サマーウォーズ  クライシス・オブ・OZ (角川スニーカー文庫)

【サマーウォーズ クライシス・オブ・OZ】 土屋つかさ/杉基イクラ 角川スニーカー文庫

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カズマは電子空間OZで、正体不明のデータを持つマキに出会う。なんの偶然か、マキの本体である真紀もネットカフェの隣席にいて、しかも怪しげな男に襲われていた――OZと現実世界で、2人の逃避行が始まる!
あの映画の舞台である夏休みの出来事の三ヶ月前。ゴールデンウィークの最中に起こったOZを見舞った崩壊の危機。カズマを主人公に描かれるオリジナルストーリーの前日譚。

いやあ、前日譚ということでてっきりカズマしかメインキャラが出ないものだと思い込んでて油断していた。まさにこれ、サマーウォーズの前哨戦だ。そしてこれ、人の縁というものだなあ。あの、最初はワンシーンにしか登場しないモブキャラクターとしか思ってなかったあのキャラクターの正体に気づいたときには、思わず喝采をあげてしまった。そういえば映画の冒頭でもアルバイトしてるって言ってたもんなあ。言われてみると、どころどころにしっかりと答えにたどり着くべき情報は示唆されてるんですよね。せめて宝石店の時点で気づいておくべきだったのに、察するのがかなり遅れてしまったのがちょっと悔しい。

というわけで、兄から怪しげなデータを預けられ、怪しい集団に付け狙われる高校三年生の真紀を、中学一年生のカズマ少年が手を引っ張り、名古屋から東京まで追いつ追われつの逃避行を繰り広げる、何気にけっこうなスケールのサスペンスアクションである。13歳のカズマと、18歳の真紀という、五歳の年齢差のある二人なんだけれど、カズマはあの通りクールで気概のある、背伸びするのではない決然と大人たらんとしようとしている子供なので、大人と子供のデコボコカップル、という風情じゃないんですよね。真紀も、カズマのことを子供扱いせず、年下ではあるけれど頼もしい男の子として頼ってるので、けっこういい雰囲気なんですよね。女性慣れしていないのもあるんだろうけれど、美人の女性からこんな風に頼られる事がなかったからか、終始どぎまぎしているカズマが可愛いのなんの。もう、すっごい意識しちゃってるんですよね。彼女の何気ない仕草や、身体の触れ合いに真っ赤になったり、照れたり、慌てたり。真紀の方も変にお姉さんぶらずに、カズマの反応を伺ってるところがあるんですよね。
なんか、思ってた以上にこの二人、いい雰囲気でしたよ。ニヤニヤがとまらんかったー(笑
いじめられっ子という境遇から脱するために、万助お爺さんに拳法を習い、強くなったカズマ。でも、キングカズマという世界チャンピオンになりながらも、独りで戦い続ける今の自分の強さに方向性を見失いつつあった彼に訪れた大きな転機が、ここだったわけだ。彼が真紀との逃避行の末に見つけた自分の強さを向ける方向、それがひいては映画【サマーウォーズ】の方で大いに発揮されるわけである。あの、強く「守りたい」と誓う彼の原点はここにあったわけだ。
そして、彼の弱さもここでは描かれている。勝負に負け、屈してしまったときに再び立ち上がって立ち向かう気概を取り戻せず、全部投げ出してしまいそうになる弱さ。
彼は真紀によって、自分の弱さを知り、それを克服するのですが、やはりそう簡単にはぬぐい去れないのが自分の弱さというもの。その一抹は映画の方でも一瞬露呈してしまうんですが、なるほどなあ、ケンジくんがあの場面で揺ぎ無くあきらめなかったことへの、カズマのあの畏敬めいた視線は、そこに起因するわけか。ケンジに、自分が目指すべき強さを見出したんだろうなあ、きっと。
まあ、カズマがケンジを尊敬することになるのは、この前日譚を読んでたら既定路線だったんだろうと分かるんだが。

サマーウォーズの前哨戦らしく、さすがに親戚一同総動員とは行かないものの、栄大おばあちゃんをはじめとして、何人かの親戚衆も勇躍登場。この人達は、親戚のためならまったく労苦を厭わんよなあ。果たして、真紀さんが栄おばあちゃんに何を言われたのかは謎だが。二人で話し込んでたあとの、真紀のカズマへの表情がまたなんとも意味深で。もしかして、ケンジくんが言われたみたいなこと言われたのか? なんか、満更でもなさそうだったし(笑
カズマが真紀を連れて上田の栄の屋敷に転がり込んだのって、ある意味これ、陣内一族の定例イベントである連れ合いの顔見せ、に当たるもんなあ(笑
このお屋敷での一連のシーンは、サマーウォーズらしくてよかったです。家族が集まり、一緒に御飯を食べる。一瞬ですけど、ここで真紀も家族の一員っぽい雰囲気になってるんですよね。
家族の絆が与えてくれたものが、最後の勝負の分水嶺になるというのも、実に素晴らしい。

にしても、自衛隊の理一おじさんの所属はほんと、どこなんだろう。謎すぎる(笑

そんでもって、この作品が実に土屋つかささんらしかったのが、お決まりの定番ネタであるボードゲームの話題がしっかりと仕込まれていたというところ。オリジナルとはいえ、ノベライズでもボードゲーム持ってくるかーー(笑
しかも、かなり話の中で重要な役どころを担っているしww ボードゲームネタが出てきた途端、ああ土屋作品読んでるなー、という実感が湧いてきましたよ。
それでいて、しっかりと【サマーウォーズ】の世界観が雄大に広がっていて、うん、これは素晴らしいスピンオフ作品でした。