偽りのドラグーン〈4〉 (電撃文庫)

【偽りのドラグーン 4】 三上延/椎名優 電撃文庫

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アダマス君の凋落劇がついに行き着くところまで行ってしまった。ジャンへの敵愾心は異常な被害妄想にまで至ってしまい、その態度は周りの人たちからも眉をひそめられ、敬遠されることに。
これまでは、他の生徒達には真面目で公平で有能な生徒会長という姿を崩さず狡猾に立ち回っていたのに、自分の卑小さを繕う余裕すらなくなってしまった。
その小物っぷりは滑稽なほどで、とうとう側近であるギルにすら見限られてしまう。
ジャンが先のゲームを通じて自然とリーダーシップを発揮できるようになり、皆の期待や指示が彼へと集まりだしたのも、アダマスの焦りに拍車を掛ける。
この巻のアダマスの行動たるや、とにかくジャンを落とし入れようと目先の事に囚われて、何をするにも支離滅裂。本当にひどいものだった。勝手にから回ってばっかりだし。
悲しいことに、肝心のジャンやクリスからは相手にもされない始末。
ところが、やること為すこと上手くいかないし、カラ回ってばかりだし、ジャンたちを憎むあまり危地にあってもジャンたちに拘ってばかり、というひどい有様にも関わらず、アダマスというキャラクターの作品内における立場は、妙なところで一番底には落ちてしまわず、ギリギリのところで引っかかってとどまるんですよね。これが、意外であり興味深かった。たまたま偶然、アダマス本人の企図しないところで孤児の子供を助けてしまったことで孤児の女児の一人に慕われ、付き纏われる羽目になるのです。
帝国の支配圏に落ちてしまった地域を孤児の子たちを連れて敵中突破するという緊張感極まる状況の中、お世辞にもその女児をアダマスが気にかけているというほどちゃんと相手をしていたわけではないのですが、状況も弁えずにジャンたちに執着した言動を取り続けながらも、ところどころで子供たちのことを無視しきれていない態度をとってしまってるんですよね。
精神に異常をきたしたのかと思えるほど切羽詰まり、周りの状況が目に入らないほどジャンたちに敵意を募らせるという状態で、本来ならジャンたちしか眼中に無いはずが所々でもそんな子供たちを無視していない態度を取られると、あれ? アダマスってもしかして本来はイイ人? と思えてくるマジック(笑
なんか、好感度が底を打ったところでちょっとだけ反動で弾んであがった、みたいな?
非の打ち所のない、ライバルに成り損ねた獅子身中の虫的三流小物キャラの道を驀進しながら、徐々に変な立ち位置を確立しつつあるなあ、アダマスくん。

まあ、アダマスの凋落に反比例して、ジャンたちが成長しているかというと、順調に成長しているように見えてなんだか怪しくなってきたぞ(苦笑
ジャンが自然と周りを気にしてフォローし、指示を出せるほどの余裕と経験を得て、一回り成長したのは間違いないんだけれど、自責を放り出してクリスとともに戦線離脱してしまうのは、ちょっと自分の今の立場を考えてなさすぎたよなあ。本来はアダマスが部隊の隊長とはいえ、実質ジャンが部隊の要であり、所詮学生にすぎない派遣部隊がまともに動くのに自分がどれだけ大きな要素を担っているかの自覚が足りなかったといえる。最近まで味噌っかす扱いされてたのを思えば、自分の価値を低く見積もってても仕方ないんですけどね。
にしても、作中でも言及されてたけどジャンとクリスが抜けたら、残された連中動きようがないし部隊としても完全に機能停止してしまうだろうことを思えば、軍令で厳しく処分されても仕方ないなあ、これは。
兵士に個人的な理由でポンポン離脱されたら、組織も何も成り立たないし。

ティアナはティアナで、てっきりジャンの兄貴のヴィクトールの正体を秘密にしていたのは、ジャンを気遣ってじゃなくて、完全に自分の都合、この情報を知ったらジャンが自分から離れてどこかに行ってしまうのではないかという恐れから黙ってた、というんだからもう開いた口が塞がらない。このドラゴン娘、相変わらずダメすぎるw
ここまで自分の都合優先だと、いっそ清々しくなってくるなあ。開き直られたらさすがに嫌悪感も募るけれど、黙ってる事に自分でダメージくらいまくってるし。そこまで自己嫌悪で落ち込むなら最初からやらなきゃいいのに、と思ってしまうけれど、こればっかりは人間の根っこの部分に根ざす性質になってしまうのか。
でも、せっかくあそこまで信頼しきってくれていたジャンに対して、これが裏切り行為だったのは間違いなく……ジャンが怒るのも無理ないよ、これは。真実を知った衝撃とダメージが大きすぎたのか、ジャンがティアナに対して怒りながらも、怒りよりもそれどころじゃない喪失感に、まともでいるのも覚束ない様子になってしまっているのが何とも切ない。
本人にとって、兄貴を殺した相手に復讐することだけが拠り所だったのに、その兄貴に裏切られていたんだからなあ。自分が何をやっていたのか、これから何をしたらいいのか何もわからなくなるのも仕方ないか。
同時に、ついに学長に正体を暴かれるハメになるわ。あの学長、この大変なときに何をまだ細かいことに執着してるんだ? ジャンの正体なんてぶっちゃけどうでもよさそうなものなのに。
学生の派兵といい、この人、ほんと有能に見せかけて無能に見えるんだがなあ。

ただ、正体が暴かれたとしても、既に天才ヴィクトールとしてではなく、一旦どん底に落とされたあと、自分の力だけではいあがってきたジャンに対して、既にクリスを始めとしてヴィクトールの名声ではなく、学校で直接接し、その人柄、能力、結果を見てきたが故に、他の誰でもない、ジャン個人を支持し応援する人たちが少なくない数になってきている以上、正体を暴かれることはもしかしたら危機ではないのかもしれないなあ。
正体を詐称したとはいえ、ヴィクトールとは双子の兄弟で、王族の身分を偽ったわけじゃないし。

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