“文学少女”見習いの、卒業。 (ファミ通文庫)

【“文学少女”見習いの、卒業。】 野村美月/竹岡美穂 ファミ通文庫

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日坂菜乃、全く以て大した女だった。麻貴先輩は、彼女は将来「度量の広い、魅力的で思いやりのある、最高の女」になる、と太鼓判を押しているけれど、何のことはない、今この時点で菜乃は充分、最高の女だった。
世界を閉ざしていた心葉を、新たな世界に導いたのは確かに遠子先輩だったかもしれない。でも、新しく生きることになったその世界で、心葉に生きていく力を与えたのは、他の誰でもない菜乃だった。
ずっと立ち上がることが出来なかった心葉は、遠子に導かれて確かに立ち上がる事が出来たかもしれない。でも、彼に一人で立ち続ける芯となるものを、立ち上がったその先、前へと歩き出す活力と自信を与えてくれたのは、一人の元気な後輩だったのだ。
彼女は、淋しさを癒してくれる娘だった。生きる力を与えてくれる娘だった。自分を信じる事を許してくれる娘だった。
多かれ少なかれ、この物語に登場する人物たちは、誰かを救うためでも自分が救われるためであろうとも、誰かを傷つけ、自分を傷つける事を避けられない人種ばかりだった。
何らかの形で自らを哀れむことに夢中になってばかりの人たちだった。
そんな中で、彼女だけは誰も傷つけず、自らも傷つけず、自分も他人も優しく包みこむ。自らを哀れまず、ただただ前へと突き進んでいく。しかし、他人を本当に傷つける領域までは決して土足で踏み込まない。ちゃんと靴を脱ぐ。靴下も脱ぐ。裸足で飛び乗ってくる、そんな感じで。
猪突に前に進むようで、優しく寄り添い見守る存在だった。

稀有である。

彼女によって、今の自分を信じる事が出来るようになったのは、心葉だけではない。心葉への恋心の向け方を見失い、小さく縮こまっていたななせに、自分の恋の素晴らしさを信じさせ笑顔と元気を取り戻させたのは、菜乃だった。菜乃の親友である瞳に、途方も無い人生の選択を選ぶ背を押したのも、菜乃だった。
こんな彼女が、今この時点で最高の女でないと、誰が言えるだろう。
文学少女シリーズが一旦完結したあとでも、ななせがあれほど前向きに笑えるようになるなんて思わなかったもんなあ。

一連のシリーズは、先述したように他者を傷つけずにはいれない、自分を憐れむに夢中の人々たちが織り成す話のお陰で、感動の中にも痛みと苦しさを感じずにはいられない作品だったが、この後日譚である【見習い】シリーズは、菜乃がいるお陰で随分と痛みから解放された、読後感の心地良い物語だったように思う。
この巻からして、冒頭、瞳と心葉がキスしているかのようなシーンにばったりと行き会った時の菜乃が、衝撃を受けてその場から逃げ出すのではなく、咄嗟に反射的に、二人の方に叫びながら<突進>していった時点で、ああこの娘には敵わんなあ、と納得したものである。

まだこのシリーズ、挿話集4に続いて「半熟作家と“文学少女”な編集者」なるものが用意されているらしい。文学少女の物語はまだまだ続くわけだ。
しかし、半熟作家と“文学少女”な編集者って、そのまま心葉と遠子先輩の話と捉えるのは危険だよなあ。大体、百万部なんて現代じゃ夢物語な部数を売り上げる作家が半熟なわけないじゃないかw

シリーズ感想