B.A.D. 3 繭墨はおとぎ話の結末を知っている (ファミ通文庫)

【B.A.D. 3.繭墨はおとぎ話の結末を知っている】 綾里けいし/kona ファミ通文庫

Amazon
 bk1


「きみはただの人間だ──神様じゃない」

「善悪の判断のある者に頼みたまえ。ボクみたいな人間は役に立たないよ」繭墨あざかは知人からの頼みを断わった。『人魚』に関する悪趣味な"娯楽"に飽きたのだ。だが、あるおとぎ話を読んだ彼女は一転、依頼を受けると言い出した。その微笑みは不吉な兆しにしか思えない。それでも、僕はもう馬鹿げた怪異による犠牲者を出したくなかった。たとえこの手が届かないものであったとしても──。残酷で切なく、醜悪に美しいミステリアス・ファンタジー、第3弾!
ああ、イカレ狂った狂気の世界からニンゲンの物語になった、と2巻を読み終えたときに感じた安堵が、どん底に叩き落とされた。
これは、ニンゲンの物語になったが故の、悪夢の物語だ。小田桐をはじめとした登場人物たちが正気の人間だからこそ、心臓を抉られ目の前で握りつぶされるような絶望にさらされる。
人の持つ当たり前の正義感が、善性が、良心が、ただ助けたいと願った心が、無残に人を殺していく。
これは……非道い。本当に非道い。小田桐は、ただ自分の出来る範囲で、できるだけのことをしようと思って行動しただけなのに。自分の良心に従って、善良な人間なら誰しもが持っている素朴な正義感に基づいて、真摯に行動しただけなのに。ただ、目の前で苦しんでいる人を助けようと思っただけだったのに。
今回、小田桐がとった行動は尽くが、本当に尽くが裏目に出てしまう。全部が逆効果になってしまう。救助の手が、破滅の引き金になってしまう。ザクリザクリと、心が削られていくような絶望、自分を憎悪してしまいそうなほどの悪夢。
でも、彼はいったい何を後悔すればいいというのだろう。彼は、当たり前のことをしようとしただけなのに。ハッキリ言って、今回の彼の行動に悪い点は何も見当たらない。先走ったわけでも判断を誤ったわけでもない。ここがいけなかったのだ、と指摘するべき点が何も見当たらないのだ。
もちろん、判断が甘かったと糾弾は出来るかもしれない。思慮が浅かったと言われてもおかしくないかもしれない。でも、だったらどうすればよかったのか。あの場面で、彼らを、彼女らを助けようとしたとき、他に一体なにが出来たというのか。
彼を責めるのは、あまりにも残酷すぎる。
それでも、事実として彼は惨劇の引き金を立て続けに、かたっぱしから引き続けてしまった。後悔に身を震わせていた人を追い詰め、絶望の淵に居た人の梯子を落とし、本来死ぬ必要のなかった人まで死なせてしまった。助かるかもしれなかった人たちを死に追いやった。
図らずも、一連の件についてひたすら酷薄に、無情に、悪趣味に、突き放すような弄ぶような態度を取り続けていた繭墨あざかの対応こそが、最低でありながら最善の回答であり、必死に奔走する小田桐への忠告であったことが、すべてが終わってしまったあとに理解できてしまう。
彼女は残酷で、きっと悪趣味なのだろう。恐らく、事の真相を見ぬいては居なくても、小田桐の行動が何を引き起こすかについては、漠然とその結末を予期していたのではないだろうか。だが、彼女は積極的に彼を止めようとはしなかったのだから。それをして、彼女を責めるのは筋違いというものだろうけれど。彼女は小田桐への忠告を惜しまなかったし、遠まわしに制止もしている。明確な根拠が無い以上、その忠言は曖昧で気まぐれで非情で悪趣味にしか聞こえなかったとしても、だ。
それを振り払ったのは小田桐本人であり、彼の行動は彼の意志に帰属する。繭墨あざかは、小田桐に同情もしない、干渉もしない、彼の行動を妨げない。
それは、彼を一人の人間として尊重しているとも言えるし、甘やかさないとも言える。
それでも、彼女はきっと情が薄いなりに優しいのだ。彼女は彼を見捨てないし、冷たく突き放すようだけれど、慰めの言葉を掛けてくれる。
その優しさに、傷付いた心を癒してくれるような温もりまではないのだけれど。
その辺の甘やかしは、白雪さんにお任せ、だな。この人は本当に小田桐くんのこと、好きなんだなあ。今回ばかりはあまりにも小田桐くんは打ちのめされすぎているので、白雪さんが傍にいて優しくしてくれないと潰れてしまいそうだ。

1巻 2巻感想