笑わない科学者と神解きの魔法使い (HJ文庫 う)

【笑わない科学者と神解きの魔法使い】 内堀優一/百円ライター HJ文庫

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物理を修める学生・耕介は魔法使いの女の子・咲耶との同居生活で思わぬ難問「年頃の女の子の服装について」に直面する。新しい服を買いに町へ出た二人は、そこで非科学的な連続落雷現象と遭遇。その謎を解き明かす為、耕介は『咲耶の友達』磐長媛との危険な接触を決意するが……。知識と閃きで運命の呪縛から少女を守りぬく、物理と魔法の化学反応ファンタジー!!

他者を知ろうとする、他者を理解しようとするということは、すなわち他者を受け入れ、他者を尊重することである。
表情がなく感情表現も抑揚のない彼―大倉耕介がその人間関係が希薄そうな表面的な人となりとは裏腹に、多くの人から信頼と親愛を得ているのは、やはり彼のそうした部分が大きいのだろう。
彼は誤解も偏見も独り合点もなく、相対する人を理解しようと常に努力を欠かさず、相手がどんな人間であろうと尊重し、対等であろうとしてくれる。
人間は多かれ少なかれ、自分というのもを理解して欲しいと願う生き物だ。自分のエゴを押し付けず、そのままの形で受け入れてくれる相手に、心を許さないのは難しい。
今回出てきた耕介の知人、友人に様々なタイプの人間が居たことからも、彼がある種の人たらしであることを示しているのではないだろうか。
もっとも、女性関係に関してはあまり広い交友があるわけではないようだけれど。耕介は、女性が男性に求めるある種の幻想を、まったく許してくれないタイプだからなあ。気安い、お手軽な関係を維持しにくいタイプでもあるし。須崎の同僚の瀬名さんみたいに、耕介に何かを求める必要のない立場にある人や、あすみや咲耶のように彼が与えてくれるとてつもない総量の安心を受け止める意志がある子なら別ですが。
とはいえ、あすみが、耕介への感情に一生懸命一線を引こうと頑張っている理由にも、その一端が介在しているように思える。結局のところ、彼女は耕介から得ているものが大きすぎて、それを恋愛感情という単純な枠組みに押し込めて矮小化したくない、と思い込んでいるんでしょうな。もしくは、多々ある耕介への想いに指向性を与えることを恐れているか。理性的であり論理的な人間である耕介に、感情だけの生き物になって一方的にそれを押し付けてしまう羽目になるのは、ひどく情けなく思えるのかもしれない。不器用なあすみらしい考え方だ。悪い意味で、大人になってしまっている。この点、素直な咲耶はお得である。子供の特権と言えるのかもしれないけれど、子供云々というよりも取り返しが付かないまでにひねくれる直前に、耕介と出会い、大人の青年である耕介から子供扱いされず、一個の人間として尊重され対等に扱われたことが、今の彼女を形作っていると言えるのかもしれない。
あすみは、もう少しワガママになってもいいのだろうにね。

一方で、もう一人、ひねくれてしまった女性が耕介の前に現れる。磐長姫だ。咲耶としか交流できない孤独の中に三千年もの間逼塞していた彼女にとって、ごく平静に自分をただの人間として等身大に見る耕介という人間の思考は想像の埒外にあったはず。今は感情的な反発に引きずられているが、嫌悪でアレなんであれ、耕介は磐長姫の中で咲耶にちょっかいを出している邪魔者、という認識から直接自分自身に関係する無視できない存在となったようだ。
今はまだ邂逅しただけの関係だけれど、思わぬところから第三極が現れてきたものだ。こりゃあ、あすみもうだうだとやってられないぞ、などと要らぬ心配をしたくなるところだけれど、あすみの性格からして、磐長姫もまた猫可愛がりしそうなんだよな。ある意味、あすみご満悦の三角関係になってしまうのかもしれない。妙なところで満足しないでくださいよ、あすみさん。

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