羽月莉音の帝国 2 (ガガガ文庫)

【羽月莉音の帝国 2】 至道流星/二ノ膳 ガガガ文庫

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これはちょっと驚いた。随分とダーティーなところに手を伸ばすじゃないか。
沙織の父親が経営する広告代理店が、暴力団の関連会社に計画的な支払い不履行を仕掛けられ、資金繰りが悪化、倒産の危機を迎えてしまう。
沙織を救うために莉音を先頭に革命部は相手の暴力団と全面対決に入っていくのだけれど、ここで悪の組織をグゥの音も出せないほどこてんぱんにやっつけるのが普通の痛快娯楽小説の展開なのだけれど、驚いたことにここで革命部は幾つかの攻防のあとに、相手の暴力団、東丈会と手打ちしてしまうんですよね。
特に、この場面で巳継が組長に切る啖呵が印象的なんです。
「最近まで深く考えず生きてきました。世界には、何かとほうもない価値があるものと思っていた。世界は、正しいものだと思っていた」
「ぜんぶ違う。あなた方は間違っていない」
「たしかに、あなた方は方に反することもしている。沙織をさらったことも許さない。やってることも、言ってることもメチャクチャだ。それでも、あなた方は間違っていない」
「だからこそ、あなた方が俺に落とし前をつけるように、いずれ俺もあなた方に落とし前を要求する。覚悟をしておくことだ。俺の腕一本は高くつく」
ここで彼が言っていることは、東丈会が悪だから、間違っているから戦う、倒す、更正させるというんじゃないんですよね。むしろ、相手の土俵に立ち、この世界のルールが相手の側にあることを肯定した上で、自分たちと敵対するならいずれそのルールに則って落とし前をつけてやる、と言ってるんですよ。
そして、ここで組長が引き下がったのは、自分たちのやり方が間違ったのを認めたからではなく、革命部と人脈を繋げることでここで彼らと敵対関係になるよりもより大きな利潤を得られる可能性を見たから。つまり、革命部の将来性に投資してきたわけです。
この後、莉音は巳継が成立させてきた東丈会とのビジネスにおける協力関係を、一切ためらわずに次のビジネスに利用していくのです。これは、昨今賑わせている相撲界の野球賭博など問題にならないくらい真っ黒な関係。実際、アクアスとの買収合戦ではかなりの金額が東丈会に流れているはずですし。
東丈会との抗争より前の、アメリカ旅行の話における、元国連職員の武器商人ジリヤとの交流を含めて、莉音率いる革命部はビジネスのダーティーな部分、清濁の濁の部分を果敢に飲み込んでいくわけです。
いや、なるほどなあ。と、今さらのようになんでこれが、若者たちが会社を立ち上げ、それを大きくしていく話ではなく、敢えて莉音が革命を標榜し、現存の国家の枠を超えた超国家を打ち立てる、なんて理想を掲げているのか、ようやく理解できた。
そうなのか。今まで革命部って、莉音の言う革命を標榜しながら、やっていることは資金集めの企業と会社経営。結局のところ、若い連中が閉塞し停滞しつつある日本の経済界に打って出て、快刀乱麻を断つように大暴れしてスカッと鬱積を晴らすエンターテイメント作品なんだと勝手に思っていたんだけれど……。
これ、本気で革命を打ち立てる話だったんだ。綺麗事や偽善などを抜きにして、酸いも甘いも噛み分けて、清濁併せ呑み、すべてを理想の世界を実現させるために捧げる、世界を革命しようという少女と、彼女に引き連れられた幼なじみたちの物語。
若き少年少女が新しい視点をもって斬新な経営で経済界に新風を吹き込む話とは、まったく筋違いだったんだな。
実際、莉音や巳継たちの経営者としての能力は決して突出したものではないのは、彼らの「おりおんクローズ」が宣伝工作やマーケティングの見通しの甘さなどによって、動き出した途端に行き詰ってしまった事からも伺える。
この後、立花社長率いるアクアスとの激烈な攻防の中で、巳継をはじめとする革命部の面々は傑出した働きを見せ始め、その若き才を開花させていくのですが、果たしてそれが正当な意味での経営能力なのかというと、判断が難しいんですよね。何を以て経営能力というのか、その定義も場面によって変わってくるだろうから、何とも言えないのですが。
というか、わからん! これも経営、あれも経営。小さく括るのは無意味かな。
それでも、真っ当な意味で会社の規模を大きくし、利益をあげていく、そして会社組織を維持していく能力に関しては、やっぱり疑問符がつくんですよね。
後々の展開を見る限り、巳継たち当人もその辺はちゃんと客観的に理解しているみたいでしたけど。

なんにせよ、後半の立花社長との熾烈な攻防が繰り広げられるアクアス買収戦は見所たっぷり。というか、相手の立花社長がやり手な上に人物的にもスマートすぎて、ケンカを売る相手としちゃヤバすぎるww
決着がつかない、というかかなり追い込まれたところで次巻に続く!!

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