冗長な内容に思えるかもしれないけれど、それがまったく違うんだな。
これ、極少数のメインメンバーに焦点を当てた日常編ではなくて、数十人に及ぶ登場人物を網羅した、掌編集なのだ。数十人である、数十人。ちゃんと数えているわけじゃないけれど、三十人は上回るんじゃないだろうか。
SIXとの激戦が終わり、ひとときの平和が訪れたエルデン。無統治王国の首都という場所柄もあり、危険な無法都市という顔は変わらないんですが、今はどこか穏やかな空気が流れているんですよね。善良で無力な人間でも、笑って日々を過ごしていけそうな気すらするくらいに。
事実、ここで描かれる登場人物たちの姿には荒んだものがなく、それぞれが停滞を脱し、前を向き、より良き未来に歩き出しているように見える。
過去を過去として噛み締めるように振り返る余裕がうまれ、目を逸らし忌避していたものと向きあう勇気を得て、現状は好転し、培ってきたものが成就し始めている。
カタリには春が訪れ(相手はなかなか意外な人物だったが、けっこうお似合い?)、ピンプは過去に喪ったものを愛する人と受け入れ、哀しむために酒に酔う。羅叉は剣たる自身を解放され、ヨハンはついに自戒を解く。ベアトリーチェはすべてを抱擁するように前に進み、ユリカはついに自分の恋を受け入れる。
他にも、新たな出会いを得るもの、懐かしき人と懐旧するもの、今までの関係に変化が訪れるもの。
ささやかで穏やかだけれども、着実な変化が、それも良き方向への変化が皆に生まれ始めている。
まるで、未来が明るいもののように。
そんな中、またぞろメンタルが陰の方に転がりだすマリア。いい加減成長したはずが、いったい何が原因で悪いスパイラルに入っているのかと思ったら……ユリカやサフィニア、モリーやベアトリーチェといった親友たちに癒されているにも関わらず、いつもなら自己嫌悪しながらも歯を食いしばりながらグッと前に踏み出すはずが、元気をもらっているにも関わらず、妙にウジウジと調子の悪さが抜けないんですよね。変だなー、とは思ってたんだ。以前までの欝に比べれば症状が軽いけど、しつこいというか粘っこいというか、タチが悪そうなどうでもよさそうな、妙な調子の悪さ。ほんとに純粋に、なんだろうなー、と思ってたんですよ。うん……。

マリア、もうダメだわ、これ。末期だ(苦笑
救いようがない。これはもう取り返しの付かないところまで進行してしまっている。どんな乙女だよ、どんな乙女だよ!!
アジアンとしばらく会っていなかったから、とかどんな乙女な理由だよ!! お前、少女漫画の主人公か!!
はいはい、ごちそうさまごちそうさま(苦笑

そんな風に、他愛もない、深刻な事件が起こる予兆もない、明日もきっと晴れるかのような雰囲気……でも、はたしてそれは本当に?
そんなはずがない。だって、この巻は最終巻じゃないんだから。まだ、終章に入る前の、その僅かな一刻を抜き出したのが、この巻なのだから。
微笑ましい、どこか安らぎすら覚えるような穏やかなこの14巻を読み終えたあと、ふと想像して血の気が引いた。

まさかとは思うけど、この巻丸ごと全部、<死亡フラグ>じゃないよねえ?(汗

また、linkと銘打たれた章ではトマトクンの過去と思しきもの。失われた歴史にまつわる秘密などといったこの世界の秘密の根幹に関わるであろう話が描かれている。
平和な日々の向こう側に、闇に沈んだ歴史の真実、世界の本当の姿が徐々にベールを脱ごうとしている。
ここで描かれたすべてのキャラたちに、物語の終幕が訪れようとしているわけだ。今から、身体が震えてきそうだ。

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