ガンパレード・マーチ 逆襲の刻―極東終戦 (電撃文庫)

【ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 極東終戦】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫

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末期戦も末期戦。超ウルトラ末期戦の様相を呈する最終決戦。とんでもないよな、これは。本当に予備兵力も何も無い、日本中の出し得る戦力を根こそぎ投入してあとはスッカラカンという、マジで後のない総力戦中の総力戦。近現代の戦争において、ここまでカツカツの戦闘ってのは考えられないよ。敗戦時の日本やドイツですら、戦場に投入できる位置、練度があったかは別にしてまだ戦う力を残した戦力というのはあったはず。
本来ならば、ここまで戦力が枯渇した状況というのは負け戦一直線なのだが、今回に関しては東北は青森方面に限定された局地戦である上に、相手の幻獣勢力もほぼ攻勢限界に達した状態。
事此処に至ると、あとはノーガードの打ち合いでどちらが先に心折れるか、という瀬戸際の綱渡りなんですよね。
これまでも九州撤退戦や山口攻防戦、南王討伐戦と極限状態の凄まじい末期戦は続いていたのだけれど、それもここで極まりに極まったって感じだよなあ。
精神的に大きく成長し、神経をすり減らし人間性を削り取られていく戦場の中で、見違えるような心のタフネスさを手に入れていた5121部隊の連中ですら、精神的に追い詰められ、絶望に心折れそうになり、壊れかけていた、という姿を見るだけでも、この最終決戦がどれほど凄惨で絶望的なシロモノだったかが伺える。絶望的といえば南王討伐戦も極まってたけれど、あれに勝る過酷な戦場があるとは思わなかったよ。
それでも耐え抜けたのは、ここを凌ぎ切れれば戦争が終わる、人類が生き残れるという確かな希望があったから。淡く正体がはっきりしないうっすらとした希望しかつなげなかった今までと違って、今回はシベリアの和平派幻獣王との平和条約の締結があり、中央を蝕んでいた戦争継続を願う軍需産業閥の粛清が行われ、本当の意味で平和が訪れる下地が築かれ、未来への展望が開かれていたのである。勝っても負けてもここが本当の終わり。どちらにしても次はない、という状況。破滅か、未来か。
人であることを捨てて獣に成り果てたが故に、本能に身をゆだねるばかりだった幻獣と、人であるからこそ先を見据える意志を持っていた人間と、幻獣となりながらも人であることを捨てず、人間とともに未来に手を携える決意を固めた者たちとでは、次へと進もうという意志の力の違いがあり、心の強さが天秤を人の側に傾けたのだろう。
最後、何か決定的な、見た目にも分かる派手な攻撃や破壊、勝利があったわけでもないのに、ある一線を超えた途端、幻獣軍の攻勢が止まり、雪崩をうつように潰走が始まったという描写は、特定の誰かの強さで得た勝利ではなく、人類全体の勝利を強く印象づける展開で、派手ではないどころか静かで拍子抜けすらしてしまいそうな唐突な勝利だったけれども、これしかなかったと思わせられる展開でした。
その上で、シベリア王やカーミラたちとの和平や共存を続けていく上で、彼らが幻獣という全く異種の存在ではなく、ちゃんと意思疎通が出来、心で交流できる、違う種族であっても同じ人なのだ、という認識を強く人間側が抱けるようになったのは、本当の意味で平和が紡がれる安心感があって、非常に良かった。同じ人として付き合うのだという意識が在る限り、少なくとも、バカバカしい理由で彼らと道を違える顛末は危惧しなくてよくなったはず。

と、世界情勢の方は見事に片がついたものの、個々のキャラクターに関しては手が回らなかったって感じだなあ。元5121小隊の面々はこのまま大原首相直属の特殊部隊ということで、民間には戻れないようだけれど、これは仕方ないのかなあ。彼らはあまりにも特別になりすぎたし、血に慣れすぎてしまった。滝川なんかは案外、大丈夫そうだけど……いや、普通にみえるからこそ逆にちょっと心配か。
オリキャラたちの今後については、もう少し何らかの情報が欲しかったなあ。まだ先行きとか見てみたい人たち、いっぱいいたし。佐藤ちゃんとかねえ。出来れば、後日談でも短編集でもなんでも、もう一冊は出して欲しいよなあ。ちょっと欲求不満だよ。
まあ、はたしてこれで本当に榊版ガンパレが完結か、というところから疑いたいところですが。願望に近いものですけどね。黒い月はまだ健在だし、世界各地にはまだ人間を殺し尽くそうとする幻獣の派閥がはびこっているし、幻獣共生派の勢力圏も広い。なにより、行方不明の幻獣たちの元の世界の王という不安要素もあるわけですし。
でも、もう日本が戦争を続行できるような力はないですし、国外に派兵するような余力なんてもっと無いわけで、やっぱり無理なんかなあ。
それでも、一抹の期待を込めつつ……せめて短編集だけでも〜。

シリーズ感想