ファンダ・メンダ・マウス (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫 お)

【ファンダ・メンダ・マウス】 大間九郎/ヤスダスズヒト このライトノベルがすごい!文庫

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おれはマウス。しみったれた倉庫でくそったれな監視システム相手に終日ダラ〜っとすごす。家に帰ればネーネがべったり張りつく、そんな毎日。でも、おれは今の自分にかなり満足。人生がこれ以上でもこれ以下でも今いる自分になれないのならそんな物は願い下げだと、心の底から思っている。いい女はべらして万ケンシャンパンドンペリジャンジヤンBMベンツにPMゲッツーみたいなことがおれの今の生活に少しも必要だとは思わない――のに! 唐突にあらわれたオカッパジャリのマコチンが「嫁に!」とか言い出してから怒濤の急展開。どーいうことよ、コレ?

冒頭20ページぐらいまでの文章のメチャクチャさは、幾ら何でもこれは無いだろうというレベルで、あっけに取られた。なにしろ、何が起こっているのか何が書いてあるのかさっぱり分からないし、書いてる方もさっぱり説明する気がないのだからして。
ところが、20ページ前後を超えた当たりから、5W1Hがとりあえず判読できるレベルになってくるのだが、そこから一気に首根っこをひっつかまれて地面に押し付けられて、引き釣り回されるはめになる。
おら読め、よりあえず読め、別に理解しなくてもいいから読め、なんとなくで読め、いいから読め、読め読め読め。読まないんだったら失せろ、あっちいけ、しっしっ。蹴っ飛ばすぞこら。とでも言わんばかりの、凄まじさ。
とりあえず、ごめんなさいと言いたくなったぞ、おい(笑
いやまいった、今まで結構な数の本を読んだつもりだけれど、ここまで無理やりというか強制的にというか上から目線というか、顔面に見開き押し付けられてオラオラとこすりつけられるような勢いで読まそうとしてくる本を読んだのは初めてだ(笑
聞けばこの人、これまで小説どころか文章すらまともに書いたことのないズブの素人なのだという。そんな人の書いた最初の、初めての、原点にして源泉にして根源となる作品がこれだというわけだ。
そりゃあ、物議も醸すわ。
ただまあ、これを無視できないってのもよくわかる。上述したように、読ませる強迫観がなんかおかしいんだ。異常である。異端なくらいに異常である。これで、冒頭のような文章のままだったら、さすがに苦痛でしかないのだが、無茶苦茶なりにちゃんと物語として読める文章になっていくので、思わずしがみついてしまうことになる。
ヤバい、なんか楽しい。面白いか、というと実際のところ話としては特段筋立てになにか感じるものがあるわけじゃないし、キャラも変ではあっても個性的というものでもない、感銘や感動を湧き立たせるようなドラマティックな展開があるわけでもない。
ただ、この経験したことのない無茶苦茶さが、どこへすっ飛んでいくかわからない危うさが、予想を許してくれないとんでもなさが、ドーパミンを分泌させるかのようだった。
スリルが、楽しかった。

でも、このままだとただの刺激物だ。

喉元過ぎればなんとやら。初めての経験は興奮を呼び起こすものだけれど、その興奮が本当に初めてだから、という理由だけだったならば、以降では二度と同じレベル以上の興奮を呼び起こせない。それは単に、物珍しさによるものでしかないからだ。
然らば、この作品はどうだろうか。無茶苦茶さの向こう側に、上に積み上げる基礎となる土台はあったか。破天荒の奥に、枝を張る太い幹となる芯はあったか。自由の先に、寄りかかれる不自由は得られたか。書き終えたその先に、新たな境界線は見えていたか。
言葉は、産まれたか?
私の感触は空転している。この上昇しない期待値を、今回のように度肝を抜く形で覆してくれることが一番の幸福なのだが。