ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編

【ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり 2.炎龍編】 柳内たくみ アルファポリス

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20XX年。東京銀座に突如現れた「異世界への門」。
門の向こう側『特地』には、手付かずの潤沢な資源、
そして、栄華を極める巨大帝国の存在があった。

銀座で無差別殺戮を引き起こした帝国側に対し、
自衛隊の圧倒的な軍事力を後ろ盾に賠償交渉に
乗り出した日本政府。そんな日本の動きを警戒しつつ、
『特地』の利権確保を目論む米・中・露諸外国。
『門』内外でそれぞれの思惑が複雑に交錯し始める。

その一方で、オタク自衛官伊丹耀司ら特地偵察部隊
が拠点とする『門』周辺のアルヌスの丘は、両世
界の人々を結ぶ交流の場として栄え、その絆は次第
に深まりつつあった。

そんなある日、伊丹は、巨大炎龍に父親を殺された
エルフのテュカがその後遺症により精神の錯乱に陥
っていることを知る。その痛ましい姿を前に、伊丹は
自らの責務を放棄し、テュカを救うべく炎龍撃退に
立ち上がる。そして命がけの壮絶な激闘が始まった――

超スケールのエンタメファンタジー!
待望のシリーズ第二章、開幕!

活火山の火口でのドラゴンとの激闘って、もろに【ロードス島戦記】のVSシューティングスター戦がモチーフじゃないか(笑
まあこの手のパロディは随所にあって、それの元ネタを穿つのもまた楽しいわけです。一巻の伊丹さんの国会証人喚問だって【征途】の司馬遼太郎にならなかった福田陸将補の証人喚問が元ネタっぽいし。
主に異世界の帝国との和平交渉に向けた折衝が主軸となって進むために、今回は殆ど特地が舞台。意外と搦め手を使ってくるんだな、日本政府。正式の外交交渉を行なおうにも、現状帝国と日本は戦争状態。表立って交渉を行うわけには行かない上に、帝国の貴族たちは敵である日本やコチラの世界については何も知らない状態。よくまあ、そんな状態で攻めこんできたもんだよなあ。この異世界において超大国として力による支配を推し進めてきた傲慢、自分たちが本気を出せば言うことを聞かない奴らなんていない、という驕慢が現状認識を妨げている状態。最初は皇女のピニャだってそうだったもんな。それが、実際に自衛隊と接触し、その想像を絶する実力を目の当たりに、実際に現代日本を訪れて文明レベルの差を目の当たりにしたことで、力の差を身にしみて実感したが故に、彼女は仲介役として講話に向けて奔走し始める事になったわけだ。勿論、この正確な認識を得て正しい危機感を持ち、自分のやるべきことを見出すには、ピニャに相応の資質があったからなんだけれど、ある程度の政治センスがあるなら、彼女が体感した情報に近いものを与えれば、彼女に近い認識は抱いてくれるはずなんですよね。
そこで、正式な交渉チャンネルを繋げる前に、日本側は特殊部隊員と外交官を送り込み、帝国の主戦派に接触し、海千山千の交渉術を持って敵を取り込んでいくのです。
いや、この派遣外交官の菅原さんが、メチャクチャ遣り手なんですよね。脅しすかし飴と鞭を取っかえ引っかえ、笑顔の裏に悪魔の舌なめずりを隠したり見せつけたり、右手で握手、左手にナイフをちらつかせたり。もう、やるわやるわ。いっそ痛快ですらある。
エリート外務官僚らしく、野心剥き出しで冷徹な素振りを前面に貼りつけているんですが、根っこは無茶苦茶熱い人だったりするんですよね。
下交渉戦の言わばクライマックス、山場中の山場という場面で、とある事実が発覚した途端に、伊丹と一緒になって怒り狂い、今までの交渉をぶち壊しテーブルひっくり返してしまったシーンは、あっけに取られたけど、もうメチャクチャスカッとした。ここで菅原さん、好感度マックスですよ(笑
外交というと、外務大臣の嘉納先生も諸外国相手に一歩も引かぬ、どころか大上段からバッサリと切り捨てる超攻撃的交渉がまた痛快だった。勿論、G8外相会議が始まる前に、既にアメリカが現状分析の結果日本の味方に回ることが決まってて、EU諸国もこれに追随することが予想できたから、だったんでしょうけど。さすがに、世界から孤立する形で突っ張るのは得策じゃないもんね。どうも日本は迎合しへりくだりまくるか、逆に片っ端から敵にまわすか、という極端から極端に走る外交ばっかりが目立つので、自分たちの国益を譲らず高らかに主張しつつ、ちゃんと利益を回して味方も作る、という強かなやり口は見てて気持ちイイんですよね、うん。

帝国内部では、皇族同士の権力争いや諸外国との軋轢など、日本という凄まじく強烈な新勢力が誕生したことで、劇的に混乱が広がりつつあるわけだけど……自衛隊が駐屯地を作り、それを取り巻く形で人が集まり、商売が生まれ、街が形成されつつあるアルヌスがある限りは、日本が撤退して終わり、という展開だけはなさそうだ。もう、ここまで街がでかくなって経済圏が確立されてしまうと、異世界側の経済と日本は引き剥がせないものになってしまっているはずだし。
今回の一連の交渉話の中で一番インパクトがあったのは、日本側が要求した賠償金の話なんですよね。技術格差や文明レベルの差という観点以上に、帝国と日本に横たわっている力の差、というのはこの経済力、国力の差なんですよね。そりゃ、日本の一年分の一般会計予算が、帝国中の金や貴金属をかき集めても全然足りない規模、となっちゃあねえ。十倍や百倍どころじゃないでしょう、この差。どう盤をひっくり返しても、そりゃあどうにもならんわ。主戦派貴族たちの心が折れたのって、兵器の威力云々よりももしかしたら、この国力差を聞いた瞬間なんじゃないだろうか。なまじ、自分たちが特地での他国の追随を許さない国力を誇る超大国であるが故に。
考えてみると、古代中世から現代への変遷の中で、経済システムの進化こそが人類発展の要になるんだろうなあ。

一方で、一巻にて伊丹たちがテュカたちと知り合うきっかけとなった、炎龍が手負いのまま暴れまわり、襲われたダークエルフの集落から一人の女性が、炎龍を撃退したという緑の人と呼ばれる者を探して、アルヌスへと現れる。それをきかっけに、小康状態だったテュカの、父親を炎龍に殺された精神外傷が一気に悪化してしまう。
テュカの心の傷に関しては、これまでも伊丹って恐ろしく慎重かつ繊細に扱ってたんですよね。彼の性格からすると意外なくらい過敏になりながら。テュカの心の傷に触れようとする部下たちへの態度も、普段と比べて非常に厳しいものだったし。違和感というほどのものは感じてなかったけれど、珍しいなあとは思ってたんですよね。それが、伊丹にあんな過去があったとは。ただただお気楽に人生過ごしてきたがゆえに、あんな怠けた人間になったわけじゃなかったのか。
伊丹にしてはちょっとキツすぎる過去じゃない?
壊れていくテュカを、過去の後悔や彼女への友愛ゆえに見捨てられない伊丹につけ込む柳田のやり方って、嫌らしいんだけれど、同時に全部を投げ捨て道なき道を往かなければならなかった伊丹に、通れる道と帰る手段を与える救済でもあったんですよね。テュカの症状がまだ致命的ではない段階から誘ってきてるあたり、嫌らしいんですけどね(苦笑
でも、柳田って性格悪いし陰険だし野心家で他人を利用する事を躊躇わない嫌なやつだけれど、嘘をついて騙したり、他人を蹴落として自分だけいい目を見る、とかそういう卑劣な真似は意外としてないんですよね。選択肢を奪って自分の思うとおりに動かそうとするけれど、同時に相手の利益になったり、相手が求めているものを得られるような配慮もしているわけで、ほんと意外なんだけど柳田さんの仕掛けって、貧乏くじではあっても誰の損にもなってないんですよ。
最初出てきた時は、生真面目で規律正しく融通きかなくて、不まじめな伊丹の天敵みたいな奴だな、と思ったし、実際伊丹の事を嫌っていることを隠そうともしないどころか、公言しているわけだけど、生真面目どころか自分のために融通きかせまくる悪人だわ、嫌っているというわりに伊丹に何だかんだと絡んでくるし、なーんか憎めないんですよね。特に、伊丹に対して取り乱したように、本音をぶつけてきたシーンなんか観てしまうと。
自分の利益のために手段を選ばないと言いつつ、自衛官の本分は絶対に忘れないし、ある意味伊丹なみかそれ以上に酷い目にもあってるのがなんとも愛嬌になってて。私、柳田さんのこと、好きですよー(笑

そして、炎龍との決戦は、まさかの火口内で、LAMこと110ミリ個人携帯対戦車弾を担いだダークエルフたちを引き連れての超接近戦。ダークエルフにLAMって、またなんという絵面! しかし、如何な屈強な戦士とはいえ、訓練を受けたわけじゃない素人さんに近代兵器を自由自在に扱え、ってのはやっぱり難しい話なんだなあ。使えてないわけじゃないんだけれど、使用法を教えてもらっただけのリハ無しの一発勝負だと、武器の特性も何にも身についてないもんだから、炎龍の凄まじさい迫力に、一気にしっちゃかめっちゃかの大乱戦に陥ってしまう。
……いや、最初にこれ【ロードス島戦記】のVSシューティングスター戦が元ネタじゃね、と書いたけれど、普通に考えてよくぞまあこんなバケモン、剣と魔法で倒せたよなあ。あり得んよ。
まあ、シューティングスターよりもこっちの炎龍の方が装甲厚いっぽいんだけど。鱗の硬さがタングステン並みの硬度で、軽さは七分の一って、再現できたら合金革命だぞこれ。

んでもって、ロゥリィ、伊丹のこと好きすぎだろう、これ。ベタぼれじゃないか(笑
意外と献身的だし、普段から息合ってるし、伊丹もかなりグラグラ来てるっぽいし。レレイやテュカが娘的ポディションから抜けれてない以上、これはロゥリィがメインヒロインっぽいなあ。本命だなあ。これで、容姿が12、3歳前後という反則レベルじゃなかったら、何も問題はなかったんだけれど(苦笑 でも、あの色香や妖艶さは明らかに大人だし、いいじゃんいいじゃん。ちょっとアブないヤンデレ系人外ロリで(笑

1巻感想