暴走少女と妄想少年 (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫 き)

【暴走少女と妄想少年】 木野裕喜/コバシコ このライトノベルがすごい!文庫

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春。高校の入学式を迎えた沖田善一は、門の上から飛び降りてきた少女にいきなり鎖骨を折られてしまう。少女の名前は明華武瑠。才色兼備だが性格に激しく難アリの暴走少女。彼女の友達に(無理やり)なったことで、善一は彼女のさらなる友達作りの手伝いをさせられることに……。「まあでも、手伝ってるうちにあんなことやこんなことになったりして。うへへ」「……キショいぞ善一」暴走少女と妄想少年が贈る、青春ラブコメディ!

この娘、性格に難有りとか傍若無人どころじゃないなあ、と善一のみならずクラスメイト、教師などなど、身内である姉以外に対して全方位に暴虐に振舞う姿に首を傾げていたのですが、中盤くらいか、武瑠の反応パターンがある程度見えてきたところで大体わかってきた。
この娘、性格に難があるんじゃなくって、単純に精神が幼い子供なんだ。
それも、身内と認めた相手以外、寄せ付けまいと頑なになっている子供。だから、社会のルールなんてまるで見向きもしないし、無造作に手を伸ばしてくる相手は突っぱねる。気に入らないことがあれば、相手の立場など考慮もせずに牙を剥く。
その代わり、好きなものを餌にされると簡単に餌付けされて機嫌を直すし、一旦身内と受け入れれば無防備に接してくる。
彼女は、ものすごく単純なルールの中で生きてるんですよね。ただ、それが許容されるのは幼稚園や小学校低学年までで、それ以上は年を経るごとに社会秩序というものが行動や考え方に制約をかしてくるもの。彼女はその圧倒的な身体能力と学力によって、秩序からの逸脱をカバーしてきたのだけれど、それも高校生になって限界を迎えていたわけです。
恐らく、彼女の保護者である姉は、自分が妹の育て方に失敗したのをちゃんと理解していたんでしょうね。社会性とコミュニケーション能力が皆無に近く、同時にそれを全く問題視していないという有り様では、早晩武瑠は社会からドロップアウトしてしまい、人間のコミュニティーの中では生きられなくなってしまう、と。
とは言え、どこまで危機感があったのかは知れたものではありませんが。彼女が高校に進学するにあたり、とにかく友達を一人つくりなさい、と厳命したのは危機意識の現れとも思えるし、武瑠の現状を思うと何を悠長な、と思わないでもないし。
まあ、その結果、武瑠の友達作りという名目のマンハントに引っかかってしまったのが、善一くんだったわけです。
さて、この出会いが誰にとっての幸いだったのか。
ただ、人並み以上の下心と諦めの悪さと、甲斐甲斐しいまでの面倒見の良さと男らしい誠実さを持ったこの男は、加減を知らない幼児のような、動物のようなこの少女に対して、懲りることなく付き合い続けるわけです。
それは、ワンパクすぎる保育園児を笑顔で世話する保父さんのようでもあり、躾がなってない愛犬に振り回されながら、必死に手綱を離すまいとしている飼い主のようでもあり、ちっとも振り向いてくれず、そっけなくあしらう女の子に、デレデレとつきまとうエムっ気のありそうな男の子のようでもあり。
そう、この面倒見の良さの原動力が下心、というあたりが善一くんに嫌味がないところなんですよね。それでいて、肝心の時には淑女に接する紳士のように誠実に献身的に振る舞える。だいぶ冴えない男の子なんですが、それでもなかなか好感度の高い主人公だったような気がします。気のせいと思いたくなるところもありましたが。ヒロインの武瑠も、その本質が単なるお子様、と分かるとその暴虐っぷりもあんまり気にならなくなりました。むしろ、行動パターンや考え方が単純明快で理解しやすい分、可愛く思えてきたなんてところも。実際に、身近に居られるのは勘弁して欲しいですけど。
それに、幼子の時点で停止してた彼女の精神年齢は、姉しか存在しなかった彼女のパーソナルスペースの中に、善一という異分子が紛れ込み、さらに彼を通じて「友達」という存在が生まれることで、初めて成長が始まるのです。
自分本位の子供に過ぎなかった武瑠が、ラスト直前あたりで確かに「女の子」としての反応を見せ、そんな自分に戸惑っている様子が描かれているところなど、なかなかくるものがありましたよ。

タイトルにある、妄想少年という語句はいささか過大だった感は否めない。確かに善一には妄想癖があり、時々妄想にトリップしてあっちの世界にイッちゃうのですけど……それで充分妄想少年なんですけど、妄想の内容が、というか妄想の原動力となる善一の妄念や願望が、甘いというか易いというか何十年前のラブコメだよ、というか。妄想というにはいささか粘度や深度が足りなかった。そんな軽い上に現実の武瑠からはありえない、夢想に等しい妄想でトリップしてしまうなんて、お易いとしか言えないぞ。まだ伊波さんの方が妄想家として一段高い位置にいるんじゃないだろうか。
仮にも妄想少年と標榜するからには、世の妄想家諸氏のごとく、その妄想が表沙汰になったら社会的に死ぬ! 死んでしまう! むしろ殺して!! くらいの妄想を常に胸に熱く滾らせていないと、看板倒れになってしまいますぞ。
って、変なところで力説してしまったw