狼と香辛料XV 太陽の金貨<上> (電撃文庫)

【狼と香辛料 15.太陽の金貨(上)】 支倉凍砂/文倉十 電撃文庫

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 ホロの故郷の仲間の名を冠す『ミューリ傭兵団』。彼らに会うため、ホロとロレンスは鉱物商・デバウ商会が牛耳るレスコの町を訪れることになる。
 デバウ商会は北の地で大きな戦を起こすつもりらしく、その目的は北の地の征服とも、鉱山のさらなる開発とも言われていた。そのため商会は町に武力を集めているというのだが、ロレンスたちが訪れた町には不穏な空気はなく、意外にも人々は活気に溢れた様子だった。訝しがるロレンスたちは、ミューリ傭兵団が滞在する宿屋を目指すことにする。そこで二人を出迎えた人物とは──?
 
 ヨイツの森はもう目前。北を目指す狼神ホロと行商人ロレンスの旅は、いよいよ最終章へ突入する──!


二人の旅も、ついに此処まで来たのかと思うと、ひらすらに感慨深い。ロレンスとホロ、二人の旅が始まったその当初から、旅はいつも終わるもの、とロレンスもホロも自分に言い聞かせるように繰り返してきた。それはまったくの真実でしかなく、彼らの言うとおり、二人の旅は今終わりを迎えようとしている。
でも、その旅の終わりは二人が思い描いていたカタチとは、随分と違うものになってしまった。果たして、ロレンスとホロは二人の旅の終わりがこんな結末を迎えるなど、想像していただろうか。いや、想像はしていたのだろう。ロレンスが、夜もふけた頃に将来持つ店の想像図を絵にして描いていたように。
だが、ホロもロレンスも、その夢のような結末を、望んではいけないものとしてそっと脇に押しやり、見ないふりをしていたのだ。叶ってはいけない夢物語のように。思い描けば苦しくなるだけの、現実から遠く離れたお伽話のように。

だから、これは叶ってしまった夢物語で、覚めない現実の上に顕現した御伽話になったのだ。

確かに、旅は終わるものかもしれない。でも、一つの旅の終わりは、新しい旅の始まりでもあるのだ。新しい旅が始まるとき、二人の進む先は別れているのだと信じていた彼らが、それが故に、今の旅が終わったあとの話を頑なに避けていた二人が、いつしか次の旅路にもお互いが連れ合いとして隣にある事を疑うことすらなくなり、ロレンスがヨイツに付いたその先の事についに踏み込んだ時、あの瞬間にこそ、私は実感したのだろうと思う。
この【狼と香辛料】が終わるのだと。正確には、読み手である自分の目の届く範囲から、遠ざかっていくのだろうことを、取り残されるような寂しさと、親しい人達が行くのを見送るような温かな気持ちと共に。
過去の繋がりのほとんどを失い、新たにまた、旧き友と永遠に再会が叶わないという事実に直面したことで、失意のどん底に陥ったホロ。だけど、ロレンスはそんな彼女につきっきりになって支え続けるのです。お前には、俺がいるのだと、無言で言い聞かせるように。
そんな彼の献身的な愛情に、ホロはやがて立ち直り、いつしか二人が語り合う内容は、ホロの懐旧や、これまでのロレンスとホロの二人の旅の思い出でもなく、これから先の話ばかりになっていく。もう、旅が終わるというのに、先のことばかりを。つい最近まで、先の話を必死に避けようとしていた二人が、過去の殆どを失ってしまったホロが、何の含みもわだかまりもなく、幸せそうな顔を付き合わせて、一緒に未来の話をしているのだ。二人で一緒の未来の話をしているのだ。
だから、終わるのだと実感しても、温かな気持ちになったのだろうと思う。この作品が結末を迎えて、読み手である自分が二人の新しい旅の先を見ることが叶わなくなっても、二人はもう、大丈夫なのだろう。そう、思えたから、だから。

北の地レスコにて、ロレンスとホロは今まで誰も見たことのない新しい時代が到来する瞬間に立ち会うことになる。過去の遺物として置き去りにされてやがて消えていくことを運命として受け入れていたホロの手を、ロレンスは力強く握ったまま離す事無く、自分と共にあることでホロを新たな時代の一員として迎え入れた。
ロレンスと居る限り、ロレンスを伴侶とする限り、ホロは既に滅び去ることが運命づけられた古き時代の遺物という括りからも、抜け出すことが出来たのだ。

「店の名前を考えておけ」
「仔の名前ではなく?」

共に生きるとは、きっとこういう事を言うのだろう。

だからこそ、彼らに訪れる最後の試練は、きっとホロを今を生きるヒトとして、一人の男を愛した女ではなく、滅び去るべき過去の時代の遺物、古き神として葬り去ろうとする意志なのかもしれない。
最後に現れた人物が、ホロとロレンスの旅の始まりに立ち会った人なのだとしたら……。



ロレンスさん、今回ホロのからかい抜きのマジな誘いを片っ端から振っちゃってましたよね。そりゃ、ホロも本気で拗ねるよなあ(苦笑
まあ、当人としては雰囲気にアテられて襲いかかったところ、手痛い反撃をくらってしまった前巻の終わりのアレがトラウマになってしまっていた節があるので、ある意味ホロも自業自得の節があるのですがw
というか、この二人が未だにいたしていない、というのは二人のやりとりからしても、ちょっと信じられないんですけど。

シリーズ感想